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元被虐児童、軍で生きる 〜裂け目の先の日常〜  作者: ヒヨコのピヨ
別視点

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12/13

ルート分岐・Episode A ①

ちょうど金曜日に完結しそうです。

春坂智──いや、表の世界の藤宮創一が「表へ戻る」と告げに来たとき、胸の奥に微かな違和感があった。

焦っているというか、どこか動きがぎこちない。しかし当時の自分は、それを“復讐心の昂ぶり”だと片づけた。


その判断が甘かったのだと気づいたのは、数日後だった。

自分のロッカーに置いてあるはずの“スペアの軍服”が、跡形もなく消えていた。

管理権限を使って施設中のあらゆる保管庫や記録を探したが、どこにもない。

探す価値もないとわかっていながら、ゴミ箱や浴場まで見て回った。

それでも見つからない。


だが、犯人だけはすぐに思い当たった。


──表へ帰った藤宮創一。


大尉の階級章さえ胸に付けていれば、裂け目の付近で兵士に呼び止められることもない。


あれは明らかに「裏の藤宮創一」として行動するための準備だった。

その推測に行き着いた瞬間、胸の奥に嫌な感覚が浮かんだ。

あのぎこちなさの理由が、ようやくわかった気がした。

___________________________________

裂け目に向かう前から、自分にはもう居場所がないと悟っていた。

表にも、裏にも。

どちらの世界にも、自分を待ってくれる人間はもういない。

それでも復讐だけは、しなければならなかった。


あの頃の自分

──幼い藤宮創一を殺しかけた“あの二人”に、終止符を打ちたかった。


表に戻ったあと、まず向かったのは元いた家。

だが、そこには誰もいなかった。

ただ、かつての生活の残り香と、散乱した古い紙切れだけが残っていて……


それらを拾い集め、必死に読み解く中で、親が現在暮らしている地域を特定できた。

復讐の準備は、その瞬間から淡々と進めた。


上等兵の階級章と予備のライフルだけを部屋に置き、

“表の藤宮創一はここで蒸発した”と見せかけた。


そして──

自分の胸には”大尉章”をつけ、裏で使っていた軍服をまとった。


もし捕まっても、「裏の人間です」と言い張れば処理は軍へ回される。

いつか必ず裏に戻される。


その頃には、きっとこう報じられているだろう。


『春坂智上等兵は、表の世界の人間だった』


その真実が世に出た頃、自分は軍法会議で裁かれ、

死刑か、それに近い処罰でこの人生を終える。


それでいい。


復讐さえ果たせれば、もう十分だ。

そう結論づけた藤宮創一は、静かに裂け目へと歩みを進めた。

___________________________________

親の居場所を示す断片は、どれも古くかすれていた。

それでも読める範囲を繋ぎ合わせれば、一つの地名が浮かび上がる。


——昔、親が仕事で出入りしていた工事現場の仮設住宅。


放置されたゴミ袋、傾いたポール、風で軋む金属の音。

そのどれもが、かつて家族だった場所の延長線のように見えた。

藤宮創一は、ゆっくりとその前に足を止める。



扉を開いた瞬間、空気が変わった。

狭く、荒れた部屋にふたりの大人がいた。


親だ。しかし、彼らは藤宮を見て最初は誰か分からなかった。

表の生活の中で、彼はずっと「子ども」から離れていたからだ。


だが、名乗る必要はなかった。

大尉の制服を纏った創一の表情だけで、相手は凍りついた。


言葉は荒れ、叫び声が飛び交う。

責任のなすりつけ、過去の記憶の否定――


何ひとつ、創一が求めた「謝罪」の形ではなかった。

でも、彼がこの場所に来た理由は、ひとつ。

この長い時間を引きずったままでは進めない。


終わらせなければならなかった。


「……もう、いい」


創一は静かにそう呟き、親の動きを封じた。


どういう形だったのか、誰にも分からない。ただ、ふたりがそれ以上動かなくなったのは確かだった。



ほどなくして、通報を受けた警察のサイレンが近づいてくる。

かつて恐怖の象徴だったその音を、今の創一は静かに受け止めた。

逃げる理由はもうない。

すべてを終えた自分を、そのまま引き取ってくれる音だ。

創一はゆっくりと息を吐き、現場から動かず警察を待った。

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