嫉妬
「創造神は救いたい」もよろしく!
春坂は塹壕の端に腰を下ろし、息を整えながら医療班の到着を待った。泥まみれの軍服は重く、足にかかる痛みがじわじわと体に伝わる。やがて医療班が駆け寄り、慎重に春坂の足を診察する。
「無理に動くな。しばらくはここで治療に専念しろ」
医療班の声は淡々としているが、春坂にはその一言が現実を突きつける。戦場の最前線に戻れない——しかし従うほかはなかった。
渋々、春坂は治療を受け、足を安静に保つことにする。焦る気持ちはあったが、体の声に耳を傾けるしかない。塹壕の周囲では戦闘の音がまだ遠くで響いていたが、春坂は動かず、じっと時間が過ぎるのを待った。
その間にも、春坂の意思を知る戦友たちは必死に戦線を支え、後方からの援軍を引き寄せるため奔走した。前線での奮闘により、徐々に敵の圧力は弱まり、味方の部隊が安定を取り戻していく。
やがて援軍が到着し、春坂の所属していた大隊は撤退をした。春坂自身は足をかばいながら後方に移動するが、胸の奥には、戦友たちの奮闘が残した熱い想いが刻まれていた。
「……ありがとう、みんな……」
言葉は小さくても、心の中で何度も反芻する。今は前線に戻れなくても、この戦いの一部を、仲間が繋いでくれた——その事実が、春坂の心を少しだけ救った。
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治療が終わり、春坂は今回の戦いでの武功者として、伍長に昇進した。自分では大した記憶が残っていなかったが、どうやら戦場では集中力を保ち、多くの敵を薙ぎ払っていたらしい。
その報告をするため、春坂は藤宮──もう一人の自分──の元を訪れた。案の定、藤宮は笑いながら言った。
「お前のことは、俺のことだからな。よくやった」
その口調は喜びに満ちていたが、
同時に「成果も自分のもの」というふざけた空気がダダ漏れしていた。春坂はため息混じりに肩をすくめ、軽く反応してやる。
詳しい日程は未定だが、春坂は監視の目をくぐって向こうの世界へと帰る。そこで復讐を果たすつもりだ。と告げると、
「好きにするが良い」
と藤宮は淡々とした声で答えた。
だがその目には、どこか羨ましげな光も含まれていた。復讐を実行できる春坂の行動力を、藤宮は少しだけ嫉妬しているのかもしれない。そんなことを思いつつ、退出する。途端、ある感情が心を支配した。これで最後になるかもしれない、という喪失感だ。最後に”自分”の顔を拝んでおこう、と考えた。これもやはり互いの意見が一致した。そして、きちんと別れの挨拶を告げる。
サヨウナラ、と。
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