弟子と天の御使い
文side
挙がってきた報告を集めた僕は、少し力を抜いた
「このまま、小競り合いだけなら大丈夫かな?」
僕は今、黄巾賊の本隊を引き付けて足止めをしている
幸いにも敵の指揮は纏まっていないみたいで、こちらを攻撃するのも散発的だ
そしてこちらの被害はほとんどなく、補給も万全なのでまだまだ持ちこたえられそう
まぁ…補給計画をたてているのが、賄賂が横行していてまともな人材がいない部署だからあまり信用できないけどね……
他の将軍達はすでに別の黄巾賊と交戦して、戦況は優勢だけど壊滅にはまだ時間が懸かりそうだ
だけど、太守や県令が義勇兵を募って各地で合流しているみたいだから、もうじき援軍が来ると思ったんだけど……
「文先生〜、助けに来ました」
数日後、まさか自分の愛弟子が義勇軍を立ち上げて、こちらに来るとは正直思わなかった
それにしても、桃香かぁ…
僕の教えた中で、一番大変だった弟子だ
なにせ、講義をしようとしたら、大半の場合彼女はいない
子供達と遊んでいたり、寝坊したりと、とにかく来ないのだ
そのわりには、大望を抱いていたので、彼女には苦労したよ
彼女に対して思ったことは、目標はあるけど具体的な案や方法を考えない人だ
そこを治そうと教えていたんだけど、急に「私には、やらなければならないことがあるんです」って言って出てったからね
そんなこともあって、僕は桃香が苦手だ
…正直、手に余る
…まぁ、それでも少ないながらも人を集めて義勇軍を立ち上げたことは凄いことだ
それについては師として誇りに思う
「よく来たね、桃香
えっと…隣の彼は、誰かな?」
「あ、はじめまして
天の御使いの北郷一刀です」
「へぇ、君があの天の御使いかぁ
僕は、桃香の師でこの討伐軍を率いる盧殖だ
よろしく」
確かに、ここらでは見ない服装をしているし、雰囲気も違うね
…でも、この子の雰囲気はどこかで感じたような気がする
「あぁ、それと忠告しておくけど、君が天の御使いだということは少なくとも官軍がいる前で名乗るのは、やめた方がいいよ」
君の言葉で小さな女の子達が慌てているよ
「え〜、どうしてですかぁ」
…桃香、君は本当に大丈夫かい?
「帝は天子であるから、天と同じ
天の御使いというのは、帝を名乗っていると思われてもおかしくないよ
他の将軍なら即、斬り捨て
良くて捕縛かな」
御使い君の顔が青くなっている
…知らずにやっていたとはいえ、気の毒だね
まぁ、僕だって桃香がいなければ同じことをしただろうけどね
それにしても桃香達はなぜここに来たのかな?
確かに、ここには賊の首魁である張角達がいる
でもこちらの兵は五万程度で、駆けつけてきた桃香達は五千にも満たない
正直な所、いてもいなくても変わらないぐらいだ
つまり戦局はこのままだ
だけど、この子達は戦功を求めているはずなのにここに来た
まぁ恐らく、桃香は助けに来たといっていたが、恐らく後ろの小さな女の子達が何か言ったのだろうね
さてさて、ダメダメな弟子の部下は何をしにきたのかな
ある程度なら助けてあげられるけどね
とりあえず彼らの話を聞こうか
…それに御使い君には聞きたいことがあるしね
side out