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多くの人達に囲まれて果報者のようです

 端正な容姿が残念なくらいズタボロになったリューン。

 たまにピクピクと痙攣するところを見ると、どうにか命は取り留めた様です。

 横目で兄様とネムレスを窺うと共に神妙な面差し。

 報われぬ彼の魂の安寧を祈ります。

 合掌。

 な~む~。

 一方、父様は刀身に付いた血を振り払うと、

 溜息を尽きながら納刀します。


「またつまらぬものを斬ってしまった……」


 後悔するような独り言。

 峰打ち云々はどこにいったのでしょう?

 深く突っ込むと負けな気がするので止めときます。

 それよりも今追及しなくてはならないのは……


「父様!!」

「お~愛しいユナ。

 性犯罪者は撃退したよ。安心するがいい」

「安心するがいい、じゃありません!

 いったいどうするんですか、これ!?」


 私は半ば天井が崩落し、リューンごと突き捲くられたお蔭で穴だらけになった床の惨状を指差し嘆息します。

 あ~お気に入りのタペストリーは埃被ったし、

 綺麗に編んだ花飾りはボロボロだし……もうっ!!

 沸々と湧き上がる激情。

 あ、これは怒りですね。

 むむ……父様、赦すまじ。


「大体何ですか、三日前から天井にいたって!」

「いや、その……

 ユナが心配なあまり、つい暴走して……」

「そういうところがデリカシーがないんです、父様は!

 しばらく口も利きたくありません!」

「そ、そんな……」


 この世の終わりみたいな顔をして嘆き苦しむ父様。

 でも同情はしません。

 まったく実の娘にストーカーまがいの行為をするなんて……

 しばらく猛省すればいいんですよ。


「それは少し厳し過ぎるのではないか、ユナ」

「師匠の言う通りだよ、ユナ。

 父さんも悪気があった訳じゃないし、

 ここはちょっと大人の心で……」

「あん?」

「うん。大人の心で深い罰が必要だね(ハハ)」

「まったくだな、シャス。

 もっと厳しさを増しておいた方がいいんじゃないか?

 ……俺達に被害が及ばない程度に(ぼそっ)」


 ねめつける眼光に何を見たのか急に愛想笑いを浮かべる二人。

 こういう所は無駄に師弟で似通ってる気がします。

 怒る気力もなくした私は取り敢えず周囲の片づけをしようとして身を屈めます。

 その時、耳に入るのは玄関から騒がしく歩み来る複数の足音。

 はて、こんな時分にどなたでしょう?

 答えはすぐに出ました。

 満面の笑みと手に余るほどのお菓子と花束を持って。


「ユナ~具合は大丈夫か?」

「お見舞いに来てやったわよ~」

「ユナちゃ~んお邪魔しま~す」

「わ~凄くひろーい」

「あれ? でも何でボロボロなの?」


 ワキヤ君、クーノちゃんコタチちゃん達を含むアズマイラのメンバー。

 皆は半壊した部屋を不思議そうに見渡します。

 更には、


「大丈夫かい、ユナ。

 ほらアンタもちゃんと見舞いなよ」

「うっ。

 ……あ~ユナ。

 早く元気だせ。

 看板娘がいないとな……寂しいもんなんだ」


 ジャレッドおばさんに急き立てられ、赤面するゴランおじさん。

 他にも、


「ゆ、ユナたん!!

 ……凄く、凄く心配したんだよ!?

 三日も病床に耽るなんて聞いたからさ(うぐっ)」

「あ~ほら、泣くな泣くな。

 まったくフォンは涙もろいな。

 よっ! こないだはどうも」

「ちゃんとお礼を言えよ、クヨンは。

 本当に口が悪いな(はぁ)。

 あ、ユナちゃん。

 夏祭りの時はありがとう。

 お蔭で手の方も回復したよ」


 共にエクダマートと戦ったゼノスさん達<星探し>のメンバー。

 茫然としてる間にも次々とその数を増し、

 ついには20人を越し部屋に入りきらないくらいになっちゃいました。


「ちょ、ちょっとこれはどういう事です!?」


 私の質問に意地悪い笑みを浮かべて応じる皆。

 実は質問するまでもなく答えは分かってました。


「あら、ユナ様。

 もう休息はよろしいのですか?」


 お澄まし顔で皆に香茶を配るファル姉様。

 裏で策謀してた事が窺えないくらい見事なお手並みです。

 業を煮やした姉様の最終手段は確かに劇的でした。

 きっと私の知り合い全てに知らせ回ったのでしょう。

 ユナの元気が無いのでお見舞いに来てほしいとか何とか。

 結果は言うまでもありません。

 鬱屈した気持ちはどこかにいってしまいました。

 こんなに私の事を案じてくれる方々が傍にいる。

 私は恵まれるし、果報者です。

 ウジウジしてちゃ皆に叱られちゃいます。

 でもまあ、気付かせ方が強引ですけどね?

 苦笑した私はまず迷惑を掛けた事を姉様に謝罪しようとします。


「ねえ、ファル姉様」

「ユナ様。

 申し訳ございませんが、今現在お客様を持て成すのに手が足りておりません。

 メイドとして心苦しくはありますが、手伝って頂けると助かりますわ」

 

 悪戯めいた微笑みとウインク。

 もう~姉様には敵いません。


「はい、よろこんで♪」


 私は戦闘メイド服に着替えると、大勢のお客様を迎える為に戦場ホームに向かうのでした。

 心配してくれた皆に少しでも恩返しをしたいから。

 今日はスキル総動員、

 無礼講でパーティを開催しちゃいますからね!









 こうして。

 その日のノルン家は騒がしくも明るい雰囲気に包まれ、

 夜遅くまで笑い声が絶える事がなかったとさ。

 まる。


 皆がパーティで盛り上がっているその頃、

 

「解せぬ……

 何故わたしばかりがこんな目に……」


 トンテンカン。

 トンテンカン。

 ユナに命ぜられ、胡乱げな眼で金槌を振るい部屋の天井を補修するカルと、


「さあ……

 吾も事態の成り行きが皆目見当つかぬ……」


 同じくユナより共同作業を命じられ、怪訝そうに柱を支えるリューンという二人の男性の哀しい姿があったとさ(おしまい)。

 

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