絶対に、勝ってやる
十一時を回らないよう努力をしているヒヨコです。
そういえば、エピソード3に、軍の階級についてを載せましたので、よければ見て下さい。
「春坂上等兵、一つ気をつけろよ」
隣の上級兵が肩越しに声をかける。春坂は小さくうなずき、塹壕の中で身を低く構える。遠くの地平線に、相手の軍勢が姿を見せた瞬間、寒さよりも深い恐怖が体を包み込む。
銃声や砲撃はまだ遠く、しかし確実に近づいてくる。塹壕の中、兵士たちは互いに緊張を共有しながら、来るべき瞬間を待つ。春坂は心の中で、自分の目標と覚悟を反芻した
——親への想い、復讐、そして生き抜く意志。
やがて、前線の合図が響く。塹壕内の空気が一変する。表藤宮は息を整え、握りしめた拳に力を込めた。これが、自分が生きるための戦いの始まりだ——。
前線が激しく動き出すと、塹壕内の空気は瞬時に張り詰めた。砲声が遠くから地面を震わせ、銃声が不規則に響く。春坂は握った銃の感触で、心臓の鼓動を押さえる。
「動くな、声を出すな」
隣の兵士の低い声に従い、春坂は視線を前方に向けた。地面は泥に混じり、血の匂いがかすかに漂う。詳細は見えないが、仲間が倒れる音が背中越しに伝わってくる。恐怖と緊張が全身を包み込む。
前方の戦線では、黒煙が立ち上り、砲撃で舞い上がる土埃に視界が遮られた。塹壕の中で、仲間同士が支え合い、指示を伝え合う。春坂も、咄嗟の判断で射撃し、身を伏せ、次の行動に移る。生き延びるための本能が、恐怖をかき消す。
戦況は目まぐるしく変わり、塹壕を越える者、伏せる者、助けを求める声
——全てが混ざり合い、戦場の恐ろしさを肌で感じさせる。春坂は、自分が倒れずに立っていることに奇妙な達成感と同時に、虚しさを覚えた。
仲間の肩を叩き、声をかける余裕もなく、ただ前へ進む。泥と煙で全てが混ざり合い、どこから敵が現れ、どこへ進めば安全かもはっきりしない。けれども、前に進まなければ生き残れない。
数時間が過ぎ、砲声が少し遠のいた瞬間、塹壕の中に一瞬の静けさが訪れた。春坂は肩で荒い息をしながら、周囲を見回す。仲間の顔は泥と煙で曖昧だが、皆生きている——それだけでも救いだった。
「まだ……終わらないのか」
心の中でつぶやき、春坂は再び握った銃を胸に抱く。
戦況は一日中、塹壕を行き来しながらの地獄のような戦いが続いた。春坂は泥と煙にまみれ、仲間と声を掛け合いながら前進を続ける。砲声と銃声は絶えず、時折聞こえる仲間の叫びに胸が締め付けられる。
突如、前方で爆風に地面が揺れ、春坂は足元をすくわれた。倒れ込む直前、鈍い痛みが右足を貫き、立ち上がることができなくなる。焦燥と恐怖が一瞬脳を支配するが、振り返れば仲間がまだ必死に戦っていた。
「……くそ……!」
春坂は泥にまみれた足を抱え、痛みをこらえながら何とか体を動かす。足に力を込めるたび、痛みが鋭く突き刺さる。歩くたびに、戦場の足元の不安定さが増す。
それでも、胸の奥で湧き上がる親への思いが、彼を支えていた。立ち止まれば、戦場の現実に飲まれてしまう
——生き延びるためには、前に進むしかない。
仲間に手を借りながら塹壕を乗り越え、春坂は何とか安全地帯にたどり着く。痛みに顔をしかめながらも、目は決して逸らさない。生き残ること、そしていつか復讐のために戦うこと——その想いが、今の彼を支えていた。
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数時間後、ようやく敵の進行が落ち着き、戦線は小休止となった。春坂は息を整えながら、足を押さえたまま泥まみれの地面に腰を下ろす。体の痛みと戦闘の疲労に押しつぶされそうになりつつも、心の中で誓った。
(絶対に、勝ってやる。)




