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チラ裏

サンタの水晶

作者: ポンコツドリーマー

「ねえ、おかあさん。サンタさんくるかな?」


 青白い月の明かりが入ってきてぼんやりとあかるいへやの中、男の子はベッドにもぐりながらお父さんにたずねました。今日はクリスマスなのです。


「今年はいい子にしてたから、きっとサンタさんも来てくれるよ」


 お父さんは男の子の頭をやさしくなでながら言いました。


「やった! あのねあのね、ぼく、でんしゃかくるまのおもちゃがほしいんだ!」


 もう九時をすぎて、いつもならねむくてねむくてたまらないじかんだったことでしょう。けれども今日だけは、男の子はこうふんしすぎてねむれないようでした。そのようすをお父さんはあたたかい目つきで見つめます。どこかなつかしんでいるようにも見えました。お父さんはとけいを見ると、男の子をせかすように言いました。


「……さ、もうねなさい。ずっとおきていたらサンタさん来れないよ。サンタさんははずかしがりやだからね」


「はーい……」


 男の子が目をとじたのをかくにんすると、お父さんは男の子をおこしてしまわないように、そっとドアをしめました。



 それからしばらくして、男の子がぱっちりと目をあけました。こうきしんおうせいな男の子のことです、サンタさんを見たくてしかたがなかったのでしょう。それでねたフリをしていたのでした。男の子がベッドのそばのまどを見ます。ふりつもったまっしろな雪が月の光をうけてぴかぴかと、星にもまけないくらいに光っています。黒い夜空にはおしゃれをしたかのように、たくさんの星がまたたいています。ひときわかがやくあの星たちは、オリオンというなまえだとお母さんにおしえてもらいました。


 けれども、男の子が見たいのは光る雪でもおしゃれをした夜空でもないのです。


 男の子はスズの音といっしょに空を走る、二匹のトナカイとサンタさんを見たいのです。男の子はまちつづけました。ドアがちょっとだけひらいていて、そこからお父さんがプレゼントを手に、のぞきこんでいることにはこれっぽっちも気づきません。それくらい男の子はサンタさんにむちゅうなのでした。



 どれくらいのじかんがたったことでしょう。男の子がこうふんしすぎてつかれてしまって、そろそろねむくなってきたところでした。シャンシャンとどこからかスズの音がきこえてくるではありませんか。


 それをきいたとたん、男の子のおもいまぶたははっきりとみひらかれました。あわててまどにかけより、空を見上げます。大きくて丸い月に、あのみおぼえのあるシルエットがはっきりとうつしだされました。そのシルエットはだんだんと大きくなっていきます。そして地面にちゃくちすると、明かりにてらされてそのすがたがはっきりとしてきました。くらい夜空や白い雪の中で目立つ赤いふく、まっ白なひげ、かついでいるのは大きなふくろ。まちがいなくサンタさんです。雪に大きなあしあとをのこし、ずんずんとこちらへ近づいていきます。


 男の子はこれは夢ではないかとうたがいました。けれども、ほっぺたをつねってもこの夢はさめないのです。目をこすってみても、サンタさんのすがたがきえることはないのです。


 そうしている間にも、サンタさんはどんどんこっちへ来て、とうとうまどの前までやって来ました。トントン。サンタさんは、まどガラスをやさしくたたいて言いました。


「メリー・クリスマス!!」


 サンタさんは大きなふくろをかついでいます。あのふくろの中に男の子のほしがっていた、あのくるまやでんしゃのおもちゃも入っているのでしょうか。男の子は思わずさけびます。


「サンタさん! あなたはほんとうのサンタさんですか!?」


「そうだよ。きみは今年いい子にしていたから、サンタさんが一年のごほうびをとどけに来たんだ」


 うれしくなった男の子はすぐにまどをあけて、サンタさんをむかえいれました。


「ぼくに見られて、はずかしくないんですか?」


 ふと男の子はさっきお父さんが話していたことを思い出し、まどのむこうで雪をおとしているサンタさんに聞いてみました。


「はずかしくなんかないよ。むしろうれしいんだ。きみたちのよろこぶかおをこの目で見ることができるんだから」


「それじゃあ、お父さんはぼくにウソをついたんだ! ウソはよくないっていつも言っているのに……」


「お父さんは、わたしのことをあまり知らないまま言っちゃったのかな。まあでも、わたしのすがたを見た人はほとんどいないから、しかたないね」


 そう言いながら雪をおとしおわったサンタさんは、よっこらしょ、とまどから男の子のへやに入りました。男の子は、もうがまんができなくなっていました。


「ねえサンタさん! プレゼントください!! くるまかでんしゃのおもちゃがほしいんです!」


 サンタさんはその小さくてかわいらしい目をぱちぱちとさせてから、ホッホッホッホとわらいます。


「きみははっきり言う子なんだねえ。ちょっとまっておくれよ」


 そう言うと、サンタさんはかついでいる白いふくろを下ろし、黄色いひもをほどいてごそごそと何かを取り出しました。男の子はそのようすをまばたきもせずに、かがやくひとみでじっと見つめています。自分のほしがっていたものがくると思っていたのですが、じっさいにサンタさんがふくろから取り出したものは、月の光できらきらと青みどり色にかがやく、男の子の手のひらサイズの小さなすいしょう玉でした。


「これをきみにあげよう」


 サンタさんはそれをそっと男の子の手のひらにのせます。


「それはね、とってもふしぎなすいしょう玉なんだ。この玉を毎日きれいにしてあげてね。そしてきみがいつか大人になったら、わたしとこのすいしょう玉のことを思い出すんだよ。いいね? サンタさんとのやくそくだよ!」


 男の子はサンタさんの目を見て、元気よくうなずきました。今気づいたのですが、サンタさんの目はちょうどこの玉のようなきれいな青みどり色の目でした。




 ふと男の子がベッドからはねおきます。いつのまにかねむってしまっていたようで、気づけばへやは朝の光につつまれていました。空はたかく、ちゅんちゅんとスズメの鳴く声がきこえて、つめたいけれどとてもさわやかな朝です。


 ────────あれ、サンタさんは?


 男の子があたりを見回すと、男の子のべんきょうづくえの上にプレゼントのつつみがあることに気がつきました。赤いリボンをほどき、つつみをあけるとそこにはほしがっていたくるまのおもちゃ。とてもうれしかったけど、同時に男の子はとてもかなしくなりました。だって、さっき見たサンタさんはやっぱり夢だったのですから。


 男の子がリビングに行こうとしたそのとき、ゴンとにぶい音がひびきました。ベッドの方からです。あわててかけよると、そこにはあの青みどり色のすいしょう玉がベッドからおちてコロコロところがっていました。男の子がそれをひろいあげると、にっこりとほほえみました。そしてリビングで男の子のよろこぶ声をまつお父さんお母さんにさけびます。


「お父さーん、お母さーん! サンタさんにプレゼントもらったぁー!!」





 それから時は経ち、男の子は大人になりました。ずっと信じてきたサンタさんの正体を知り、ウソを覚え、その代わりに夢を失い、あの約束すらも忘れ、ただただ毎日仕事だけの退屈な日々を過ごす────────そんな大人になりました。今の彼ならば、あの日見たサンタさんは所詮子どもの頃見た夢だと笑うでしょう。少しだけ、懐かしそうな顔をして。


 彼は経済は安定しているものの、どこか満たされない。そんな毎日を送っていました。


 そして、何度目かもわからない一人っきりのクリスマス。ふとあの夢を思い出しました。その途端、彼の中に衝撃が走りました。何も知らなかった子どもの頃に戻ったような気がしたのです。夢中でタンスやクロゼット、机の中を漁ります。


 ない、ない、どこにもない。彼が頭をがっくりと落としたとき、どこからかゴン、と鈍い音が響き、それから彼の前にコロコロと転がってきました。彼がそれを拾い上げると、あれだけきれいに輝いていた玉はホコリを被って白くなっていました。そのホコリを払っても、色は褪せてもうあの面影はありません。


 彼はスーツのポケットからハンカチを取り出すと、だいぶ小さくなったそれを丁寧に磨きはじめました。褪せた色は磨いただけでは戻らないけど、それでもずっと続けていたら、いつかその色も取り戻すことができると信じて。

最後まで見ていただき、ありがとうございますm(_ _)m


何かおかしいとこがありましたら、感想辺りで教えていただけるとありがたいです。

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