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明日と幼馴染 1

LOOP:13

Round/Let‘s go together


ずっと昔、俺が薫に『王子になってやる』と告げた、あの大きな木のある公園。

そこで改めて薫の想いを受け止めてから―――一か月が過ぎた。


俺は今日も元気に生きている。

時間が巻き戻ることもない。

やっぱり、俺が約束を思い出して薫に殺されないことが、ループを終わらせる条件だったようだ。


「おお~っ!」


あちこち目移りしながら歩いていたら、薫に「あんまりキョロキョロしないの」なんて注意されちまった。

しょうがないだろ、空港なんて滅多に来ないんだから。

それにしても色々な奴が大勢いるな。


「あいつらもここから海外へ旅立つんだろうな」

「そうかもね」


笑う薫の、俺は荷物持ち兼付き添いとしてここにいる。

これからもっと広い外の世界へ、薫は飛び出していくんだ。


薫には、ずいぶん前から海外留学の誘いが来ていたらしい。

知らなかったし、薫もずっと言い出せなかったそうだ。

そのことを公園で和解した翌日に告げられた。

高校へ進学して環境が変わり、更に俺と物理的に離れてしまう不安が、薫をあの凶行へ追い込んだのかもしれない。


何度も、何度も、何度も―――

俺が薫に殺されたことは、俺と理央しか知らない。

あの時の痛みや絶望感、酷い気分を忘れることは一生できないと思う。

でも、薫の孤独に気付いてやれた、和解したあの日に俺達の絆は前よりもっと強くなった。

だから悪いことばかりじゃなかったよな。

―――何て言ったら、理央には『君は楽観的過ぎる』って呆れられちまったが。


だが、皆にはループの記憶が残らなくてよかった。

それだけは確実だ。

やっぱりさ、大切な人達には笑っていて欲しいじゃないか。

理央だけは巻き込んじまったが、あいつは分かってくれているから、俺もその好意に甘えようと思う。

姫たちの笑顔を守るのが、王子の役割だろうからな。


「しかし薫は凄いよな、留学なんて俺には一生縁のない話だ」

「じゃあ、ケンちゃんも一緒に来る?」

「えっ」


冗談、と薫はクスクス肩を揺らす。


「飛行機のチケットが無いし、ケンちゃんはここを離れ難いでしょ?」

「ああ、まあ」

「私もね、たくさん悩んで迷ったよ、でも」


俺を見上げる薫の瞳は星みたいにキラキラと輝いている。


「君が背中を押してくれたから」

「薫」

「ケンちゃんは、これからもずっと私の王子様なんだよね?」

「おう」


それがお前の前へ進む力になるなら。

俺はいつまでもお前()を肯定する王子でいるよ。


「じゃあ大丈夫、私はどこへ行っても頑張れる」


立ち止まり、くるっと回った薫のスカートが揺れる。

まるで花みたいだ。


「だって私は、君のお姫様だからね!」


傍を通りがかった男も女も、思わず薫に目を留め見惚れている。

近くにいた小さな女の子が薫を見ながら母親に「かわいい、プリンセスみたい」なんて囁く声が聞こえた。


「えへへっ」


はにかんで笑った薫が不意に抱きついてきた。

甘い香りがフワンと漂う。

まあ、実は男同士なんだが、羨望の眼差しを一身に浴びるのも悪くないもんだ。


「ねえケンちゃん」


そのまま薫は話しかけてくる。


「最低でも一年は会えなくなるけど」

「ああ」

「元気でね」

「薫もな」

「有難う、私ね、向こうでも毎日君を想うよ」

「じゃあ俺はメールする、通話だってしよう、手紙も書くよ」

「本当? そんなにいいの?」

「任せろ、俺はマメだからな」

「それは嘘、もう、ケンちゃんったら格好つけなんだから」


でも連絡は必ずするよ。

俺達はどんなに離れても一緒だ。

これからも俺は薫を応援し続けるし、必ず味方でいる。

血は繋がっていなくても、俺達は兄弟みたいに育った仲だ。

お前には俺が、俺にはお前がいて、繋がりは決して途切れたりしない。


「有難う」


俺からそっと離れた薫は、フライトの予定が表示された案内板に視線を移す。


「そろそろチェックインに行かないと」

「もうか? 早くないか?」

「搭乗手続きって混むんだよ、だから―――ここでお別れだね」


そうか。

とうとう見送らないといけないのか。

今になって不意に寂しさが込み上げてくる。

明日から隣にお前の姿を見つけられないのかと思うと、何だか日常の一部が欠けてしまうようだ。


「ケンちゃん」


薫の瞳もうっすら潤んで見える。


「私、君からたくさんのものを貰ったよ、今の私があるのはケンちゃんのおかげ」

「なに言ってる、俺だって同じだよ」

「本当?」

「ああ」

「それならよかった」


頑張れよ、薫。

俺もここで頑張るから。

自分の足でしっかりと立って、前を向き進み続けるお前に、胸を張っていられるように。


「私、これまでも、これからも、君が好き、大好き」


片手を差し出す薫の目にはっきりと涙が滲む。


「ああ、俺も好きだ、薫」


その手を握り返して、固く握手を交わした。

これは別れの挨拶なんかじゃない。

俺達がそれぞれ一歩を踏み出すための、再会の約束のための握手だ。


「それじゃ、行くね」

「ああ」

「あ、そうだ、ケンちゃん」

「ん?」

「天ヶ瀬さんと仲良くね」

「おう! ―――お?」


薫はクスリと意味深に笑う。


「なんか、今、変じゃなかったか?」

「そう?」

「理央を『天ヶ瀬さん』って呼んだだろ」

「言ったかな?」

「言わなかったか?」

「でも、私こそケンちゃんがいつの間に天ヶ瀬さんとあんなに仲良くなったのか、ずっと気になってるんだけど」

「やっぱり『さん』って呼んだだろ!」

「それが?」

「えっ」

「もう、ケンちゃんは鈍い! 鈍過ぎる!」


いて!

なんで急に叩くんだ、薫こそ意味不明だろ。


「いいもん、ケンちゃんは私の王子様なんだから」

「おい、何の話だよ」

「知らない、鈍感なケンちゃんには教えてあげない」


混乱する俺から薫はキャリーバッグをひったくる。

何なんだマジで。


「なあ薫」

「君ってやっぱり女の子が好きなんだねって話だよ」

「はぁ? わけ分からん、説明し―――」


言葉の途中で急に腕を引っぱられた。

伸びあがった薫が俺の頬にチュッとキスする。

お、おお?


「これは仕返し」

「な、何の?」

「内緒」


さっぱり訳が分からないが、訊いても答えそうな雰囲気じゃない。

今のでなんか有耶無耶にされちまったし、まいったな。

仕方なく頭を掻いたら薫は笑うから、俺も何となく笑顔を返す。


「じゃあ、元気でな」

「ケンちゃんもね」

「おう、向こうでもめいっぱい楽しんでこいよ」

「うん! いってきます!」

「いってらっしゃい!」


キャリーバッグを引いて歩き出した薫は、真っ直ぐチェックインの列へ向かっていく。

見送る俺に何度も手を振り、そして―――ゲートの向こうへ行ってしまった。

頑張れよ。

この先は傍にいてやれないが、いつでもどこにいても俺達は繋がっている。


だから、お前はずっとお前らしくいてくれ。

最高に格好いい俺の幼馴染。

応援しているからな、薫。

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