赤面するほど乙女な妄想のようです
初秋の風が暑さを吹き飛ばし、心地良く感じる頃。
庭先でファル姉様と共に洗濯物を干しながら、雑談に興じます。
根が真面目な姉様はやっと微笑んでくれるようになりました。
あのテロの時も重傷者の処置や看病、炊き出しに医薬品の手配など獅子奮迅たる活躍ぶりでした。
それは姉様だけに限らず兄様や父様、私を含む皆も一緒です。
哀しい決別となった合同慰霊祭。
その後は心の隙間を埋める様に懸命に盲進してきました。
最近はどうにか落ち着き、皆は日常を取り戻しつつあります。
決して……癒えない爪痕を残しながら、ですが。
ほとんど銀狐や幹部任せとはいえ、私もアラクネという組織の総力を上げる為に必死で策を練りました。
時間が経てば経つほど伝わってくる各地の被害状況。
感謝の声で迎えられる支援とは別に、怨嗟と嘆きの声も拾ってきてしまいます。
組織のトップとしてその声から逃げる訳にはいきません。
私は自分の我儘とはいえ戦う事を選んだのですから。
けどどんな気丈に振る舞っても気が滅入るのは確かです。
だからこうして自分を飾らず無防備に無邪気な姉様とお話しするのは何よりも癒されます。
穏やかな風に棚引くエプロンスカート。
髪が靡きカチューシャに掛かるのをそっとかきあげる仕草。
ファル姉様を見てるだけで……こう……うふふ。
そう、メイドは癒しなのです!
きゅぴ~ん★
むむ……私、今新しい商売を考えちゃいましたよ♪
「メイドリフレ……
これはクル!
いえ、しかし通常の形態だと風営法の問題に接触する可能性が……
となれば盲点を突く運営方法が……」
「あの~ユナ様?」
「ならばいっそレジャー施設ごと構えるというのは……
いや、コスト精算を考慮した場合……(ぶつぶつ)」
「ユ~ナ~さ~ま~」
「は、はははははい~!?」
「大丈夫ですか、ユナ様?
いきなりあらぬ方を向いて無表情に呟き始めるんですもの。
もしかして連日の疲れが残ってらっしゃるんじゃありませんか?」
「い、いえ。
そんな、まさか……あはは」
まさかファル姉様であらぬ妄想をしてたとは言えない。
絶対言えない。
私の身を案じながらも怪訝そうな様子の姉様。
しかし私が妄想の愉悦に浸るのはいつものこと。
あまり深入りしない方がいいと思ったのか、話題を変えてくれます。
「そういえば聞きましたか、ユナ様」
「何がですか、姉様?」
「今度この村に王都から視察団が来訪される話。
滞在場所にはノルン家を指定されてるみたいですけど」
「え? 初耳です」
「あら。カル様からは伺ってませんの?」
「はい……」
「そうですか……
何でも王都の王位継承者が各地の状況を直に見て回ってるらしいですわ。
わたくしも詳しくは存じませんが」
「そうなんですか。
それは大変ですね」
「ええ」
「……って、王位継承者!?」
「はい」
「大事じゃないですか!
そんなやんごとなき方が来られるだけでも一大事なのに……
我が家に滞在!?
だ、大丈夫なんですか!?」
「さあ……どうなるのでしょう?」
「ファル姉様って……」
メンタル面が強いというか、動じない感じです。
常に沈着冷静。
多分<明鏡止水>か<精神状態変化無効>系のアビリティ持ちですよ、きっと。
「まあお供の方もいらっしゃるでしょうし、大丈夫でしょう。
あの方は細かい事を気にされる方でもないでしょうし」
「あれ、姉様。
随分お詳しいんですね?」
「ええ、少々」
「もしかして以前にお会いした事が!?」
「はい。家の繋がりで、ですが」
「わあ!! 凄いです、姉様!
王家の方っていうからには気高く美しい方でしょうし……羨ましいです☆」
私の憧憬を込めた視線に、
何故か眉間に皺を寄せる姉様。
あれ?
何か変な事を言ったでしょうか?
「ユナ様……王位継承者に期待してはいけません。
そのあまり期待を抱くと……
幻想をぶち壊されてしまうので」
「それです、姉様」
「はい?」
「何でさっきから王位継承者って言うんですか?
それってつまり……王子様の事ですよね?」
「!! ……ええ」
「王子様!
やっぱり白馬に跨った美形なんでしょうか?
線が細く、華奢な感じの」
ファンタジーな世界の王子様♪
女の子なら一度はお会いしてみたい存在です。
深い森の中、泉に腰掛け鳥たちと戯れる私。
そんな時、颯爽と白馬に跨った王子様が。
当惑する私に、優しく手を差し伸べてくれる。
私は若干恥じらいながらも嬉しそうに手を取り……やがて二人は……
って、きゃああ!
思わず妄想が暴走しちゃうじゃないですか。
それほどまでに乙女に王子様は禁句なのです。
近頃辛い事が続きましたが、明るいネタに報われる気さえします。
とはいえ私の興奮状態に対し、何だか姉様は痛ましさを堪えてる感じです。
「ファル姉様?」
「ユナ様……ランスロード第7王位継承者であるガンズ様は」
「はい」
「先代勇者イズナ様のパーティメンバーの一人です」
「え? ……あれ?」
父様が先代勇者のパーティとしてブイブイしてたのは今から15年位前。
その頃に勇者様のお仲間という事は……
「魔導念写による写真がありますが……見ますか?」
「は、はい」
「こちらです」
だ、大丈夫。
若くなくともダンディなオジサマになってる可能性も……
自己暗示を掛ける私を無視し、懐から写真を取り出す姉様。
この世界にも写真はあるんです。
魔術技能である魔導による思念の転写。
感熱紙にコピーするような荒い粒子ですけど
そこには5人の男女が写っていました。
中央には爽やかなイケメン。
明るく力強い笑みを浮かべてるに、この方が先代勇者イズナ様でしょう。
その隣には父様と……母様。
うあ~10代だからでしょうか?
すっごく若く感じます。
端には筋骨隆々な大男と哲学者の様な長髪美形の青年。
犬歯剥き出しで嗤う蛮族丸出しな感じの大男とは違い、
青年はどこか儚げな感じさえします。
これですよ、これ!
イメージとは少し違いますが、この感じは間違いありません!
乙女の理想の体現者、王子様☆
神様ありがとうございます♪
ユナは今、多くの女性の願望を共に叶えましたよ!
「ユナ……様」
「きゃ~! こ、こんな美形な方が王子様って!
きっと今は渋いオジサマになってますって!
あ~もう! どうしましょう★
今から興奮が……って、あら。
思わずヨダレが……」
「ユナ様」
「ははははははい~!?」
興奮のあまり感涙し涎を拭く私。
しかしそんな仕草を余所に、申し訳なさそうに溜息をつく姉様。
写真の一点を示し、中央のイズナ様から端に移動します。
私が思っていた方向とは、まるっきり逆に。
え”?
いやだな、姉様
冗談がきついですよ~
写真から顔を見上げ、姉様に対し愛想笑いを浮かべる私。
しかし無情にも姉様は首を振り、処刑宣告をします。
その指が指し示すのはどう見ても……
脳が理解するのを拒みます。
それを知ってしまったら、私は……
「こちらがガンズ様……
正式にはガンズルディア・レイズ・ランスロード様。
この国の……れっきとした王位継承権を持つ第五王子様です」
ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
やっぱりいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
「お・う・ぢ・さ・ま”?」
「ええ」
「はうっ」
「ゆ、ユナ様!?
いきなり倒れて……どうされました!!
ユナ様ああああああ!!!」
神は死にました。
その場に倒れ込み、口から魂っぽい何かが飛んでいくのを自覚しながら、
私は襲い来る運命とやらを恨むのでした。
第三部開始早々のスレイヤーズネタ。
ユナ、その妄想をぶち殺される(合掌)。




