怯えて恐怖に竦んでしまうようです
生臭く饐えた空気。
薄暗い明かりに照らされる霊廟へと続く地下墳墓。
命を終えた者達が練り歩く現世と幽界の境界。
封印を何事もなく抜けた私達の前にあるのは、そんな怪異なる景色でした。
「良いか、ユナ。
先程も言ったが、余の力で周囲に精神干渉結界を張る。
これで心を持つ存在ならある程度は退ける事が可能だ。
だが余の力も万能ではない。
精神感応の能動的な発信により不干渉を掛ける事が出来るが、
逆に言えば心無き木偶達には余の力が及ばない。
そこでお前の力が必要だ。
お前の力、退魔虹箒だったか?
魔を祓い清めるというアレならば、問題なく対処できる筈……
と、何をしてる?」
「ふえっ?!」
「何で余の袖を掴んでいる。
何故、余の背に隠れようとする。
照明役の余が後衛。
お前は前衛だろ?」
「は、はいぃ!」
指摘するルシウス様の言葉にガクガクと首を振る私。
もう、何て言うか生返事な感じです。
だって仕方ないじゃないですが。
誰が何と言おうと、ユナティア・ノルンは……
「ふむ。
もしかして……ユナよ」
「はい……」
「怖いのか?」
「ひうっ!
そ、そんな訳ある訳ないじゃないかと思いますもすkjhgfs」
「いや、余は心が読めるので虚勢は無意味なのだが」
「うっ、確かに」
「では正直に申せ」
「……え~っとですね」
「うむ」
「この雰囲気が……何て言うか駄目です。
ダメダメですぅ~~~~!!」
恥も外聞もなく半泣きする私。
そうです。
久しく忘れてました。
裏賀田悠奈であった頃から私はこういうものに耐性が無いのです。
両親に連れて行ってもらった遊園地のお化け屋敷で腰を抜かした事もあるし、
テレビの心霊特集を観て気を失った事もあります。
「そうだったのか」
「はいぃ~~申し訳ございませんんん”(涙)」
「参った。
確かに本心から脅えているな。
これでは予定した通りには……むっ!」
身体を強張らせ警戒するルシウス様。
魔導照明に照らされる先、錆びた剣を持った骸骨や魔物のゾンビがいました。
っていうか、積極的に新しい仲間を迎え入れようと蠢いています。
「死を迎え心無きあいつらには余の力が効かん。
頼りのユナがこの状態だし、ここは改めて出直すし」
ルシウス様の言葉を最後まで聞くまでもなく。
私は全力で駆け出してました。
瞬間、私を中心とし展開されていく意識の防御壁。
顕識圏と名付けたそれは複合スキルの賜物。
外敵を察知し、
対処を判別し、
有効な対抗手段を編成する。
スキルを数多所持するだけでなく更にエンドレスグローリーで急成長できる私にとって、まさに多種多様なる可能性を引き出す事が出来る呼び水です。
顕識圏により判別し、対象の脅威度がすぐさま脳裏に浮かび上がります。
敵対数:傀儡級死霊眷属37体。
脅威度:D~Cクラス。
属 性:冥。
対 応:抗毒・抗死防御、祓魔業式の一段階解放。
耐性ならび障壁付与<毒><冥>
顕 醒:退魔虹箒による浄化系封滅業式の顕現。
多重付与術式による抗醒闘衣の具象化。
身体機能向上等の強化支援。
大した事はありません。
数は多いも、はっきりいってしまえば雑魚です。
トップスピードを維持したまま、
私はリューンの尻尾飾りを核に退魔虹箒を具現化。
奴等の中心に飛び込んだ私は、鮮やかな煌めきを放つそれを振りかざします。
迸る白き聖なる浄化の力。
「ノルファリア練法<旋風>!」
風車の様な猛回転の後、抵抗すら許さず場にいた敵は全て消え去ってました。
具象化された抗醒闘衣が魔法少女の衣装のようにヒラヒラと舞い上がります。
「ふうっ」
「ふうっじゃないわ!」
「あいたっ!
もう~何をするんですか、ルシウス様!」
駆け寄って来るなり、跳び突っ込みをしたルシウス様が頭をはたいてきます。
後頭部を押さえながら、私は思わず抗議します。
「それはこっちの台詞だ、ユナ!
先程まで恐怖し竦んでいたのではないか?
何故そんな勇壮に立ち回れる!?」
「え?」
「だから……怖くないのか、敵が!?」
「怖くなんかないですよ。
だってただのスケルトンにゾンビですし」
「いや、それはそうなのだが……
お前は酷く脅えていたではないか。
アレは嘘ではない、本心からだった」
「あ……
あ~~!
それはですね、ルシウス様の勘違い……
いえ、読み違い? です」
「読み違い?」
「そうです。
私が恐れを抱くのは想像力を駆り立てるこういった如何にもな『雰囲気』です。
昔からこういうのが苦手でして。
ほら、私って妄想逞しいですから(てへ★)
ただのモンスター相手なら死霊だろうが何だろうが遅れを取りませんよ」
軽くガッツポーズを取りVサインをして見せます。
しかし私の返事にルシウス様は拍子抜けしたような表情を見せながら、何かを呟いてます。
「それならそうと早く思えばいいではないか……
いざとなれば男である余が身を挺して庇わねばとか決意したのが馬鹿みたいではないか……(ボソボソ)」
「ルシウス様?」
「何でもない!
さあ行くぞ!」
何故か不機嫌そうなルシウス様。
私は小首を傾げながらその後を慌てて追うのでした。




