説得らしいです
万物に宿る精霊。
その精霊を使役し、自らの望む在り方を具現化するのが精霊魔術です。
ミスティ兄様は精霊を統べる聖霊の寵愛を受けてるとのことで、僅か7歳にして自在に精霊を操ります。
今も精神を司る精霊<影の精霊>に命じ、物質界とは異なるアストラルサイドからの干渉を掛けた……みたいです。
膨大な魔力で強化された筋力も、シャスティア・ノルンという存在そのものに掛けられた呪縛には敵わないようです。
生憎私は魔術の才能が無い為分かりませんが、ミスティ兄様の術でシャス兄様が身動きを取れないのは確かですし。
……本当に危ないとこでした。
ミスティ兄様の抑止があと数瞬でも遅れてたら汚い花火が咲いてしまったとこでしょう。
はあ……良かった。
シャス兄様が殺人者にならずに済んだ。
安堵感に力が抜け、思わずその場に跪いてしまいます。
けどシャス兄様は納得いかないようでした。
動かない身体を総動員し、ミスティ兄様に喰って掛かります。
「……術を解いてくれませんか、兄さん」
「ん~? んー……駄目だな」
「何故です!?」
「シャスが冷静さを失ってるから」
「だってあいつは……
あいつらは母さんを侮辱したんだ!」
「そうだな」
激昂するシャス兄様。
規格外の魔力が強引に束縛を打ち破っていきます。
無論そんな力に子供の身体が耐えれる訳もなく、
ブチブチ……
ビキビキ……
と、あまり耳にしたくない音が響きます。
あわわ。大変です!
「それが分かっていながら、兄さんは何故そんなに冷静なんですか!
悔しくはないんですか!?」
「あー……まあ、な」
「だったら何故!?」
「なあ、シャス」
「……はい」
「お前さ、お前がそんな事して……
ホントに母さんが喜ぶと思うか?」
「あ……」
「母さんも父さんもいつも言ってるだろ?
力の意味を考えろ、って。
俺達が持ってる力はさ……こんな憂さ晴らしに使うような、ちっぽけなもんじゃないだろ?」
「兄さん……」
「まあ俺は兄貴だからな。
一応は止める。
でもこれを聞いても続けるなら、それはお前の意志だ。
好きにするがいいさ」
「……すみません、兄さん。
ボクが馬鹿でした。
あんな安い挑発に安易に乗ってしまって」
「いや、家族の事を持ち出されたら誰だってそうなる。
気にすんな。
ただ、自戒し自覚しろ」
「はい」
シャス兄様の返答に満足したのかミスティ兄様が指を鳴らします。
次の瞬間シャス兄様の束縛が解け、力余った兄様はたたらを踏みます。
兄さんが歩み寄り、その頭をワシワシと掻き回します。
「お前はまだガキなんだからさ、ガキはガキらしく素直に甘えろ。
変にいい子ぶらなくていいぞ」
「……子供なのは兄さんも一緒でしょ」
「俺は精神年齢高いからいいの。
子供は子供でも(仮)だからさ」
「何ですか、それ。ふふ」
「お、やっと笑ったな」
「兄さんの悪ふざけには頭が下がりますよ」
「ならいいさ。
それとユナ!」
「ひゃ、ひゃい!?」
事態の推移を見守っていた私。
いきなり声を掛けられたのでびっくりしちゃいます。
「助けにくるのが遅くなって悪かったな。
ちゃんとシャスを止めようとしたな? 偉いぞ」
「いえ、その……」
あう。
天使の様に可愛らしい顔でマジ褒めされたら照れてしまいます。
「さて、後はこいつらの処分か……」
ミスティ兄様の目線の先ではゴーダとズーネヲが身体を震わせています。
シャス兄様の鬼気に当てられたのもありますが、ミスティ兄様の術によって束縛されてるのです。
「お、オレ達に手を出したら親父が黙っちゃいないぞ!?」
「だっせーな、お前。いきなり親の話かよ。
男ならちゃんと自分の力で語れよな。
それにシャスも言ってたけどさ……ノルン家を敵に回したんだ。
ただで済むと思うなよ?」
「ひっ」
「兄さん、ボクが言っても説得力はありませんが、暴力は……」
「ん? ああ、分かってるって。
お前もユナも頭が固いな。
父さんが言ったのは術法等によって誰かを傷付ける事だぞ?
これぐらい(影縛り)なら心身に影響はないさ。
それにな、世の中には……
死より恐ろしい事がある事をこいつらに教えてやらないとな」
「「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」」
意地の悪い思案顔で笑うミスティ兄様。
その瞳に何を見たのかゴーダ達は絶叫し、そして絶望するのでした。
ミスティ兄様によって村外れに引き摺られていく二人。
哀れなその姿を見ながら、私は内心黙祷を捧げます。
合掌。
……その後しばらく、精神に傷を負った二人は家に引き籠ったそうです。
性懲りもなくすぐに復活したらしいですが。
私は改めて母様とミスティ兄様は敵にしてはならないと誓い直すのでした。
動けない様に束縛後、裸で野晒し(落書き付き)。
年頃の少年には堪える仕置きです。




