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噓と幼馴染 2

理央の弁当でエネルギーチャージ満タン、予鈴に合わせて時間差で教室に戻る。

誰かと親密な様子を今の薫に見せるのはよくないだろうからな。

たとえそれが同じ男の理央であっても関係無いってことは、あの出来事で図らずも証明されている。

この先、まだ死ぬとして、それは俺だけでいい。

というかループ自体をいい加減終わらせてやる。


午後はあっという間に過ぎて、放課後になった。


薫を誘って一緒に帰る途中、小学生軍団に遭遇した。

やかましいくらい賑やかだが、俺もあれくらいの頃はあんな感じだったよな。

子供は無駄に元気だ。


「ケンちゃん、あの子達、可愛いね」

「そうか?」


薫はクスクス笑って「懐かしいなあ」と呟く。


「ねえ、私とケンちゃんがあれくらいだった頃のこと、憶えてる?」

「うーん」

「覚えてないの?」

「いや、あれくらいの頃は犬や猫よりちょっと賢いくらいだから」

「ケンちゃんはそうかもね」

「なに!?」

「ふふッ、でもケンちゃん、昔から強くて格好いいよ」

「そうだろう、そうだろうとも、流石は幼馴染、よく分かってるじゃないか」


またくすぐったそうに笑って、薫は不意に「違うよ」と俺を見上げる。


「ケンちゃんだよ」

「え?」

「君が私を分かってくれたんだよ」

「薫」

「いつも傍にいて、ずっと守ってくれた」

「まあ、それは」

「それって私が幼馴染だから、だよね?」

「おう」


でも今、一番重要なことが見えていない。

いつの間にかお互いに言えないこと、分からないことが増えていた。


「ねえ、ケンちゃん」


薫は小学生を眺めながら「昔のことって、全然覚えてないの?」と改めて俺に尋ねる。


「思い出そうとはしている」

「え?」

「いや、そうだな、しょうもないことしか記憶にない」

「そっか」


何とも言えない沈黙の後、不意に薫は笑う。


「ケンちゃんらしいね」

「どこが?」

「覚えていないのは、君にとって当たり前のことだったからでしょう?」

「まあ、多分」

「それって凄いと思う」

「普通だろ?」

「そっか―――そうだよね、普通だね」

「ああ」


薫は、何を考えているんだろう。

約束のことか?

俺にとって当たり前すぎることでも、薫には違った。

だから思い出さなければ、このループもいつまでも終わらない。


「なあ、薫」

「なあに、ケンちゃん」


今、ここで、思い切って訊いてみるか。

それがトリガーになって殺されるとしても。


「俺さ、お前に何か言ったか?」


薫が立ち止まる。

急に強く風が吹いて、揺れた髪が表情を隠す。


「どうして?」

「その、話の流れで、何となく」

「変なの」

「答えてくれ薫、俺はお前に」

「やっぱり忘れちゃったんだ」


だから知りたい。

沈黙する薫の様子を窺う。

やっぱり直接過ぎたか、もう少し言葉を選ぶべきだったか?

次はどうする?

このまま更に突っ込むべきか、それとも今は引いて、また機会を伺うべきか。


「なあ」


薫に呼び掛けると同時にデカい泣き声が辺りに響く。

は? さっきの小学生軍団か?

何だ一体、何が起きた?


「ねえ、あの子、転んだみたい!」


そう言って薫は小学生どもの方へ駆け出す。

クソ、このタイミングかよ!

仕方ない、俺も行こう。


「君達、どうしたの? 大丈夫?」


しゃがみ込んで尋ねる薫に、小学生たちは「転んだ」「怪我した」と口々に答える。

座り込んで泣いている奴がそうか。

薫は鞄からハンカチを取り出すと、そいつの膝の傷に躊躇いなくあてた。

そして「大丈夫だよ」と優しく慰める。


「ねえケンちゃん、この子の家、この近くみたい」

「あーもう、どこだよ?」

「待って、詳しく訊くね」


しゃくり上げる小学生や、そいつを心配する周りの奴らから話を聞き出しつつ、薫はハンカチを巻いて傷を保護した。

俺も渋々しゃがんで背中を向ける。

怪我した小学生を薫が立たせて、俺の背中に負ぶさらせた。


立ち上がると小学生どもは俺を見上げてデカい、デカいと騒ぎ出す。

うるさい。

さっさと帰るぞ、お前達のせいで色々台無しだ。


足元をウロチョロされて若干鬱陶しく感じながら、怪我した小学生を家まで送り届ける。

家から出てきた母親は驚いて、子供を引き取りながら俺と薫に何遍も頭を下げた。

いいことをすると気持ちがいいが、今じゃない。

結局さっきの話は有耶無耶になっちまった。

バイバーイと元気に手を振る小学生どもに気をつけて帰れと声を掛けて見送り、改めて薫と家路を辿る。


「ねえケンちゃん、今日のお夕飯はどうするの?」


薫も蒸し返す気がない様子だ。

仕切り直しか、改めて機会を伺おう。


「適当に食うよ」

「じゃあ、さっきのご褒美に、カレー作りに行ってあげようか?」

「え、マジ?」

「だけど家の用事があって、少し待ってもらうけど平気?」

「平気平気! 薫のカレー楽しみだ、やっぱりいいことはするもんだな」

「現金だなあ、もう」


隣の家の玄関先まで薫を送って、俺も家に帰る。

晩飯のカレーは楽しみだが、やっぱり少し腹が減ったな。

軽く何か作るか。

自室にバッグを置き、着替えて手洗いうがいも済ませ、台所へ行ってエプロンを着ける。

俺はまあまあ料理ができる。

ばあちゃんがいた頃はいつも手伝っていたし、死んでからはずっと独り暮らしみたいなもんだからな、必然的にこうなったと言うべきか。


さて、と。

冷蔵庫の中身を確認、カレーの具になりそうなものは薫に託そう。

簡単に作れそうなもの、おっとそうだ、先に米を炊いておかないと。

そっちが優先、研いだ米を炊飯器にセットして、と、これでよし。

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