覚悟
ちょっと遅れた投稿です
白いテーブルの上には、水の入った紙コップがひとつ。
藤宮創一は、その前で静かに両手を組み、まるで自分が客人であるかのように落ち着いて座っていた。
扉が開き、刑事が二人入ってくる。
一人は若く、もう一人は年季の入った目を持つ男だった。
「――藤宮創一さん。あらためて伺います。あなたは、現場にあった“軍服”について、どう説明します
か?」
刑事の声は、探りを含んでいた。
創一はまぶたをゆっくり閉じ、そして静かに開いた。
「……軍の人間です。階級は“大尉”。裏側の世界から来た者です。」
若い刑事が露骨に眉をひそめる。
「以前から、発見以前にそこへ入った人物がいるのでは、という噂は聞いてますが……あなた、自分が何を言ってるのかわかってるんですか?」
創一は表情を変えず、淡々と続けた。
「信じなくても構いません。ですが、私が着ていた軍服は本物。
階級章も、規格も、こちらの世界では製造されていないはずです。」
年配の刑事が、机にそっと資料を置く。
「……確かに、鑑識の報告がまだ来ていないものの、どうも妙なんだよな。
素材も規格も、こちらでは作られていないものだ。」
若い刑事は苛立ちを隠さず、前のめりになる。
「じゃあ聞きますが――あなたは、なぜあの場所へ行ったんですか?
どうしてご両親の近くにいた?」
創一は、わずかに呼吸を止める。
それは、ほんの一瞬。
責められて動揺したのではなく、どう言葉を選ぶか考えるための“間”だった。
「……理由は、ひとつです。
終わらせるため。長い間、自分の中に残っていたものを。」
「“残っていたもの”とは?」
「過去です。」
若い刑事が口を開きかけるが、年配の刑事が手で制した。
「……藤宮さん。あなたの近くにいた方は、発見されたとき既に……動けない状態だった。
あなたは否認しない。けれど、どうしてそうなったのか“具体的”には語らない。それはなぜです?」
創一は、テーブルの上に置いた指先をわずかに動かした。
「話す価値がないからです。それに――私は裁かれに来ました。
裏へ戻れるなら、軍法で。
こちらで裁かれるなら、それでも構わない。」
取り調べ室の空気が一瞬だけ“止まった”。
若い刑事が、声を低くする。
「……あなた、本気で言ってるんですか?」
「ええ。本気です。私は居場所を持たない人間ですから。
だから、せめて――
自分の最後くらいは、自分で選びます。」
淡々とした言葉なのに、その奥には長い年月を積み上げたような静かな疲労があった。
刑事たちは目を合わせ、息を吐く。
そして年配の刑事が、記録用紙を閉じながら言った。
「……まだ聞きたいことは山ほどある。だが、一つだけ今の段階で言える。
あなたは、自分が思っているよりずっと“人間”だよ。」
創一のまぶたが、ほんのわずかだけ揺れた。
だが何も言わない。
静寂が戻り、取り調べ室は再び時計の音だけを響かせた。




