天使の顔して心は悪魔のようです
「うう……汚されたぁ……
汚されちゃいましたよぉ……
もう、お嫁にいけません……(えうえう)」
「人聞き悪い事を言うな。
少し余の趣向に付き合わせだけではないか。
それにもし貰い手がいなかったら……仕方ない。
余が妃に迎えてやる」
こっそり移動した自警団倉庫。
しゃくり上げながらダンジョンに潜る用意をする私に、
ルシウス様が呆れた様に慰めてきます。
「……本当ですか?
ホントに傷物でも貰ってくれるですか?」
「まあ将来の状態によるがな」
「状態?」
「うむ。余は容姿などにはこだわらん。
特に心が読める余にとって外見などは評価に値せぬ」
「はあ……」
「だが、内面は別だ。
精神と云うか……心にこそ、その者という在り方が強く出る。
強き心は強き者に。
清き心は清き者に。
これらを踏まえた場合のユナの心だが……
お前には良くも悪くも裏表がない。
喜怒哀楽がしっかりしてるというか、善を尊び悪を憎む。
実直というか、愚かしいまでに素直なのだな。
仮面を被る事はあるも、それも人格を形成する一面だろう」
「……それって褒められてるんですか?」
「無論だ。
ユナの様に生きられる人間はなかなかおらん。
皆、どこかで折り合いをつけ自分を誤魔化していくからな。
そういう意味でお前は純粋なのだろう」
「う~ん……少し照れますね(えへ)」
「しかし無垢ではない」
「えうっ!?」
「お前が突発的に抱く邪な妄想は何とかならんのか?
余だけに留まらず、お前の兄やらレカキスの娘やらを巻き込んで内面世界はかなりの混沌っぷりだぞ?」
「それは……いわゆる乙女の嗜みでして★」
「いらんわ、そんな嗜み。
ともかく! ……流石に寛大な余でも、
これ以上ユナの妄想が進化する場合は付き合いきれんからな。
その場合は王族たる者の特典、権力を使って上手い事陥れよう」
「なんて……こと……」
天使の顔して心は悪魔。
私と一緒に作業するルシウス様の唇は愉しそうに歪んでました。
あれ、私の瞳からダバダバと流れる水は何?
汗にしては多過ぎますね(涙)
ぼやけて滲む視界を袖で拭き、私は半泣きで作業に戻ります。
今はダンジョン探索に必要な物資を詰め込んでるとこです。
ザイルに簡易照明。
非常食に各種探索装備。
大きめのリュックサックはいつの間にかパンパンになってました。
「よし、こんなものだろう。
これ以上は行動に差し支えが出る」
「ですね」
二人でリュックを背負い、防寒ベストを羽織りブーツに履き替えます。
「どうだ。似合うか?」
「ええ。熟達の冒険者みたいです」
「ふん。世辞でも嬉しいものだ。
ユナも良く似合うぞ」
「フフ……ありがとうございます」
顔を見合わせ綻びながら私達は最終点検を行い合います。
「よし、こんなものか。
早く出るぞ、ユナ。
レカキス家の娘はともかく、英雄クラスのあの二人に掛けた認識阻害が通用するのはおそらく以て明朝まで。
それまでにはダンジョンに突入せねばならん」
「了解です、ルシウス様。
ただ……ひとつだけいいですか?」
「何だ?」
「聖鏡を王宮に持ち帰り、何をなさるのです?」
「……二人の話を聞いておったのだろう?」
「はい。王宮に虚ろなる幻魔が潜り込んだ、と。
それならば然るべき筋に手を回し対応すればいいじゃないですか。
何もこんな博奕みたいな手を取らなくても」
「それは……出来ん」
「何故です?」
「何故ならば……ユナ。
余が王家固有の<思念具象>能力……<精神感応>で感知した虚ろなる幻魔、それは」
「それは?」
「余の異母兄弟。
側室とはいえ父上の子である、
王位継承権7位を持つカエサル兄上なのだから」
獅子身中の虫。
身内の中に潜む悪意。
鬱屈そうな表情で私に語るルシウス様は、
悲愴感だけでなくどこか疲れた様なニュアンスを漂わせていました。
ルシウスの天然どSっぷりを楽しんで頂ければw




