表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/46

追憶と幼馴染 1

LOOP:10

Round/Homie


朝だ。

これで何度目の繰り返しだろう、とっくに把握は諦めた。


最初は単なる悪夢だと思ったんだよな。

でも、悪夢と同じことが起きて、三度目のループでおかしいと確信した。

それから俺は薫に何度も、何度も殺され続けている。


薫との約束。

そして何故か俺と一緒にループを繰り返している理央。

そもそも何故ループするのか、俺が死ぬからなのか、俺が死ななければループは起こらないのか、原因も理由も理屈も不明の異常なこの状況。


前回は文字通り殺される覚悟で挑んだが、結局薫から約束に関わる具体的な話は何も聞き出せなかった。

アイツ、よく刺すよな。

まあ刃物の類は扱いが手軽だ、体重をかけてブッスリいかれたら最早どうにもならない。

それでもめった刺しは勘弁して欲しい、痛いのもあるがメンタル的にもかなりキツいんだよな、あれ。

皆も無駄に死なせちまったし、いくら記憶が無いからって俺自身の罪悪感は拭えない。

本当にすまないことをした、あれだけは二度と止めよう。

皆の死んだ姿だって見たくはないんだ。


今朝も薫が迎えに来て、家に上げる。

作ってくれた朝飯を食いながら「週末デートしないか?」と誘ってみた。

まあ、俺と薫じゃデートにならないだろうが、今回はじっくり話し合う機会を持ちたい。


「えっ、どうしたの、急に」

「最近二人で出掛けてないだろ、久々にどうかなって思ったんだよ、ダメか?」

「う、ううん、でもデートなんて」


薫は戸惑い、けれど「いいよ」とニッコリ笑い返してくれる。

この薫が俺を殺すなんて、いまだに悪い冗談としか思えない。

何でだろうな?

薫は俺を殺す、皆を殺す、場合によっては理央だって殺す。

でもその理由が分からない。

約束ってなんだ? それで俺を殺すのはともかくとして、なんで皆や理央まで殺すんだ。

薫は何が許せないんだろう。

あんな凶行に走るほど思い詰めているのに、ずっと気付いてやれなかった。

その事実が本当に悔しい。情けない。


王子様、か。

前回新たに入手した、恐らく約束に繋がるだろうキーワード。

何か思い出せそうでモヤモヤと引っかかり続けている。

一体何の符号だ?


「ねえ、どこに連れていってくれるの?」

「それは当日のお楽しみ」

「ええ~っ、気になるなあ」

「リクエストがあるなら優先するぞ?」

「ううん、ケンちゃんと一緒ならどこでもいい」

「分かった」

「じゃあ、楽しみにしてるね」

「おう」


かつてないほど上機嫌な薫と一緒に登校する。

毎度おなじみの変わりない朝だ。

皆と挨拶を交わして、他愛ない話をしているうちに担任が来てホームルームが始まる。


俺は、今度こそループを終わらせられるだろうか。

誰も死なずに薫と和解できるか。

何もかもが俺自身に掛かっている、いい加減どうにかしたい。


昼休みになり、教室を出てぶらぶらと屋上へ向かう。

その途中で不意に背中を軽く小突かれ、振り返ると理央だ。

俺に「さっさと歩け」なんて言いながら抜かして先に行く。

手にはデカい包みが―――ははッ、きっとまた重箱だな? ったく、本当に可愛い奴。


理央、好きだ。

お前だけが今も俺が正気を保っていられる唯一の縁だ。


すっかり馴染みになった俺達だけの場所。

屋上の奥の隅の方。

デカい包みはやっぱり重箱だった、理央と一緒につまみながら毎度お馴染みの作戦会議を始める。


「理央のおにぎり、美味いなあ」

「君、さっきからそればかりだね」

「だってマジで美味いし、俺これ大好き」

「はいはい、それで?」


何か成果はあったのかと訊かれる。

あったと言えばあったが、微妙なところだ。


「約束に関する具体的なことはさっぱりだ、聞き出す前に殺されたよ」

「そうか」

「でも新たに分かったことがある」

「なんだい?」


理央に言うのは若干憚られるな。

でも俺に後ろめたいところはないし、あらぬ誤解を受けないようにだけ注意して話そう。


「―――へぇ」


まず、俺が下半身のだらしない奴だと思われている噂について、慎重に伝える。

俺にも失礼だが皆にも失礼だ、皆もそういうことをしているって暗に見られているわけだからな。

断言する、そんなふしだらな子はいない。

性格はそれぞれだが全員清純そのものだぞ、接触なんて精々手を握ったことがあるくらいだ。


「なるほど、普段の素行が裏目に出たか」

「言い方! あのなあ、確かに皆可愛いけれど、だからって片っ端から手を出すほど俺は不純じゃない、皆だってそうだ」

「分かっているよ、彼女達はしっかりした貞操観念の持ち主だ、故に君に関する噂も必然的に嘘となる」

「俺の身持ちがしっかりしているから噂は嘘だとはならないのかよ」

「健太郎は分からないからね、よく発情しているようだし」

「ッな!」


り、理央に興奮しているのが、バレてた?

いやいや、多分違う、そうだ、違うに決まってる。

男に発情する変態だなんて思われたらお終いだ、まあ実際そうなんだが、理央だけだから!

お前が美人で可愛いからムラムラするだけだから! 完全に例外だから!


理央は白い目で俺を見て溜息を吐く。

うう、誤解だぁ。


「それで、他には?」

「おう」


気を取り直して話を続ける。

こっちはおぼろげな記憶だ。


「王子様」

「王子?」


不思議そうにする理央に頷き返す。


「思い出せそうで思い出せないんだ、でも王子様っていうのが何かしらのキーワードなんだよ」

「藤峰君が言ったのかい?」

「えーっとな、確か、俺は王子だから、いつか誰かの手を取るんだと」

「ふうん?」

「だよな、分からないよな? でも俺もさ、なんか昔に王子がどうのって言ったような気がするんだよ」

「君が?」

「そう」


約束を忘れた嘘吐きな俺、そして俺を王子だとか言う薫。

王子と約束?

うーん、何なんだ一体、この二つがどう結びつくのかさっぱり分からん。


「君が王子ねえ」


理央が値踏みするような目を向けてくる。

うう、ガラじゃないとか思ってるんだろう。俺も同感だよ。


「だとすれば、随分と武骨な王子だ」

「まあな、どっちかって言うと理央の方がよっぽど王子様だよな、実際ファンクラブの子達から王子様~なんてたまに呼ばれてるだろ?」


理央はフフっと笑っておもむろに俺の手を取る。

おっ、おおっ?

なんだ?


「健やかなる姫よ」

「は?」

「貴方は今日もはつらつと生気に溢れ、麗しい」


はっ、はひぇぇえぇぇぇ~ッ!

はわわっ、格好いい! ど、どうしよう、ドキドキしちゃうッ!

理央がキラキラ輝いて見えるぅン~ッ!

はわ、王子様だッ、お、お、おれッ、どうしよう、お姫様になっちゃうぅンッ! ひょえぇ~ッ!


「おや、愛らしいかんばせをそのように染められて、如何されたかな?」

「や、やめろぉ」

「可愛らしいね、姫」

「やめてくれぇ」


むず痒すぎて目をギュッと瞑ると、クスクス笑い声が聞こえる。

からかわれている。

でも、悪くない。

そうッと瞼を開いて理央を伺ったら、楽しそうに笑う姿に釘付けになった。

可愛いのはどっちだよ、クソ!


「おい、理央」

「ごめんごめん、君の反応が愉快でつい」

「あっそ」

「拗ねるなよ、健太郎姫」

「うるせえ、俺はそもそも姫じゃねえ」


はいはい、と頭を撫でてあやされる。

おのれ、理央め。


「とにかく、その辺りも加味して約束について考えてみるべきだろうね」

「おう」

「頑張ってくれ、僕も付き合うよ」

「ん」


それは本当に心強い。

すっかり巻き込んじまったが、今はもう理央がいない状況なんて考えられない。

覚悟は決めた、腹も括った。

俺達は一蓮托生の運命共同体だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ