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戦士

背中を信じた

勇者の背中は、いつも前にあった。

俺はそれを見るのが好きだった。


剣を構え、迷いなく踏み込む。

俺が考える前に、道ができている。

だから俺は、後ろを気にせず戦えた。


「さすがだな」


何度、そう言ったかわからない。

褒めているつもりだった。

事実でもあった。


夜の焚き火

焚き火を囲む夜、俺は酒を飲みながら笑っていた。

戦いのあとに笑えるなら、明日も大丈夫だ。


僧侶は心配そうにしていたが、俺は言った。


「勇者なんだからさ」


それで全部、片づくと思っていた。


彼は、よく黙っていた。

でも俺は、それを不安とは思わなかった。

余裕だと思った。


余裕のある奴は、無駄に喋らない。

強い奴ほど、言葉は少ない。

そう決めつけていた。


ある戦いで、彼は深く斬られた。

俺は横で敵を叩きながら叫んだ。


「無茶するな!」


彼は振り返って、笑った。


「任せた」


その一言で、胸が熱くなった。

信頼されている。

そう思った。


後になって気づく。

あれは、頼っていたんじゃない。

もう、それ以上前に出られなかっただけだ。


魔王城

最終決戦のときも、俺は同じだった。

勇者が前に立ち、俺が横を固める。

いつもの陣形。


「行けるな」


そう声をかけると、彼は頷いた。

それで十分だった。


魔王を斬り伏せた瞬間、俺は叫んだ。


「やったぞ!」


仲間たちと肩を叩き合い、笑った。

その輪の中心で、彼が膝をついたことに、俺はすぐ気づかなかった。


帰還

王都は、祭りだった。

英雄万歳。

俺も浮かれていた。


彼はずっと笑っていた。

少し、作り物みたいだと思ったが、

「勇者なんて、そんなもんか」と流した。


強い奴は、簡単に壊れない。

壊れる前に、誰かが気づく。

俺は、そう信じていた。


訃報

「勇者は亡くなった」


言葉の意味が、すぐに理解できなかった。

冗談だと思った。

あいつが、死ぬわけがない。


剣を握れない日が来るなんて、想像もしなかった。


酒場で誰かが言った。


「やっぱ勇者はすげえよな。最後まで役目を果たしたんだから」


俺は、何も言えなかった。


石像の前で

石像は、あいつによく似ていた。

前を向いて、剣を構えている。


完璧だ。

理想の勇者だ。


でも、俺が知っている背中は、

夜、焚き火の前で少しだけ丸くなっていた。


あの背中を、俺は守ったつもりでいた。

実際には、全部任せて、何も背負わなかった。


「大丈夫だろ」


あの夜、俺が寝言みたいに言った言葉が、

今も耳に残っている。


大丈夫じゃなかった。

でも俺は、それを確かめなかった。


剣を振るのは得意だ。

仲間を信じるのも、得意だ。


ただ――

信じることで、逃げることもできると、

俺はあいつに教えられた。


背中は、もう前にない。

だから俺は、初めて振り返る。


そこに、誰もいないことを知りながら。

ありがとうございました。

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