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喉が嗄れるくらいに叫ぶようです

 数多のスキルの中には、ただ所持しているだけでは効力を発揮しないものもあります。

 何故ならその発動条件は千差万別。

 実に様々なトリガーが必要となるからです。

 ナイアル様から授かった<霊的なりし啓示>の力により、

 多くのスキルを読み取る事で所有する私ですが、

 上記の様にスキルを発動出来ないものが幾つかありました。

 その中の一つが、盲目聾唖の按摩士ステラお婆さんの所持していた<思考伝達><共感連想>などの精神系スキルです。

 推測ですが、これらの発動条件には先天的な能力か環境的な処遇獲得が必須なのでしょう。

 言葉を発し自らの意志伝達をしっかり行える私にとって、これらのスキルの意義を本質的に理解する事は難しいからです。

 けど、今の状態。

 そう……テレパス系エスパーであるルシウス様とマインドリンクしてる今なら。

 これらのスキルを使う事が可能なのでは、と考えました。

 もし可能ならば私の信じれる最高の鬼札ジョーカーを切れる。

 分の悪い賭けでしたが、私は打ち勝つ事に成功しました。

 自爆技に近い先程の<超速脈動>は虚を突く陽動に過ぎません。

 本命は加速された時間の中での符理解な編成統合。

 超高速で編成された融合スキルにより、一瞬にして父様とガンズ様への思考共有に成功。

 私達の窮地を伝え救援を頼むことが出来たのでした。

 ただ一つの誤算は思考共有をすると浮かんだ意志がそのままレスなく伝わる事。

 娘を案じる父様の思考の数々に、いささかウンザリさせられました。

 面倒なので「(娘を思う愛の奇跡だ!)」とか思考を返して来る父様はガン無視です。

 クレバーに現状を尋ねてくるガンズ様に的確に応じ、救援を待ちます。

 後は如何に時間を稼ぐか。

 いかに英雄クラスの二人とはいえ、結界を擦り抜けここに到るまでには時間が掛かるだろうと思いました。

 しかしそこは規格外の二人。

 私の心配は杞憂でした。

 結界が強固な出入り口ではなく、直接地面に大穴をブチ開け侵入するという、

 あまりにもあんまりな方法で強行突破してきたのでした。

 これも全ては粉砕念動力スマッシュサイキックを持つというガンズ様ならではの遣り方です。

 だけど代償が無い訳じゃありません。

 墓所と霊廟全域を包みなく覆う結界は、

 効力を弱めるとはいえ出入り口以外にもきっちり張り巡らされていたからです。

 よく目を凝らせば、現れた二人の姿は満身創痍でした。

 そんな風になってまで駆けつけてくれた二人に、申し訳ない思いでいっぱいになります。

 

「父様……」

「叔父上……」


 声を掛ける私達に父様とガンズ様が振り返ります。

 命があるという事に安堵したような表情を見せるも、

 二の腕から先を失った私を再度確認し、厳しい顔をします。

 そして頷き合い顔を見合わせると私達に取り出したクリスタルを叩き付けます。

 次の瞬間、私達を包囲するように取り囲む魔力障壁。

 莫大な演算を自動的に計測するそれは、貴重な過去の遺物である<転移の水晶>です。

 転移するまでに時間が数十秒程掛かるものの、

 いかなる場所であろうと対象者を安全域まで転移させてくれる優れものです。


「何で、父様!?」

「どうしてだ、叔父上!?」


 水晶により生み出された転移障壁に阻まれ外に出る事は叶いません。

 でも声は届きます。

 私とルシウス様は必死に障壁を叩き尋ねます。


「すまない、ユナ。

 だが分かってほしい」

「そうじゃ、ルシウス。

 残念じゃがワシらの戦闘力を以てしても、あ奴に通用するかは分からん。

 ここは逃げ延びてくれ」

「嫌です、父様!」

「余も嫌じゃ、叔父上!

 ここは共に」

「もう時間がない。

 ルシウス……ワシは信じておるぞ。

 いつの日か、王冠を抱き民を導くお主の未来を」

「叔父上……」

「配慮が欠け至らずに申し訳なかった、ユナ。

 わたしは……あまりいい父親ではなかったな。

 我儘も言わず健やかに育ってくれてありがとう。

 お前は……マリーとわたしの自慢の娘だ」

「父様……そんな……

 それじゃ、まるで……」


 しゃくりあげる私に父様がにっこり微笑みます。


「これからも強く育ってくれ、ユナ」

「嫌……嫌ですよ、父様……

 母様に続いて父様まで失ったら私は……」

「さ~て。

 ……そろそろ良いかのう?

 妾もお情け頂戴の展開には厭いてきたわ」

「来るぞ、カル!」

「おうっ!」

「叔父上! 叔父上っ!

 嫌だ……こんなのは嫌だああああああ!!」

「父様ああああああああああああああああ!!」


 慟哭する私達の前で、

 転移障壁は無情にも閉ざされます。

 白面の者に立ち向かう二人の背中。

 それが私の覚えている最後の記憶でした。




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