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魔法使い

計算の外側

戦闘は、いつも予測どおりに進んだ。

勇者が前に立ち、敵の動きが収束する。

私は詠唱を完了し、最適な角度と距離で魔法を放つ。


結果は、常に良好。

だから私は疑わなかった。


「予定どおりですね」


そう言うと、勇者は小さく笑った。

その反応も、想定内だった。


最適解

私は、感情よりも確率を信じる。

勇者は、その計算の要だった。


彼が前線で耐えれば、被害は最小限になる。

犠牲が出ない。

世界にとって、それが最適解だ。


一度、僧侶が言った。


「少し、負担が大きすぎませんか」


私は即答した。


「勇者が倒れれば、全体が崩れます。

だから、倒れないようにするのが合理的です」


間違っていない。

そのはずだった。


誤差

誤差は、いつも小さなところから始まる。


勇者の反応が、わずかに遅れる。

剣の軌道が、ほんの数センチずれる。

私はそれを「疲労」と記録した。


回復が間に合っている以上、問題はない。

僧侶の魔法も、成功率は高かった。


だから私は、数値化できない沈黙を、

ノイズとして切り捨てた。


呪文の夜

彼が深手を負った夜、

私は戦術の再計算をしていた。


「次は、私の詠唱を一拍早めます」


そう言うと、彼は頷いた。

意見はなかった。


――異論がないなら、最適だ。


私はそう判断した。


彼が笑った理由を、

私は解析しなかった。


魔王

魔王は、想定より弱かった。

いや、弱く見えた。


勇者が、最後まで立っていたからだ。


断末魔の声が、人間的だったことに、

私は一瞬、違和感を覚えた。


だが、勝利条件は達成されている。

分析はそこで終わった。


「これで、終わりですね」


そう言ったとき、

勇者の返事は遅れた。


それでも私は、

「誤差範囲内」と記録した。


帰還後

王都での祝賀は、騒がしかった。

私は端で観察していた。


英雄の精神状態について、

正式な報告は求められていない。

世界は結果だけを必要としている。


それに、彼は笑っていた。

数値上、問題はなかった。


失敗

「勇者は亡くなった」


その報を聞いたとき、

私は最初に思った。


――計算が、どこかで破綻した。


死因が公表されないことに、

私は違和感を覚えた。


原因不明の失敗は、

最も嫌いな部類だった。


再計算

石像を前にして、

私は初めて、計算できない項目を考えた。


勇者の沈黙。

笑顔の頻度。

発言の減少。


すべて、後付けの変数だ。


もし、あれを「危険信号」として

重み付けしていたら。


もし、「最適解」から

一度でも外れる勇気があったら。


結果は、変わっただろうか。


答えは出ない。

再現実験は、できない。


次の式

新たな異変が観測され、

次の勇者が必要だと議論されている。


私は、資料をまとめながら思う。


次は、もう少し精度を上げよう。

誤差を減らそう。


そして同時に、

その考え自体が、

また誰かを切り捨てるのではないかと

理解してしまった。


計算は、正しかった。

だが、正しさは、人を救わないことがある。


それを証明した変数は、

もうこの世界には存在しない。



ありがとうございました。

感想をいただけるとありがたいです。

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