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ありのままの自分を見せるようです

「無様な姿を晒したな。許せ」

「そんなことは……」

「大丈夫だ。

 余は父の庇護の元とはいえ、誰にも頼らず生き延びてきた。

 これまでも、これからも。

 今は翼を休める為にユナに舞い降りた鳥みたいなものだ。

 疲れが癒えればすぐに羽ばたかせ飛び立つ」

「あまり無理はしないで下さい。

 ルシウス様がご自分の年齢以上に己を律してるのは分かりますから。

 ……よろしいのですよ?

 私で良ければ……」

「フッ……ユナは優しいな。

 お前が建前でなく本音で話している事はきちんと伝わってくる」

「なら……」

「だが、な」

「えっ?」

「その優しさは人によってはアダとなる事を知った方がいい」

「……以前、他の者にも言われました。

 そんなに駄目でしょうか? 私って」

「そんな事は無い。

 実際ユナに救われてる者は数多くいるだろう。

 されどそれは諸刃の剣なのだ」

「諸刃……?」

「そう。何故なら人は誰もが強い訳ではない。

 余は弱い人間だ。

 だからこそ己の弱さを自覚し、誘惑に屈しないようにしている。

 誰も彼もがユナの様に克己心がある訳ではないのだ。

 もしユナに甘えたら歯止めが効かなくなるかもしれん。

 最悪、依存してしまうかもしれない。

 他者を巻き込まぬ事を亡き母に誓った余にとって、

 それだけは避けなければならない」


 しばしの間の後、

 泣き腫らした顔をハンカチで拭こうとした私の手をそっと遮り、

 ルシウス様は気丈にも言い放ちます。

 それが本音ではなく、おそらく強がりということは痛い程伝わります。

 けどルシウス様は今までそうやって生きてきたのでしょう。

 誰にも頼らず、一人で。

 だから私はルシウス様の意見を尊重します。

 見ない振りをするのではなく、ルシウス様の事を信じる事で。

 信じる、や頑張る、というのは気軽に言いやすい言葉です。

 でも掛けられた当人にはそれとないプレッシャーになりやすい傾向があります。

 心理的抑圧は視えない枷となるからです。

 繰り返されるそれは最早呪いといっても過言ではありません。

 しかし頑張り続けてきたルシウス様にとっては日々が緊張の連続。

 拙いタイトロープ……命さえ失いかねない綱渡りの毎日。

 ならば今の私に出来る事は、それでも前を歩むという意志を信じる事。

 ルシウス様が一番欲してるのは優しい抱擁ではなく、

 自分を信じ、

 背中を守り、

 そっと支えてくれる存在でしょうから。


「そうだな。ユナの思っている通りだ」

「はい」

「だが礼を言わせてもらおう。

 ありのままの自分を素直に見せるのは気持ちいいな。

 誰かの顔色を窺う訳でなく、向き合う。

 人とは本来こうやって語り合うものなのだな。

 久しく忘れていた。

 感謝するぞ、ユナ」


 私の瞳を慈しむように見つめながら、からの~天使の微笑み。

 ズキューン!

 あやしい擬音を幻聴した気さえしながら、私はメロメロになります。


(や、ヤバイです!

 正直可愛過ぎですってば!

 これは是非お持ち帰りせねば……)


 込み上げてくる鼻血を押さえ、

 ルシウス様に背を向けゲスい事を考えてると、


「ハッ!」


 冷たい視線を背後に感じた私は、慌てて振り返ります。

 そこには氷の様に冷めた眼差しをしたルシウス様が呆れた顔で立ってました。

 やだ……私の思考(妄想)ダダ漏れ……?

 昔見た、年収広告のようなノリで取り繕います。


「お前という娘は……(はあっ)

 せっかくいい事を言っていたのに。

 王族である余に萎縮しないのは感心だが、

 年頃の娘としてそれはどうなのだ、ユナよ?」

「てへ★」

「可愛くないわ!(こつん)」

「あいたっ。

 もう~ルシウス様は乱暴ですよぉ」

「年端もいかぬ余に対し何を考えておる!

 余以外なら、王族に対し不敬罪にも程があるぞ!?」

「そこはまあ……年頃ですし(ペロ☆)

 バレないよう、上手く隠しますし」

「恐ろしい娘だな、お前は!

 物怖じしないというか、胆力があるというか。

 まあ良い。

 ……これからの事を考えれば好都合だ」

「へ?」


 真剣な面差しのルシウス様。

 思わず居住まいを正します。

 幾分か躊躇した後、ルシウス様は意を決した様に口を開きます。


「ユナよ」

「はい!」

「折り入って頼みがある」

「は、はい!

 何で御座いましょう?」

「余と一緒に霊廟に潜ってくれぬか?

 失われし王家の秘宝、

 聖鏡イデアリフレクターの力を借りる為に」


 さらっと告げるルシウス様の無理難題。

 私は笑顔が引き攣るのが自覚出来ました。




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