行軍中
俺は今文が率いる討伐軍五万五千と共に移動している
記憶の兵数と若干誤差があるが多い分には問題ない
今一番の問題は…
「なぁ、文」
「なんだい、《用心棒》?」
「俺が出した条件は覚えているか?」
「もちろん
一、君の名を明かさない
一、君は書類上いないものにして戦果は君の物にしない
一、極力君を目立たせない
の3つのはずだね」
「わかっているならこの状況はなんだ…」
俺は今見える範囲内から全ての奴から視線を受けている
「それは、君の格好に原因があるから僕のせいではないよ
そんなことをいうのは格好を変えてからいって欲しいね」
「くそっ、しょうがないだろ
これが《仮面の用心棒》としての格好なんだから」
俺の今の格好は般若の面を顔に着けて、自分より少し大きい斬馬刀を斜めに背負って腰には投げるための短刀を何本か差している
…正直なところ、かなり目立つ
…といっても変えることはほとんどできない
なぜなら数年前に商隊の護衛をやったときにやり過ぎてしまったからだ
例えば盗賊二百人切り
河賊の船を沈めるなどだ
そんなことをやっていたら、商人や仕事をした地域の人達の間で、馬鹿デカい斬馬刀を背負い、鬼の仮面を着けた用心棒の話が広がって《仮面の用心棒》なる名までついた
そして今俺は、文に《仮面の用心棒》として雇われていることになっているのであまり格好を変えることができない
「まぁ、そんなことは置いといてこれからのことについて、少し話そうか」
…そんなこと呼ばわりは正直なところ、納得いかないが諦めてしまう他ない
「わかった、教えてくれ」
「僕達は今、賊達の首魁といわれている張角が率いる本隊のいる広宗に向かっているんだ
あぁ、あと賊は黄巾賊と命名されたよ」
「敵の数は?」
「十五万ほどらしいね」
…やっぱりそれぐらいになるか
「…お前は五万五千で倒せると思っているのか?」
「さすがに思っていないさ
僕の目的は本隊を広宗にくぎ付けにすることだよ
これなら三分の一ぐらいの数でも可能だからね
そうしていれば各地の黄巾賊を他の将軍達が倒してくれるだろうし、こちらに援軍に来てくれることも可能だとと思う
その時に総攻撃しようと思っているんだ」
確かに作戦としては可能だろう
それだけの力を文は持っている
ただし、なにもなければ(・・・・・・・)の話だが…
「…悪いが賛成はできないな」
「…理由を聞いてもいいかな」
俺が文に説明しようと口を開こうとした時だった
文に付けられた女性の副官が近づいてきて文に話しかけた
「子幹将軍、近くの村を賊が襲っているとの報告がありました
どうしますか?」
文の雰囲気が変わった
「賊の数は?」
「約五百とのことです」
「村までの距離は?」
「十里程です」
「……なら、君が千ほど率いて行って欲しい
僕は広宗に行かなければ、ならないからね
準備が整ったらまた来てくれないかな」
「了解しました」
副官がまた離れっていった
「無々、君にも行って欲しい
彼女には僕が話しておくよ」
「それはいいが俺の戦果はどうする?」
「それなら彼女の戦果にしてくれればいい
彼女は、最近地方から来た子だから、十常侍の息は掛かってないはずだから」
「わかった」
ここで文の雰囲気が戻った
「ああ、それとさっきの理由を話してくれないかな」
「…悪いが理由はいえない
ただ勅使が来て、許せないことがあったらこの中身を渡してくれ」
そういって包みを文に渡す
「…なんとなく想像がつくけど、本当にそんなことが起きるのかい?」
「起きないかもしれないが念のためだ」
「…わかったよ、気をつけてね」
「ハハハ、何に言ってんだ
楽な仕事だぞ、これは
…お前こそ気をつけてくれ」