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困惑と幼馴染 2

「僕は定期健診の帰りさ」


天ヶ瀬が促す方を伺うと、公園の出入り口付近に黒塗りの高級そうな車が停まっている。

ふーん、なるほどね。


「何、定期健診って、お前どこか悪いの?」

「いいや」

「じゃあなんでだよ」

「月一で健診を受けるよう言われているのさ、立場上健康には気を遣わないとならないのでね」

「あっそう、御曹司様は随分と大切にされているご様子で」


俺なんて信頼している幼馴染にもう三度も殺されてるってのに。

死んだら健康もへったくれもないぜ、クソ。


「随分と突っかかってくるね」


言いながら天ヶ瀬は―――おい、なんで隣に座る?

ちょっといい匂いがするぞ、こいつ。

てか俺に用かよ、まさかサボりのことで説教するつもりじゃないだろうな。


「ところで顔色が悪いようだが、君こそ何かあったのかい?」


図星を突かれて今度こそ動揺してしまった。

どうして分かる、そんなに表に出ているのか?

けど流石に理由までは分からないようだ。

当たり前だよな、俺だってこんな馬鹿げた状況、やっぱり夢だと片付けちまいたい。


「別に」

「ふむ」


天ヶ瀬は何か考えるように俺をじっと見る。


「しかし、随分とまいっているようだが」

「だとしてもお前に関係無いだろ」

「確かにそうだ、しかし見かけてしまった以上、放置も出来ない」

「意外に親切なんだな」

「そうだろうか?」


何だこいつ。

そういや、まともに話したのって初めてかもしれない。

こういう奴だったのか?


「大磯君」


天ヶ瀬は姿勢を正す。


「この場には、今、僕と君しかいない」


そんなことを急に言われて身構えた。

だから何だ?


「なので話してみるといい、人に話せば、おのずと君自身の整理もついて、問題の解決策に辿り着けるかもしれない」

「は? なんだよ、それ」

「現に今の君の様子は、悩みを誰かに聞いて欲しそうだ」

「そ、そんなんじゃ、ねえよ」


でも、正直なところ、天ヶ瀬に指摘されて気が付いてしまった。

この事を誰かに話したい。

別に共有したいってわけじゃない、ただ、吐き出さないとそろそろやっていられない。

誰でもいいとはいかない、ある程度俺の状況に理解を示してくれるだろう、普段は無関係な他人がいい。

そう、丁度天ヶ瀬みたいな立ち位置の奴が。


だが本当に話していいのか?

こんな荒唐無稽な状況、俺だったら気のせいで済ませる。

こいつも笑ったり呆れたりするんじゃないか?

聞くだけ聞いて、バカにされて、それこそただの夢で片付けられちまったら、堪ったもんじゃない。


「話すことに抵抗があるようだね、それなら、僕は君に三つ約束をしよう」


そう言って天ヶ瀬は、俺に指を三本立てて見せる。


「僕は、君の話を笑わない、茶化さない、人に吹聴したりもしない」


お、おい、なんで、こいつ人の心が読めるのか?

でも今の約束を天ヶ瀬が本当に守ってくれるなら、こっちも覚悟ができる。


「さあ、どうする?」


俺をまっすぐ見つめる天ヶ瀬の瞳に呑まれそうだ。

美形の真顔って半端ない迫力だな、これがカリスマってやつだろうか。


「本当かよ」

「ああ」

「どうしてそこまで俺を気に掛ける」

「ただごとでない様子だからね、明らかに思い詰めている」


それは、まあ。

でもそこまで外に出てたか、こうしているだけで様子のおかしい奴がいるって通報されそうだな。


「俺の話を、ただ聞くっていうのか」

「そうだよ」

「後で何か要求したり、弱みを握ったなんて思わないだろうな?」


途端に天ヶ瀬は盛大に溜息を吐いた。

心底呆れた様子で俺をジトッと睨む。


「それで僕に何か利があるのか?」

「知らねーけど、でも俺の話を聞いても得にはならないだろ」

「既に損得の範疇ではないよ、これは僕の気まぐれみたいなものだ」

「気まぐれねえ」


まあ、俺にも損も得もないか。

こんなことで脅されたって屁みたいなもんだし、精々がサボりをチクられて先生にも叱られる程度だ。


「分かった」


ジュースを一口飲み、改めて天ヶ瀬に向き直る。


「だったら聞いてもらおうじゃねえか」

「いいよ、いつでも始めてくれ」

「おう」


しかし、改めてどこから話したものか。

こうなったら最初からぶちまけるか、そうだな、小細工ナシでいこう。


「俺さ」

「ああ」

「殺されたんだよ」

「それは、誰にだい?」

「幼馴染の、藤峰 薫」


天ヶ瀬は笑わず、驚きもせず、俺の話を聞いている。

意外だな。

本当にただ聞いてくれるのか、だったら有り難い。

このまま話を続けさせてもらおう。


「最初はナイフで刺されて死んだ」


腹を一突き、その後更にめった刺しにされた。


「次もナイフだ、丁度この辺り、柄の部分まで刺さってた」


脇腹辺りをそっと撫でる。

あの時の痛みと灼熱感を今でもありありと思い出せる。

そして、薫は泣いていた。

俺を『嘘吐き』と詰りながら。


「三度目は焼死だ、ガソリン被った薫が抱きついてきて、一緒に燃えた」

「それは随分と情熱的だね」


ハハッ! つい声に出して笑っちまう。

確かに情熱的だ、実際死ぬほど熱かったからな。


「全部、夢の話だ」

「夢」

「そう、けど多分現実なんだよ、俺は薫に何度も殺されて、その度に今日の朝に時間が巻き戻っている」


話してみると改めて馬鹿げていると思う。

でもこれは体験した俺自身にしか分からない感覚だ。

理解なんて得られないと分かっている、聞いてもらうことだけが目的だから、それ以上は何も期待していない。


「そう」


天ヶ瀬は今の俺の話を吟味するように、口元に手をやってまた考えこむ。


「君を殺すのは藤峰君なのか」

「ああ」


今更だが、薫の名前は出さない方がよかっただろうか。

適当に濁しておくべきだった。

今の内容だと、捉え方によっては俺が薫を嫌っている様に感じられてしまう。

だがそれだけは絶対にありえない、たとえ何度も殺されていたとしてもだ。

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