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4.TVから這い出る輩は画面を壁に押し付けろ!

 ――痛い……

  眠い……

    暗い……

      何処だ……?


「う……むぅ……」

 頭に引っかかるような痛みと全身の自由を奪うようなけだるさが自分を支配していることに気が付いた。

 ゆっくりと目を開ける。暗い部屋だった。首だけを動かして辺りの状況を確かめてみた。

 左手側には窓があり今はブラインドで閉じられている。

 右手側には大きな引き戸と点滴が吊るされているのが分かった。

「何だ……生きてるのか……」

 ため息のような笑いを軽く吐き出した大月は、傍に誰もいないことに気が付いた。

 普通なら事故がおきて病院に運ばれたのだから心配をした両親がいてもおかしくなかった。

「あぁ……今日は気合い入れてグラタンでも作ろうかと思ってたのに……」

 ぽつりと今日作るはずだった夕飯のレシピを思い出して残念そうに呟いた。

 それに、明日の授業では得意な情報処理の小テストがあった。自分にとっては唯一の高得点源なのに、まずいな……などといったこともよぎっていた。

「……ちぇっ、期待したんだけどなぁ」

 再びため息が漏れた後に考えた。何を期待したのか……? と死か母親が傍にいてくれることか、それとも……。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 カラカラ……静かに入り口が開た。

「看護婦さん……腹減った、ステーキ食べたい」

 何か違うことを言おうと思ったが、口をついた言葉はそんな程度ものだった。

「だめだよ、おーちゃん。そんなの寝起きで食べたらお腹がもたれちゃうよ」

 まったく予想していなかった呆れた声に、大月は驚いて暗い部屋の中を探した。

「修っ? あれ……なんで?」

 こんな夜にいるはずもない友人の声に彼は手探りでライトを探した。そして、ライトは自分が思ったより近くにあったらしく修の手によって乳白色の光が目を穿った。

「怪我はたいしたことは無いって。ただ頭を打ったから様子を見ようってさ。おばさんにも連絡はしたけど……」

「そ、そっか……悪いな、手間かけて。平気だったか?」

 大月は細い目を更に細めて修に短く詫びの言葉を入れ、ベッドへと体を沈めなおした。

「大丈夫だよ、友達だもん。ちゃんと僕も家に連絡したし」

 にっこりと安心させるための笑みを向けながらも、改めて大月の姿をみた。

 頭と左腕には包帯、腫れあがった頬の大きなガーゼが痛々しい。

「おーちゃん、無理したらダメだからね」

 優しく案ずる言葉に大月は苦く笑い、引っ張られた頬の痛みに小さく呻いた。

「修……あのさ……、母さん何か言ってたか……?」

 隠そうとしても隠れ切れてない期待の言葉に詰まった。

 あまりに雄弁に語る親友の表情に彼は答えを聞くことを放棄した。

「悪かった……、家の中でひっくり返ってなきゃいいな」

「……ごめんね」

 修の謝罪の言葉に大月は慌てた。不思議と泣くのではないかと思ったからだ。

「な……泣くなよ」

 慌てた大月に修はぶんぶんと勢いよく、首をふった。


 ――お……ん……

  た……けて……


 小さな恨み言の声、彼はばっと起き上がり部屋中をさがした。

 自分と友人以外に誰もいるはずがない……、事実、修は跳ね起きた自分に不思議そうな表情を向けていた。

 気のせいか? と思い直して再びベッドへ寄り掛かろうとした瞬間、『それ』と視線が合った。

「――――っ!!」

 声にならない声で叫びを上げ、壁際に張り付くように体を反らせた。


  ――ズ……ッ!


 恐怖に慄き更に下がろうとしたが『それ』は許さなかった。

 ベッドから転げ落ち、硬い床にしたたかに腰を打ちつけた。

「……ぅ」

 口の中が乾いていた。舌が別の生き物のように膨れ上がる感覚があった。

 友人の名前を呼ぼうとしても声にならない。

 そして、見つめあった瞬間から一切『それ』から視線を反らすことが出来なかった。

 己の足の影とベッドの下の影に溶け合うように『それ』は居た。


 ――ぃちゃ……ん……

  お……兄……


 ゆったりと極上の料理を舌の上で吟味するように『それ』の唇が動いた。

「……っ、ぁあ、う……」

 悲鳴もまともに上げられない彼に、『それ』は小さな腕を伸ばしてきた。

 小さな子供の腕。


 幼い子供たちの連なった腕。

 

 ズキンッと包帯の下で痛みが広がった。鈍い痛みは波紋のように全身に広がり逃げようとする腕を、体を折った。

「おーちゃん!」

 驚きに満ちた声に、伸ばされていた手が忽然と消えた。

「大丈夫? 何かあったの?」

 困惑顔の修に大月は逸る心臓のまま言葉を紡ぐに紡げなかった。

 突然ベッドから転げ落ちた、という風にしか恐らく修には映っていなかった。

 大月は修の細腕につかまり立ち上がったが、その足は竦んだまま思うように動かなかった。

「し、修……い、今の……」

 言葉に出しながらも思考は即座に強く否定していた。ありえるわけがないっ、絶対にあるわけがない。

「な……なんでもない。ご、ごめん……」

 ベッドの上に腰を下ろした途端、ひんやりとした空気の流れを感じ大月は後ろへと視線を向けた。


 ――ね、……ヒドイよ。

  ……ズルイね……


        ヒドイ……ね。


   うそつき……



      ひどいよね……




             たすけて……


     ……お兄ちゃん。




        ウソ……

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