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後味の悪い決着みたいです

「ぎゃあああああああああああああああああ!!

 き、消える!?

 消えてしまう!?

 こ、これは何?

 何なんのさ!!」


 苦悶の絶叫をあげ身を捩るエクダマート。

 火の要素の集合体であるその身体は徐々に黒ずんで色褪せ、

 端々では結合力を失い崩壊していきます。

 首を刎ねられようとも復元する力。

 無敵とも思えた能力も流石にこうなっては発揮できないでしょう。

 しかし敵は魔神皇直属の配下である6魔将。

 油断はなりません。

 退魔虹箒を隙なく構えつつ、融合したスキルによる発動を続けます。

 私が地面を掃く度に立ち昇る煙。

 エクダマートを包み、覆っていくそれが彼女に抵抗を許しません。

 喘ぐように呼吸を洩らしながら、エクダマートは私に問い掛けてきます。


「ど、毒を使ったのかい……?

 いや……あたしに効く毒なんてない筈……

 ならばこれはいったい……」

「毒といえば毒かもしれませんね」

「なっ……!?」

「ただし貴女専用に調合された毒、ですけど。

 ……これは、化学の生み出した毒ですから」

「か……がく?」

「貴女方には聞き慣れない単語でしょうね。

 こちらでは錬金術師達が主体として学ぶ学問でしょうし。

 いうなれば魔術とは違う理論形態を持つ法則のことですよ」

「なんだい、それは……?

 その化学とやらがどうして……

 あたしの身体を滅ぼす事が出来る……?

 魔神皇様から頂いた力は絶対無敵……」

「その傲慢さが過信を招いたんですよ。

 <錬金><調合><噴出>による融合スキル<霧籠錬成>により私が生み出したこの煙、これは威力と効能を特化させた『消火剤』と呼ばれるものです」

「消火……剤?」

「大地に含まれるリン酸二水素アンモニウム、硫酸アンモニウム。

 肥料の成分でもあるリン安、硫安。

 土やガラスの成分と同一にして不燃性粒子である二酸化珪素。

 噴霧上にした事による炭酸ナトリウム水溶液による冷却効果。

 二酸化炭素により不燃性物質で酸素濃度を低下させるため窒息効果。

 これらを複合的に調合し、貴女に叩きつけました。

 気合や根性ではどうしようもないのですよ。

 火であり……そして本質は大気であった貴女は構成力を失い自壊する。

 もう結果は定められてしまったのです」

「定められた……?」

「そう、つまり……

 貴女の負けです」

「負け……?」

「はい」

「くっ……くくく……

 あ~はっはははははははっははあっはははははは!!!

 このあたしが!

 紅蓮の舞踊姫こと<怨焔>と呼ばれたあたしが、

 こんなお嬢ちゃんに負けようとはね!

 はは……流石はノルン家の血筋。

 あたしのような存在には鬼門さね……」

「エクダマートさん」

「……何だい?」

「そのままですと貴女は確実に滅びます」

「だろう……ね」

「しかし有意義な情報を提供して頂けるなら延命は可能です」

「ほう……そりゃあ魅力的さね……

 して、その内容は?」

「世界蛇<ミズガルズオルム>と魔神皇について」

「フフ……嬢ちゃん……

 いや、ユナ」

「はい」

「交渉する気がない相手にその内容じゃあ……

 正直そそられないよ?」

「でしょうね」

「それに、さ。

「生き恥を晒す気は……

 サラサラ無いね!!」


 言い放ったエクダマートの身体が急激に膨張し輝きを増していきます。

 生命維持の為、僅かに残された不活性されてない火の要素を重複させる事により圧縮・自爆する。

 最後の足掻きだということは彼女自身も理解しているのでしょう。

 だけどやらずにはいられない。

 秘密を厳守する為に。

 スキルに秀でた自分や、微かな違和感などから欲しい情報を読む銀狐には誤魔化しが効かないからです。

 退く事を赦されない彼女にとって、それが行い得る最善の抵抗なのですから。

 交渉は決裂です。

 万が一の可能性を求め持ち掛けた話でしたが、やはり決別されました。

 互いの立場を考慮すれば仕方がありません。

 遣る瀬無い事情。

 逆らえぬ宿命。

 私は苦みを伴う憤りを強引に鎮め、箒を向けます。

 滅ぶ事を選んだ彼女。

 ならば今の自分に出来る事は消えゆく苦しみを少しでも短くすること。

 村人を虐殺した彼女に本来情けは必要はないかもしれません。

 消滅する足掻きを限界まで継続させるべきかもしれない。

 しかし戦う者として、最大限の敬意と闘気を込め、

 精一杯の感謝と慈悲とを共に振り抜きます。

 これが私流の戦闘流儀なのですから。


「さようなら」

「あえ?

 まさかあたしが……

 こんなところで……」


 復元力が低下していたところに最後の駄目押し。

 分子結合が完全に砕け散ったエクダマートは……

 朝日に照らされた霧の様に、掻き消えていったのでした。

 完全に。

 そうしてこの瞬間、

 フェイム村の惨劇を引き起こし辺境を騒がせた同時多発テロの首謀者の一人。

 紅蓮の舞踊姫こと<怨焔>エクダマートは、表舞台から姿を消したのでした。






アクセスとお気に入り登録ありがとうございます。

次回で第二部終了となる予定です。

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