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明日と幼馴染 2

見送ったその場から回れ右して発着場が見渡せるフロアへ急ぎ、薫が乗るだろう飛行機を探す。

いまいちどれがどれか分からないが、出発時刻から大まかに目星をつけて、大空へ飛び立っていく機体に胸の中でエールを贈った。

いつか戻ったら留学先の話を聞かせてくれよ。

楽しみにしている。

―――またな。


さて、と。

用は済んだが、せっかく空港に来たんだ、コーヒーでも飲んで帰るか。

適当な店に入ってコーヒー一杯の値段にビビりつつ、ほろ苦さを味わいながら今頃は空の上にいる薫へ思いを馳せる。

本当にアイツは凄い、俺も負けていられないな。


けど、薫の奴なんで急に理央を『さん』なんて呼んだんだろう。

いつもは『天ヶ瀬君』って呼んでいたのに。


それに俺が鈍いってなんだ、もしや理央に惚れていることがバレたか?

だとしても意味不明だ。

まあ、どうせ俺は鈍いからな、考えたって分かるはずもない。

分からなくても殺されるわけでもないし、別にいいか。


コーヒーを飲み終え、ぶらぶらとバス停へ向かう。

停留所でバスの到着を待っていると、不意に後ろから肩を叩かれた。


「理央!」

「やあ」


お、お前、何でここに?

今日の予定は教えたが、誘った覚えはないぞ。


「お前、なんで」

「そろそろ帰る頃かと思ってね、迎えに来てあげたのさ」

「え?」

「ほら、あちらだよ」


理央が示す先には高級そうな車が停まっている。

その車の手前に佇み深々とお辞儀した人は、多分運転手だ。


「おお」

「では行こうか」

「そうだな、サンキュー、理央」


気を遣ってくれたのか、相変わらずいい奴だ。

それにしても、薫といい、理央といい、周りから注目の的だよな。

可愛くて美人だから。

傍にいるだけの俺も何だか鼻が高い。

どっちも高根の花だが、どっちも男なんだよなあ。

羨ましいというか、もどかしいというか。

特に理央に対しては、これからの俺達の関係を想うと軽く憂鬱だ、ため息が漏れる。

―――でも、俺は諦めたりしないぞ。

男同士がなんだ、昔から障害のある恋は燃えるって言うからな。

俺も海外へ飛び立っていった薫を見習って、更に男を磨こう。

そしていつか理央を振り向かせるんだ。

絶対に惚れさせてやる、覚悟しておけよ。


俺と理央が後部座席に乗り込むと、運転手も運転席に乗り込み、車は音もなく発進した。

暫く走った辺りで理央から、薫はどうだったかと尋ねられる。


「元気に旅立っていったよ」

「そうか」

「今日、あいつを見送ってやれてよかった」

「僕も彼の活躍を願ってやまない、藤峰君ならきっと大丈夫だ」


ああ、同感だ。

有難う理央。

―――今日までにあったこと、あのループの日々が今は少し懐かしい。


「けどさ、結局あれは何だったんだろうな」

「何がだい?」

「ループだよ」


運転手に聞こえないように、声を潜めて理央に囁く。


「そこだけ謎のままだろ」

「そうだね」

「考えてもさっぱりなんだよな」

「―――例えば」


不意に理央が話を切り出す。


「大切な使い魔を助けてくれた恩人に、魔女が呪いを掛けたんだ」

「は?」

「条件付きの呪いさ、対価は魔女の血液、呪いを発動させるたびに一定量の血を捧げる」

「何に?」

「時を司る存在にだよ」


対価が血液? 呪い?

それはまさしく魔女だな、オカルトの領域だ。


「そして解呪の条件は、君が生き延びること」

「俺が?」

「そうさ」

「俺だけ?」

「ああ」

「それはちょっと嫌だな」


仮に、一日目と二日目、そして俺が薫と話し合おうとしたあの時、皆が殺されていても、俺が生き延びればループは終わっていたってことか?

それに理央が刺された時だって、俺が逃げて殺されなければやっぱりループは終わっていたのか。

―――冗談じゃない。


「そりゃ唐突なファンタジー路線だな」

「気になっているようだからね、教えてあげたのさ」

「ふーん、でも俺は使い魔なんか助けた覚えはないし、だから魔女に借りもない、そもそも俺だけ生き延びたって意味無いだろ、確かに死ぬのはきついが、それでお前や皆を犠牲になんてできるかよ」

「君らしい考え方だね」

「ループはSFの領域じゃないのか? もっとSFっぽい理由を説明してくれ」

「では君はどう考える?」


そう言われても、咄嗟に思いつくほど俺は想像力豊かじゃない。

まあ、過ぎたことはいいか。

結果としてあのループに助けられた事実は変わらないしな。


「お前の言うとおりだったとして、その魔女は随分と義理堅い奴だな」

「かもしれないね」

「でも命の恩人だ」

「余計な真似だと思わないのかい?」

「まさか」


「感謝している」と答えて笑う。

理央も穏やかに微笑む。

本当に―――綺麗だ。

好きだ、理央。


「そう言えば健太郎」

「ん?」

「この後、何か予定は?」

「特にないかなあ」


理央は俺を意味深に見つめる。


「では、このまま以前の約束を果たすとしようか」

「え?」

「デートだよ、するんだろう?」

「ええッ」


い、今から?

それは大歓迎だが、いやでも、俺としてはしっかりプランを練ったうえで万全を期して挑みたいというか、けど理央からのお誘いだし、ううーッ!

どうする健太郎! どうする!


「そ、それは勿論、喜んで、けどその、今回は別枠ってことにならないか?」

「何故?」

「俺から誘いたいんだよ、だから今日とは別に、また俺とデートしてください!」

「やれやれ、仕方ない」


呆れる理央から「いいよ」と返事を貰ってガッツポーズだ。

よしっ、どさくさに紛れて次の約束まで取り付けたぞ、これぞまさしく棚ぼた!


「しかし君は相変わらず厚かましいね」

「そんな言い方するなよ」

「ふふ、本当に世話が焼ける」


その評価は若干不満アリだが、理央は楽しそうだし、まあいいか。


―――俺は、あのループを経て人はいつどうなるか分からないということを学んだ。

それから、理解しているつもりの相手でも、大切なものを見落とす可能性があることも。


だからなるべく後悔のない人生を送りたい。

そんなの理想論だろうが、足掻き続けるくらいなら俺にも出来るよな。

ループの時もそうした。

諦めないこと。

運命を変える可能性を模索し続けること。

でもそれは、俺だけでは成し得なかったことだ。

隣に理央がいてくれたから、支えてくれる人がいたから。

俺達はきっと誰も一人では生きていけない。


「なあ理央」

「うん?」


いつか気持ちを伝えるよ。

これからは俺が、お前の傍にいられる価値を身に着けるんだ。


「なんだい、健太郎」

「いやぁ、今日も美人だなあって」

「それはどうも」


生きているって楽しい。

こうして理央と話せるのも生きていればこそだ。

―――有難う。

ここからがようやく俺達のスタートライン。

お前との物語も『めでたし、めでたし』で締め括れるよう、俺はまだまだ足掻き続ける。


明日がどうなるか分からないからこそ、人生は楽しいんだ。

やり直しがきかない今を、また一歩ずつ踏みしめて生きていこう。

最後までお付き合いいただき有難うございました!

よければいいね、感想等お待ちしております。


それではまた、次の作品でお会いしましょう。

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