表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/46

約束と幼馴染 1

LOOP:12

Round/Settlement


「健太郎!」


ループが始まる日の昼休み。

午後から登校してきた理央が、俺を探して屋上に現れる。


「理央」

「また死んだな、アルバムは持ってきているか?」

「ああ」

「よかった、あの時伝えられなかったことを今伝える、貸してくれ」

「頼む」


隣に座った理央に、バッグからアルバムを取り出して渡す。

理央は後ろの方のページを開いて俺に見せながら、気付いた内容を話し始めた。


やっぱり、そうだったか。

あの時の違和感の正体。

とっくに当たり前のことになっていたから俺には分からなかった。


どうして忘れていたんだろう。

俺はただ必死で、薫に泣き止んで欲しくて、ひたすらにそれだけだったから。

―――けれど、出まかせを言ったつもりはない。

今だって想いは変わらず本物だ。


「健太郎」

「有難う理央、やっと腑に落ちた」

「君、約束については?」

「思い出したよ」


じっと俺を見詰める理央は、不意に優しい目をする。


「そうか」

「ああ」

「よかったな、これでやっと」

「そうだな、お前の採血を終わらせてやれる」


思いがけない様子でキョトンとして、今度は急に「なんだい、それは」と顔を顰める。

百面相だな、可愛い。


「前に言ってたじゃないか、毎度健診で採血されてうんざりだって」

「君は殺されているだろう」

「まあそうだけど」

「今になってその話を持ち出すのは意地が悪い」

「ハハッ、ごめんって」


小さく溜息を吐いた理央は、改めて俺を見詰める。


「けれど」

「ん?」

「そんな君だから、僕は」


色素の薄い透き通った瞳。

―――理央は綺麗だ。

くっきりとした二重、長いまつげに、スッと通った鼻筋。

肌だって白い、髪は柔らかくて、時々本当は女なんじゃないかって疑っちまう。

でも、性別なんてもうどうだっていいんだ。

俺は理央を好きになった。

案外世話焼きで、義理堅くて、優しく頼もしいこいつを。


俺とこんなことに巻き込まれなければ、多分お互いに絡むこともなかった。

俺も理央のいいところを知らずにいただろう。

そういう意味ではループに感謝だ。

―――でも、何度も死ぬのだけはやっぱり勘弁して欲しかったけどな。


「あ、そういえばさ、理央」

「なんだい?」

「前に入学式の時、俺と何かあったようなこと言ってただろ?」

「ああ」

「そっちはまったく思い出せないんだ、悪い」

「構わないよ」

「だからその、できれば教えて欲しいんだが、ダメか?」


理央はよくても俺の座りがどうにも悪い。

はたとした理央は、クスッと笑う。


「ダメってことはないかな」

「じゃあ教えてくれッ、頼む、この通りだ!」

「猫さ」

「猫?」


訊き返すと理央は頷く。

猫ねえ?

うーん、ダメだ、思い当たる節が何もない。


「君、入学式の日に猫を助けただろう」

「そうだったかな」

「物陰で動けなくなっていた猫に、水を飲ませて落ち着かせてやった」

「ううーん、んー、あっ!」


思い出した!

そうだ、あれは入学式の、帰り道だ。

近所の作業休みの工事現場で子供が騒いでいて、危ないから様子を見に行ったら、猫がいたんだ。

資材置き場の隅で縮こまって震えていた。

だから俺は子供を追い払って、たまたま持っていたペットボトルの水を飲ませてから、猫をどうするか考えていた。

取り敢えず保護して家に連れていくか、それとも獣医に診せるのが先か。

けれど迷っている間に猫は元気になって、俺に軽く体を摺り寄せてから身軽な動作でどこかへ行ってしまった。


あの猫と理央にどんな繋がりが?

それ以前に、理央はどうしてそのことを知っているんだ。


「君が助けてくれた猫は、僕の猫だよ」

「そうだったのか」

「ああ」


でも、何で知っている?

どこかで見ていた? まさか猫が理央に話したのか?

そんな馬鹿な、化け猫じゃあるまいし、普通に可愛い黒猫だった。

困惑する俺を暫く眺めて、理央はおかしそうにクスクスと笑う。


「見ていたのさ」

「は?」

「猫を探していた家の者だよ、君の善行を見ていて、後で僕に教えてくれた」

「な、なんだよそれ、だったらあの時声を掛けてくれたら」

「さて? 問題ないと判断したのだろう、結果として君のおかげで猫は帰ってきたからね」

「ふーん」

「だから僕は、君に恩があるのさ」


それでずっと協力してくれたのか?

飼い猫の恩なんかのために。


「お前、本当に義理堅いな」

「そうかな」

「猫を助けたくらい、大したこと無いだろ」

「君はそうかもしれない、だが、僕にとっては違った、それだけのことさ」


ああ、そうか。

理央も薫と同じで、俺とは受け止め方が違ったのか。

今なら理解できる。

それに、多分俺だってそうだ。

相手が俺にしたこと、それを俺がどう感じたか、恩と思うか、裏切りと思うか、お互いに意図が違う形で伝わってしまうことなんて当たり前に起こる。


「健太郎」


理央が不意に微笑む。


「けれど、こうして君といるのは、今はもう僕の意思だよ」

「えっ」

「君はいい奴だ、思っていたよりずっと」

「理央」

「だから僕は、そんな君の力になりたい」


ど、ドキドキする。

今でも十分過ぎるくらいなんだが、あの猫は理央にとってそんなに大事だったのか。


「有難う、健太郎」

「なっ、何言ってんだ、礼を言うのはこっちだって!」


お前がいてくれてよかった。

いつも俺に勇気をくれた、お前のおかげで諦めず、俯かずに前を向いていられたんだ。


「ずっと支えてくれてサンキューな、理央」

「ああ」

「俺、決着をつけてくるよ」


理央は真顔になって俺の手を握る。

その手を俺も強く握り返す。


「頑張れ健太郎、健闘を祈る」

「おう」

「もし、また上手くいかなくても―――焦ることはないよ、幾らでも付き合ってあげよう」

「ッはは! やめてくれよ、それは有り難いが、流石にこれ以上死ぬのは御免だ」

「そうだね」


ループを終わらせる。

今度こそ。

薫を解き放ってやるんだ。


あの時告げた言葉は本気だった、今でも思いは変わらないが、それが薫の枷になってしまっている。

だけど、きっとお前に俺はもう必要じゃない。

だからけじめをつける、王子らしく、王子として。


これからも守るって決めてるからな。

薫は、俺の大切な家族だ。

お互いに成長して、関係性が変わったって、それだけは絶対に変わらない。


「ところで健太郎」


お互いに手を握ったままで理央がふと小首を傾げる。

あざとい仕草だ、グッときた。

何だってそういちいち可愛いんだよ。


「僕をどこへ連れていってくれるか、もう決まったのかい?」

「へ?」

「おや、デートの約束は無しか?」

「はぁ!?」


そ、そんなわけあるか!

思わずデカい声を出しちまった。

またおかしそうに笑う理央に、若干ばつが悪い心地で「これからだよ」と答える。


「そうか、僕も何かと忙しい身だ、決まり次第連絡をくれ、待っているよ」

「おう!」


マジでデートしてくれるんだな、嬉しい。

理央をどこへ連れていこう、あっそうだ、映画を見る約束をしてたんだよな。

初回はまさかのお家デート?

でも、理央にしっかり確認を取ってから呼ばないと。

あんな目に遭った場所に二度と来たくないかもしれない。俺だっていまだにトラウマだ。


だけど呼べるなら、理央を家に呼びたい。

もっと俺のことを知ってもらうために。


そのうち行けたら理央の家にも行ってみたいが―――流石に無理だろう。

天ヶ崎邸は聞いた話だと東京ドーム三個分もある豪邸らしい。ってどんな規模だよ。

流石に庶民には敷居が高い、はあ、俺の想いは相変わらず前途困難だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ