荒川の太郎くん
申し訳ありません。編集失敗してやり直しました。
ホラー初挑戦なのですが、作者が怖がりのため、あまり怖くなく仕上がりました…。
僕のおばあちゃん家の近所には荒川という名前の川がある。
今でこそ整備されてちょっと大きいくらいの普通の川になったけれど、昔はしょっちゅう洪水を起こす、“荒れ狂う川”だったことから、荒川と名付けられたそうだ。
毎年お盆には、おばあちゃんのいる田舎にみんなで帰るのだけれど…
おばあちゃん家は本当に田舎なので、遊ぶところが何もない…。
一応小さな公園はあるけれど、暑いし…遊具と言っても小さな子供でも楽しめるようなものしか置いてないから、つまらない。
ゲームをしていたら…
「せっかくおばあちゃん家に来てるんだから、こんな時までゲームで遊ばないの!!」
と怒られる…。
仕方ないので僕は、妹のナナを連れて散歩に出かけることにした。
本当は、ナナを連れて行くと歩くの遅いし…すぐ疲れて抱っこって言うし…面倒くさいけれど、ナナは僕のことが大好きだから、置いていったらすごく拗ねるので仕方ない…。
お母さんは、ナナには「暑いから気をつけてね」とこまめに日焼け止めを塗ったり、帽子をかぶせたり、虫よけシールを貼ったりしてあげるのに、僕はほったらかしだ…。
それをお母さんに言うと、「ナナはまだ幼稚園児だし、女の子だから日焼けしたり虫刺されの跡が残ったら困るけれど、コタロウはもうお兄ちゃんだし…自分で出来るでしょ?」と返された。
仕方なく、僕は自分で日焼け止めを塗って、虫除けシートを貼り、帽子も被った。
男の子だって、日焼けも虫刺されも、嫌なのに…。チェッって思いながら…。
ナナを連れて出掛けようとしたら、おばあちゃんが声を掛けてきた。
「コタロウ、外に遊びに行くのは良いけれど、川にだけは行ってはいけないよ…」
「どうして?」
「お盆の川には…タロウくんが帰ってきているから…」
「タロウくんって誰?」
「タロウくんは…『荒川の太郎くん』だよ。お盆に川に入ると、タロウくんが一緒に遊ぼうと誘ってくるの…。
でも、タロウくんと一緒に遊んだ子はそのまま連れて行かへて、二度とこちらに帰ってこれないと聞くわ…だから、川は駄目よ」
おばあちゃんの顔は冗談を言っているようには見えない、真剣な顔だった…。
「は〜い」
本当は暑いから川遊びがしたかったけれど、川に行くと言ったら怒られそうだから、やめておいた。
散歩に出掛けてしばらく行くと…自分よりももう少し年上の…小学5年生くらいの男の子の集団とすれ違った。
『おい、今日は暑いから川行こうぜ!』
『でも、この時期はタロウくんが出るから、お母さんが駄目だって…』
『タロウくんなんて…迷信だろう?大丈夫、そんな深いところには行かないし、ちょっと足つかるだけだから…』
すれ違ったその集団は、結局川へ向かうようだった。
おばあちゃんの言っていた『荒川の太郎くん』はこの辺りでは有名なお話らしい…。
次の日もすることがなくて、僕はナナと散歩に出掛けた。ナナは昨日お祭で買ってもらった、ビニール風船で出来たコロコロパンダを持って行くと言って聞かなかった。
「散歩してて邪魔になったら、すぐお兄ちゃんに渡すだろ?それは置いていこう」
「渡さない!!ちゃんと自分で持つもん。だから、お兄ちゃん、お願い!!」
頑なに譲らないナナに折れたのは、結局僕の方だった…。
『今日も暑いし、川に行こうぜ!!』
『でも…』
『結局昨日もタロウくんなんて出なかったじゃないか。大丈夫だって…』
どうやら昨日すれ違った集団のようだ…。
今日も川に遊びに行くらしい…。
僕はしばらくナナとその辺を散歩したけれど、2日目になると目新しいものもなくなってくる…。
「ちょっとだけ行ってみようか…?」
きっとさっきの男の子達もいるだろし、中に入らなければいい…ちょっと魚とかいるか見てみるだけだ…。
「お兄ちゃん、どこ行くの…?」
「う〜ん?面白いところ…」
僕はさっきの集団が向かった方角へと進んだ。すると川が流れる音がしてきた。
音に従い進むと…ちょうど良い感じに河原に降りられるところを見つけた。
でも川には誰もいなくて…
さっきの集団は、もう少し他のところに行ったのだろうか?
僕が辺りを見回していると…
「どうしたの…?」
さっきまで誰もいなかったのに、突然現れた男の子に声を掛けられた。
年が同じくらいだからだろうか…
「お兄ちゃんにそっくり…」
そう…彼は少し僕に似ていた…。
今どき珍しいロボットの絵が描かれたシャツに、半ズボンという珍しい格好をしている男の子だった。
「そうかな…?君はいくつ?」
男の子に尋ねられたので、7歳と年を答えると、同じ年だった。
「君は一人で遊んでいるの?」
今度は僕が尋ねた。
「いいや、妹と来たんだけれど…川に流されたサンダルを探しているうちに、どこかに行ってしまってね…」
困ったように笑った彼の右手には、白いサンダルの片割れが握られていた。
「だから川遊びに、買ったばかりのサンダルなんか履いてくるなと言ったのに…」
たぶん言っても聞かなかったのだろう…。
妹とはそんなものだ…。
「お兄ちゃん!!」
「ナナ、急に叫んだりして、どうした?」
僕達が話ししている間、退屈したナナは一人でコロコロパンダで遊んでいたようだ。
そしてビニールで出来た軽いおもちゃだから、風に煽られて…川に落ちてしまったらしい。
昨日買ったばかりの…お祭価格だからか思いのほか値段がはって、お父さんに強請ってやっと買ってもらったコロコロパンダが流されてしまった…。
今ならまだ手の届く範囲だったので、僕が川に取りに行こうとしたら…
ナナが足にしがみついて来た。
「パンダさんはもういいから…お兄ちゃん行かないで!!
川は危ないから…お兄ちゃんの方が大切だから…」
結局その間にパンダは届かないところまで流されたので、あきらめて帰り、二人して叱られた。
お父さんとお母さんが叱ったのは、パンダをなくしたことではなく、勝手に行くなと言われた川に遊びに行ったことだった。
どうやら今日、川でまた行方不明の子供が出たと近所の連絡で回ってきたらしい。
小学校5年生の男の子が3人、昼に遊びに行ったまま、まだ帰ってきていないそうだ…。
川原で男の子の靴が見つかっているらしい…。
「おばあちゃん…『荒川の太郎くん』って、どんな服装をしているの?」
僕が尋ねると…
「太郎くんは…当時流行っていたアニメのロボットのTシャツに、ジーンズの短パンをはいていたわ…」
そう語るおばあちゃんの表情はとても固く…何か考え込むようで…。
後で思い返すと、たぶんおばあちゃんはもうこれ以上悲劇が続くのを止めなくてはいけないと決心したのだろう…
その夜…
兄妹で仲良く引っ付いて眠る子供達をじっと見つめる者がいた…。
『ハナ…』
眠る少女を見て呟く…。
「太郎くん、その子はハナじゃなくて、ナナよ…。ハナはわたし…」
そう語りかけたのは、少女の祖母だった。
『ハナ…待っていたよ。ほら、ハナの大切なサンダルもちゃんと見つけたんだ…』
そう語る少年の手にはハナのお気に入りだったサンダルが握られていた。
「お兄ちゃん、ありがとう。長い間、待たせてごめんね」
『大丈夫。他の子たちが相手してくれたから、そんなに淋しくはなかったよ』
その言葉にハナはちょっと一瞬言葉が詰まった…。
でもまた笑顔で答えた。
「でも、これからは私が一緒だから、他の子は必要ないでしょ?」
『そうだね…』
少年はとても嬉しそうに微笑んだ。
翌朝、何故か祖母は眠るように息を引き取っていた。
そして行方不明になっていた少年達が河原で眠っているところを発見されたという知らせが伝えられた。
それ以降、子供達が川で溺れて亡くなる事件は起きていないけれど、
『荒川に行く時は子供達だけで行ってはいけない。寂しがりの兄妹がイタズラを仕掛けにくるから』と言われるようになった。
それは、虎太郎や奈々が大人になった今も子供達に語り継がれている。
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