醒めない悪夢の始まりじゃないようです
数多の勇者を打ち倒してきた魔城コキュートス。
魔王に囚われた私は玉座の背後、氷の寝台に横たわっていました。
氷の寝台には呪いが掛けられてます。
それは横たわった者は自らの意志では起きる事が出来ないというものです。
魔王は私が心変わりをするまでここに縛り付けるのでしょう。
可憐な乙女である私には抗う術はありません。
けど、不思議と怖くはありませんでした。
何故なら……
愛しの王子様が、すぐそこまで来てくれてるのですから☆
魔王が立ち塞がるでしょうが、王子様は強い(筈)。
きっと撃退してくれます。
そしてその後に優しく訪れるのは解呪の儀式。
即ち、抱擁と口付け。
うきゃああああ~~~(><)
私ってば襲われてしまうのでしょうか?
でも王子様ならいいかも♪
オオカミさんな王子様もワイルドですよね?
何だかほっぺが高揚してきた気が……
でも一生懸命な王子様に対し、こんな考えは不謹慎ですね。
反省した私は深く瞼を閉ざしながら、目覚めの時を待ちます。
やがて耳に入る微かなざわめき(戦闘音)。
……少し豪快な高笑いや何かを粉砕する破壊音が聞こえた様な気がしますが……
きっと気のせいでしょう。ええ。
だって王子様はすぐそこまで近付いているのですから。
「おお! ここにおったか、ユナよ!
方々を探したぞ」
ちょっと野太い王子様の声。
けど、安堵と歓喜の混じった声と共に私は抱き上げられます。
ドキドキ
鼓動を刻む、ハート。
震える血液のビート。
押し寄せる至福。
多幸感に包まれた私はゆっくりと目を開け……
そこで固まります。
何故なら視界にいたのは、
繊細で華奢な美男子ではなく、
ガチでムキムキな肉体美を晒け出す……
「ぬわははははははははは!!
たかが魔王ごときでこのワシを止められると思うたのが間違いじゃな!
この<剛腕>のガンズルディアを止めたくば軍隊か古代竜でも持ってこぬか!!
なあ……お主もそう思うじゃろ? ユナよ」
漢臭い笑みが漂う、髭がモジャモジャの!!
「筋肉!!」
意味不明な単語を叫びながら、ベットから跳ね起きる私。
暗闇の中、前方に突きだされた自分の手がボーっと見えます。
え?
……いない!?
ゆ、夢?
今までの出来事は……夢?
夢オチ?
その認識に思わず胸を撫で下ろします。
でも……本当に夢オチだったのでしょうか?
実は「醒めない悪夢の始まりだ~ヒャッハー」とかで、
ベットの底から筋肉がそそり出て来たりはしませんよね!?
疑心暗鬼に駆られた私は、よくあるフラグを回避する為、警戒しながらシーツを被り気配を窺います。
……何も起きません。
ふう。どうやらホントに夢を見てただけの様ですね。
心からの安堵にどっと疲労が襲ってきました。
「ハアハア……」
極度の緊張から解放されたせいか、
肩で吸い込むような息継ぎ。
呼吸が荒く、しばらく頭が真っ白になります。
そんな中、ふと気になるのは辺りが真っ暗闇に近い事。
ここは……!?
薄暗い室内に暗視スキルがすぐさま順応。
適応した瞳により周囲を見通せるようになった私はすぐさま気付きます。
私の……部屋?
先の騒動で補修箇所が目立つものの、見慣れた小道具の数々。
どうやら気を失った私を自室のベットへ横たえてくれたのでしょう。
……ファル姉様が。
いや、決して第7王位継承者様がしてくださった訳じゃないと!
下賤な身分の者を王家の方が触る筈ないですよね、ええ!!
熱く拳を握り力説する私。
しかしその前にやらなければならないことがあります。
手じかなランプに火を燈した私はブラシを持つと、
寝癖のついた髪を梳き軽く身支度を整えます。
窓を見ればすっかり日は落ち、星が瞬いてました。
我ながら随分と長い事気を失ってたみたいですね。
まずは御迷惑を掛けた事を皆に謝らなきゃなりません。
特にルシウス様です。
数々の無礼を快くお許しいただいただけでなく、
冗談とはいえ専属うんぬんと好意を以て応じてくれましたのに。
(はあぁ……
私ってばまだまだ駄目駄目ですね……)
溜息をつきながら、明かりの点いてる応接間のドアにノックを仕掛けた際、
「暗殺?」
「ああ……」
廊下に零れる父様とガンズ様の声。
その会話から飛び出た不穏な単語。
驚愕した私は思わず、その場で彫像の様に立ち尽くすのでした。




