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限界を超えて臨む意志のようです

 災害級や戦術級、並びに戦略級とは文字通り<歩く災厄>に名付けられた類別のカテゴリーです。

 天空を駆け、紅蓮の焔で村々を焼き払い辺境を蹂躙していた赤竜。

 迷宮を構え、死霊魔術によって呼び出した意志無き軍勢を繰る死霊王。

 その中には支配魔術を自在に操り、一国をも滅ぼし掛けた精神魔術師なども含まれます。

 残念な事に、これらの災厄には国家が持つ武力、軍隊が役に立ちません。

 自在な機動力を持つ相手には速さが及びません。

 狭い迷宮では動員できる人数に限度があります。

 集団行動では誰が精神支配を受けたか不明です。

 よって対処は比類なき戦闘力を持つ勇者や英雄クラスの出番となります。

 並みの冒険者の10倍以上の力を誇る彼等。

 しかし恐ろしいのは、そんな彼等でさえ、時には敗北するということ。

 勿論正面切っての戦闘となれば話は別です。

 特記(突起)戦力にて人を突出した勇者達なら善戦出来ます。

 だが奴等は老獪です。

 決してまともに戦わず、常に搦め手を使ってきます。

 普通に戦っても充分勝算があるというのに。

 用心深く執拗で偏執的な意志。

 人が生み出した最大の武器が知恵(スキル・魔術・計略)なら、

 奴等<歩く災厄>たちもまた狡知に長けているのです。

 だから一般人に出来る一番の対応は近付かない事。

 天災の様な暴風が吹き去るのをただ隠れてやり過ごすのが一番です。


(と、言っても先方から来た場合は意味がありませんが……)


 私は唇を喰いしばりながら、右手に持った箒を切り飛ばされた左腕の断面に押し当てます。

 癒しの力を持つリューンの体毛から作られた尻尾飾りを核とした退魔虹箒は微弱ながら癒しの力を持ちます。

 瞬時に癒す事は叶わないものの、どうにか出血を止める事に成功。

 出血死の危険性もあった為、これは朗報です。

 無論、失った腕を再生する事は出来ませんが。

 更に抗醒闘衣による<損傷鎮痛><精神高揚>効果等により何とか動く事は出来そうです。

 震えて萎えそうになる脚に再度活を入れ姿勢を支えます。

 そんな私を泣きそうになりながらも懸命に支えてくれるルシウス様。

 焦燥を抱きつつも安否を気遣う労わりと自戒。

 親しくなった私を失うかもしれない恐怖。

 繋がった心から、痛い程の想いが伝わってきます。


(大丈夫ですよ、ルシウス様……

 私、まだ頑張れますから……)


 苦しく辛い時にこそ笑う。

 拙いながらもノルン家の矜持に身を任せ、私は強引に唇を歪ませます。

 そして私達を面白がる様に観察してる九尾の狐に正面から向き合います。

 何かを興じる様な好奇心に溢れた顔。

 律儀に私が立ち直るのを待ってくれてたようです。

 深呼吸をした私は、気持ちを切り替え口を開きます。


「お待たせ、しました」

「いやいや。そんなことはないぞ、娘子。

 随分と愉しませてもらった。

 今世の人族は面白い業を扱うみたいじゃな。

 しかもまだ何か引き出しがあるじゃろう?

 妾が主様復活の為、そこな槍王の命を頂く前に……

 もっと妾を愉しませてみよ」


 弱者を踏み躙り、弄ぶような稚気。

 そこに嗜虐性はありません。

 ただ自分が優位に立つ者からの当然の権利を主張する宣言。

 からかうようなその言葉が、私の心に火種のように闘志を燈します。

 いいでしょう。

 貴女がその気なら、私は限界を超えて挑んで見せます!

 絶対的な戦闘力差に屈せず、私は災害級との戦いに臨むのでした。




 

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