お駄賃らしいです
「小麦が5袋にベーコンが一樽、あとは油が一缶で間違いないな?」
「はい。あと可能ならばリクサ草も追加できますか?」
「マリーからの要望か?」
「ええ」
「そうか……ならば多少の無理は聞かねえとな。
あいつの治療術師、ヒーラーとしての腕前は相当なもんだ。
一昨年は俺の倅も世話になった。
マリーには本当に感謝してる」
「ゴランさんのその言葉を聞いたら母も喜ぶでしょう」
「ふん」
シャス兄様の言葉にゴランさんは品物を用意する手を休めず背を向けます。
でも耳が赤いのが見て取れました。
気難しそうな顔をして照れ屋さんなので、きっと赤面した顔を見られたくないのでしょう。
余所者だった母様に対し、最初村人たちの態度は冷たかったと聞きます。
ですが献身的な母様の対応に徐々に皆心を開いていったと伺いました。
う~ん、ツンデレさんばかりです。
商談に勤しむ兄様を横目に、私は店内を見渡します。
マイスター商店は何でも屋さんだけあって実に雑多な内装をしてます。
手入れの行き届いた刀剣の隣りに採れ立ての野菜が鎮座し、
強固そうで武骨な鎧の脇には防御無効の術が籠められたスクロール(使い捨て)が並んでます。
……ワザとでしょうか?
ちょっとセンスというか商才というか詳細が意味不明です。
「アンタ、準備できたよ。
あとでウチのに届けさせるって伝えておくれ」
「ああ」
「何だい、その返事は。
もっと愛想よく……って、おや?
今日はユナちゃんも来てるのかい」
奥から出てきて私の頭をワシワシ撫でてくれるのはジャレッドおばさんです。
度量も広いですけど恰幅も広い(大きい?)です。
「こんにちは、ジャレッドおばさん。
今日はシャス兄様とお買い物にきました」
「うんうん。小さいのに偉いね~」
おばさんが抱きついてきます。
少し痛いですが、そこは我慢。
本当は娘が欲しかったというおばさんの為に可愛い子を演じます。
無邪気さを装い抱き返します。
結構黒いんです、私。
「あ~やっぱり女の子はいいねー。
そうだ、ユナちゃん。
これお駄賃。
帰りにお兄ちゃんと食べな」
そういうとおばさんはお店の棚にあったクッキーを渡してきます。
あう。困りました。
「おばさん、その……」
「子供が遠慮しなくていいんだよ。
ほら、受け取りな」
「お前、売り物を……」
「何だい。ノルンさんとこのカルやマリー先生にはいつもお世話になってるだろ?
これぐらいしても罰は当たらないよ」
「はあ……しょうがねえな」
抗議し掛けたゴランさんでしたが、ジャレッドさんに論破されてます。
おばさんは期待に満ちた目で見てますし。
対応に困った私は、兄様を仰ぎ見ます。
「せっかくの好意なんだから、ユナの好きにしたらいい」
兄様は苦笑しながらも応じてくれました。
ならば私の対応は決まってます。
「ありがとう、ジャレッドおばさん!」
嘘偽りない満面の笑みでおばさんにお礼を言います。
「いいんだよ、このくらい。
またお買い物と遊びにおいで」
「はい!」
食い意地が張ってる気がしますが、甘いものは嬉しいんです。
特にこの世界は砂糖とか貴重品ですし。
ニコニコするおばさんから袋を受けとり、
自分でもだらしないくらい上機嫌な私でした。
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