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元被虐児童、軍で生きる 〜裂け目の先の日常〜  作者: ヒヨコのピヨ
本編・春坂智視点

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1/13

胡蝶之夢

「創造神は救いたい」という作品も書いています。そちらが本命なので、こっちにあまり手が届いていない可能性があります。ご了承下さい。

この世界に「裂け目」が生まれたのは、十数年前のことだった。

最初にそれが確認されたのは、とある地方都市の工場跡地。

空気が歪み、無数の光の粒が吸い込まれるように一点へと収束し、ぽっかりと“穴”が開いた。

国は当初、大気現象や地殻変動の副産物と考えたが、その予測はすぐに覆された。

穴の向こうには、別の世界が広がっていたのだ。

こちら側の世界

——通称”表”世界とほとんど同じ地形を持ちながら、そこはまったく異なる歴史を歩んだ“もう一つの世界”だった。

国々は総じて好戦的で、中でも「大日本制覇帝國」と呼ばれる巨大国家は圧倒的な軍事力を誇り、世界秩序を武力で維持しようとしていた。

表政府は急遽、「”裏”世界管理庁」を設立し、穴の先にある裏世界との接触と調査を開始した。

やがて帝國との間に暫定的な交渉が成立し、物資交換が始まると、裂け目は国家にとって不可欠なルートとなった。

だがお互いの信頼は脆く、裏世界の好戦性を前に、表側には常に緊張が漂っていた。

そんな中で、裂け目周辺では不思議な噂も囁かれた。


「霧の中に吸い込まれるような穴を見た」

「行方不明の子どもがいた」

——真偽不明のまま処理されたそれらの噂の中に、ひとつの事実が紛れ込んでいたことに、誰も気づく者はいなかった。

ひとりの少年が、確かにその穴へと消えていた。

虐げられ、逃げるように路地を走り、咄嗟に飛び込んだ狭い隙間。本人は「マンホールだったのだろうか」と記憶を曖昧に語るが、それこそが未発見の裂け目だった。


少年はそのまま裏世界へと渡り、帝國の国民に拾われ、新しい名を与えられて生きていくことになる。

裏世界での名は——春坂智。

その名を、自分の“本当の名前”だと、少年は疑いもせず信じていた。ある時までは。



___________________________________

胸の奥がじくじくと痛む。誰かが怒鳴る声。何かが壁に叩きつけられる音。

暗い玄関の影にしゃがみ込んで、息を殺していた幼い自分。

視界の端で、伸ばされた手が服をつかもうと迫ってきて——


逃げろ。


あの時、自分の足は勝手に動いていた。

裸足のまま道路へ飛び出し、雨で冷えたアスファルトの痛みもわからなかった。

ただ必死で走り、追いかけてくる足音から逃げることだけを考えていた。

パトカーのサイレンが鳴っている。

誰かが叫んでいる。

誰かが——自分の名を呼んでいる。

だけど、もう思い出せない。あれが誰の声だったのか。

息が切れて倒れ込んだ時、目の前に“穴”があった。

マンホールの蓋が開いていたのかもしれない。

いや、あれは……そんな単純なものじゃなかった気がする。

濃い霧のようなものが、暗い口の中で渦を巻いていた。

怖い。でも、戻ればもっと怖い。

幼い自分は、その黒い裂け目に吸い込まれるように落ちていった———


春坂智は、そこで目を覚ました。


「……また、か」


薄い天幕の天井が視界に映る。

夢の形はいつもぼんやりしているくせに、胸のざわつきだけははっきり残る。


春坂智。今の自分の名前。

拾われたとき、そう名付けられた。

捨てたのは——そう、夢に出てくるあのクソみたいな大人だろう。

顔を洗うと、冷たい水に意識が戻っていく。

軍服の袖に腕を通し、腰のベルトを締め、外に出ると、点呼の準備のために隊員たちが並んでいた。


「春坂、こっちだ」


号令に従い列に加わる。

いつもの体力訓練をこなし、汗で服が肌に貼りつく頃には、夢の残滓はようやく薄れていた。

たった10話前後で終わってしまう作品ですが、どうぞ応援をお願い致します。後日談も書く予定です。

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