穏やかなる抱擁の魅了のようです
「え~っと、ユナ」
「はい」
「ユナが年齢以上に頑張ってるのを僕は知ってるし、
メイド道? を究める為、日々研鑽している事も理解してる。
でも……正直コレはないんじゃない?」
「はい……」
優しく諭すような兄様の追及。
私はベットから床に正座し、俯き応じます。
腫れぼったい目で周囲を見渡せば、
空の空き瓶が幾本も転がり、
食べ溢した食べ物が散乱してます。
おまけに部屋にいるのは髪もボサボサなパジャマ女。
あう……
最悪の醜態。
一番見られたくない人に見られてしまったです。
「お酒が悪いとは言わないけど……
もっと酒量を弁えないとね?
ほら、僕達は一応子供な訳だし」
「はい……」
「三日も顔を出さないから心配したんだよ。
ファルさんから事情は聞いたけど(苦笑)」
「それは……そのぅ~
こちらにも色々ありまして……」
「うん。分かってるよ。
だけど思った以上に元気そうで良かった」
輝かんばかりの天使の微笑。
酒を呑み、やさぐれてたこの不浄なる身には過ぎるほどの煌めき。
強い自戒と自責。
不覚にも涙が浮かびます。
「ご、ごめんなさい、シャス兄様……
御迷惑ばかり……か、掛けてしまって……(ひっく)」
お酒の所為じゃなく涙でひゃっくりが止まりません。
しかし兄様は意に介した様子もなく私を抱き締めると、
穏やかな手付きで髪を撫で、背中を擦ってくれるのでした。
昔、母様がそうしてくれたように。
懐かしい想いが胸中を占めます。
その半面、肉親とはいえ異性に抱き締められる事に妙な気恥ずかしさを覚えてしまいます。
「に、兄様……もういいですよ……」
「ん? どうしたの、ユナ?
こうされるのは嫌いかな?」
☆キラキラキラン☆
おうっふ。
ふ~危ない危ない。
危うく持ってかれるとこでした。
無邪気に小首を傾げた無垢なる問い。
あまりの可愛らしさに意識が飛び掛けたのです。
皆に指摘されるまでもなく、自分が若干ブラコンなのは自覚してます。
それでも生まれた時から共に育ち、比較的耐性のある私ですらこの破壊力です。
兄様の天然ジゴロっぷりは年々上昇してる気がします。
最近は女性だけでなく、女装するまでもなく男性をも魅了し始めた兄様。
魅力の値が色々な意味で危険水域を突破してますよ、絶対。
「き、嫌いじゃないですけど……」
「なら良かった」
「でもほら、私汗臭いですし……」
「汗臭いのは毎日修行してる僕も一緒だよ。
それにちゃんと湯浴みはしてたんでしょ?
全然匂いなんてしないし」
「それはまあ、所謂女性の嗜みというか……
不快にならない程度には……」
「ならばいいじゃないか。
たまにはユナを堪能させてよ」
「えーっと……はい。
その、私で良ければ……です」
「あは。ありがとう、ユナ」
スルスリ度を増す兄様。
ますます密着さも上昇してる気がします。
「ユナのほっぺは柔らかいね。
それに髪や肌もシルクみたいにツルツルしてる」
「あ、やっ……そんなこと……」
「どんな手入れをすればこんな風になるのかな?
僕も見習わないと」
ちょ、兄様!
も、もう限界ですよ!!
快楽に溺れそうになる自分を叱咤し、
抗議の声を上げようと気力を振り絞る私。
そんな私に対し、
「シャスティア、ユナの様子は……
おっと!
これは失礼した。
お邪魔、だったかな?」
ノックもしないで入室してきた、無粋で無礼な乱入者による状況を面白がる声が掛けられたのでした。




