気丈に装う横顔にドキドキのようです
王位継承者が虚ろなる幻魔にすり替えられた。
改めて聞いても衝撃の告白です。
王制を統治する立場に関わる者が内通者であるというのは、
組織にとって絶大なアドバンテージを誇ります。
直接的な支援は勿論の事、
機密情報の漏洩、
流動市場の操作など、間接的な意味合いでも大きいです。
更に脅威なのは軍備に指示を出せる事。
平時に限らず、兵というのは駒です。
与えられた指示には忠実に従うよう訓練されてます。
そうでなければ狂気と混乱が支配する戦場で団体行動を起こせません。
けどそれ故に上役の指示を愚直に叶えてしまうのです。
これが如何に恐ろしいか想像できるでしょうか。
テロ組織に組みする権力者によって放たれた軍令。
想定以上の悲劇と惨劇が待ち受けてるに違いありません。
私も事前に父様達の会話を聞いていなければ驚愕してしまったでしょう。
それほどインパクトのある告白でした。
しかしそれを私に告げたルシウス様は、急に重く口を閉ざしてしまいました。
色々思う事はあるのでしょう。
まして母が違うとはいえ、血脈に連なる兄上の話。
気安い慰めなど却って厭わしいでしょう。
だから私は無言でルシウス様の手を引き霊廟へ導きます。
この想いが伝わると知っているから。
最初こそ躊躇するようなルシウス様でしたが、顔を上気させながらもやがて年齢相応の覇気ある足取りになります。
やがてさほど時間も掛からず、地下墳墓に着きました。
薄暗い闇を照らす仄かな明かりの中、その姿が不気味浮かび上がります。
「ここが……」
「はい。禁忌の洞窟の裏、封ぜられし地下墳墓。
とこしえの霊廟です」
さっと魔導照明を向けます。
入口に厳重に封ぜられた多種多様結界。
破壊されても地脈から力を吸い取り自ら再構成する優れものです。
先代勇者パーティの賢者が命を懸けて施行したものというだけの事はあります。
「これでどう潜入するのだ?
余はあまり魔術には詳しくはないが、
あの結界が並大抵のものでは無いという事は理解出来るぞ」
「通常ならS級冒険者でも潜入は不可能です」
「なっ! では、どうするというのだ?」
「よって裏口というか……裏技を使います」
「裏口……だと?」
「はい。霊廟へ向かう出入り口から外れた右脇の通風孔。
実はそこが結界の繋ぎ目となっており通行可能です。
ちょうど結界同士が干渉し合うので凪の状態なのですね。
しかしここにも他者の手により封印がされてるのである程度制限が掛かります」
「何だ、それは?」
「具体的にいえばレベル制限ですね。
90レベルを超える様な存在程、強固に反発する障壁が張られてます。
これによって内側から結界が食い破られるのを防いでるのです。
まあ最上層にはそんな輩はいないみたいですが。
勿論強引に突破する事も可能です。
が、代償はかなり大きいでしょう」
この中途半端な障壁が父様の枷となってるのです。
通常なら何事があっても父様クラスが本気になれば事が済みます。
でもこの霊廟のある地下墳墓だけは別です。
闘刃の異名を持つサムライ職の父様ですが、障壁には敵いません。
内部に潜入するたびに大怪我を負っていたのでは身体がもたないからです。
この障壁が及ばないのは具体的にはA級まで。
元とはいえS級の父様には負担が重過ぎます。
「なるほど。その様な仕掛けがあるのだな。
ならば問題あるまい。
余はどう見ても高レベルには見えまい?
ユナも同じく、だ」
「はい。私達なら問題ないですけど……
本当に行かれますか?
引き帰すならこれが最期ですよ?」
「くどい。余は決断したことを覆さぬ。
まあ心配するな、ユナ。
意志ある雑魚なら余の力で退ける。
それ以外の意志無き傀儡達の相手を頼むぞ」
「はあ……何を言っても聞かれないのですね(もうっ)
ならば分かりました。
私で良ければ、お供致します」
「うむ」
瞳を見合わせた私達は決意を新たにします。
繋いだままの手を引き、導く私。
こうして私とルシウス様は霊廟に繋がる地下墳墓に足を踏み入れるのでした。
そこに待ち受ける哀しい運命を知らずに……
とかいうとホラーやオカルト系の死亡フラグっぽいですね。
前言撤回しときます。
ルシウス様(天使っぽい悪魔)と手繋ぎ~♪
強がりながらも微妙に脅える横顔~♪
これは萌えますね(うひっ★)




