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拒絶と幼馴染 1

LOOP:9

Round/Isolation


目が覚めた。

気分は最悪だ、胸で後悔と懺悔の念が渦を巻いている。


迎えに来た薫と登校する。

今日はループの始まりの日。

世界は何事もなかったかのように変わりない日常を繰り返す。


午前の授業が終わると同時に―――足早に教室を出た。

合わせる顔なんてない。

今後はもう理央を頼らない。

本音を言えば会って謝りたいが、俺にそんな資格さえない。


薫が、理央を刺した。


その可能性を考えもしなかった、俺はバカだ、最低のクズ野郎だ。

巻き込んで、死なせて、それでこれからもよろしくだ?

他の皆はともかく、理央は俺と同じでループの記憶を引き継いでいるんだぞ。

きっと怖かっただろう。

痛かっただろう。

苦しかっただろう。

―――俺なんかに関わったことを後悔したかもしれない。


だから、もう理央を付き合わせるわけにはいかない。

もしかすると理央の方から俺を避けるかもしれないな、そうなれば好都合だ。

刺したのは薫だが、こんなの俺が殺したも同然だろ。

二度とあんな目に遭いたくない、巻き添えは御免だと避けてくれるなら、その方がいい。


屋上の奥の、隅の方。

討ちっぱなしのコンクリートの上に寝そべって空をボーッと眺める。

静かだ。

腹も減らない。

ずっとこのままここにいて、野垂れ死ぬっていうのはどうだ?

薫は俺を殺さずに済むし、理央も薫に殺されない。

一番手っ取り早くて被害も少なく済む方法じゃないか?


理央。

俺が死なせた。

全部俺が悪い。


好きな奴を守れないなんて。

―――『王子』を名乗る資格ないよな。


「健太郎!」


突然声がして飛び起きる。

り、理央だ!

どうしよう、逃げないと。

慌てる俺がまるで見えているかのように「逃げるな!」と更に怒鳴り声が響く。


すっげえ怒ってる。

まあ当然か、俺のせいだからな。

―――潔く観念しよう。

理央から何を言われて、どんな態度を取られたとしても、すべて受け入れるしかない。

それが俺に出来るせめてもの罪滅ぼしだ。


パイプの向こうに姿が現れ、ズンズンと近付いてくる。

とうとう目の前まで来た理央は、俺を無言で睨みつけた。

美人の怒った顔って迫力だな。

緊張と不安で心臓がバクバク鳴ってる、手汗も酷い。

耐えられなくなって俯くと、なんだか泣きたくなってくる。


「ごめん」


謝った直後に胸ぐらを掴まれる。


「言いたいことはそれだけか」

「俺が悪かった」


今は後悔しかない。

俺は甘えていたんだ、そのことに理央があんな目に遭ってようやく気付いた。

最低最悪のクソ野郎だ。


「もう、いいよ」


胸が痛い、苦しい。

まともに理央を見られない、情けなくて腹が立つ。


「あとは俺一人でどうにかする、だからお前は、もう関わらなくていい」

「は?」

「死ぬのってキツイよな、だからもうやめよう」

「確かに想像以上だったな」

「そ、そうだよな! 俺もさ、ホント、毎回きつくて、だからちょっとおかしくなってるんだと思う、バカだったんだ、本当にごめん」

「健太郎」

「ごめん、ごめんな理央、だからもういい、今まで本当に有難う」


視界の端で腕が振り上げられる。

ああ、殴られるのか。

直後に予想どおり(パンッ)と俺の頬を張る乾いた音が屋上に響いた。

痛い。

でもあの時の理央はもっと痛かったはずだ、俺のせいで本当にすまない。


「バカ!」


怒鳴った理央が胸に縋りついてくる。

―――え?


「僕は知らなかった! 分かったつもりになっていたんだ、死ぬことがあんなに恐ろしいだなんて、あんなに痛いだなんて!」

「り、理央?」

「それなのに! 君はバカだ! どうしてあんな真似をした、どうして逃げなかった!」

「そっ、それは」

「君だけでもループを抜け出せたのに、何故君まで死んだ!」

「嫌だからに決まってる!」


咄嗟に俺も大声を出すと、顔を上げた理央の目が濡れている。

なんでだよ。

だって俺、お前を巻き込んで死なせた、酷いことをしたのにどうして。


「俺だけ生き延びたって意味がない」

「健太郎」

「お前が死んだら意味がない、あんなのは間違いだ、絶対に認められない、だから」


理央は唇を噛んで、俺の胸に額をぶつけるように押し当てる。

殴られた頬が痛い。

肩を震わせて何かを必死に耐える理央の姿を見ているのが辛い。


「よく聞け、健太郎」


ゆっくりと顔を上げた理央は、また俺を睨む。


「君を許さない、二度と僕を遠ざけようとするな」

「えっ」

「僕の後を追うな、自ら死を選ぶな」

「り、理央」

「君と僕は運命共同体だと言った、まさか忘れていないだろうな」


覚えているさ、だけど。


「僕を案ずるなら、一刻も早くこのループを終わらせろ」

「ッツ!」

「無論、君の死でも僕の死でもない、根本的な解決を目指すんだ、分かるな? 健太郎」

「で、でも」

「やるしかない、それ以外の結末を僕は認めない」

「理央」

「足掻け、使えるものは何でも巻き込んで足掻き続けろ」


まだ付き合ってくれるのか?

あんな目に遭ったのに。

俺がお前を死なせたも同然なのに。


「僕の覚悟を見くびるなよ」


ギラリと瞳を光らせた理央に息を呑む。

―――やっぱり俺はバカだ。

一方的に決めつけて理央を蔑ろにした。

覚悟を決めるなら、まずコイツの気持ちを聞くべきだったんだ。

抜けるにしろ、今後も付き合ってもらうにしろ、それが今まで協力してくれた理央に対する誠意ってものじゃないか。


「ごめん」

「もういいさ」


殴った俺の頬を、理央はそっと撫でてくれる。

「痛かっただろう?」なんて、そんなことはどうだっていい。

本当にすまない。

バカでゴメン、理央。


「僕こそ軽率だった、油断していたんだ」

「それは違うだろ?」

「違わないよ、リスクは十分に考えられた、あの時の僕は少々、その」


理央はふいと目を逸らす。

なんだ?


「何でもない」

「なんだよ」

「いいんだ、それより」


小さく溜息を吐く。


「また君が死ぬ理由を作ってしまった」


俯く理央の肩を「違う」と言って掴む。

いいんだ、もう。

反省は俺がする。

だから理央は後悔しないでくれ、頼むから。


「君は凄いな」

「えっ」

「改めて思ったよ、あの恐怖を何度も乗り越え、前を向き、藤峰君を恨みも、恐れることさえしない」

「それはまあ、その」

「だから僕にも背負わせてくれ、全てとはいかないだろうが、せめて君の支えでありたいんだ」

「理央」


それならとっくに十分過ぎる。

理央がいてくれるから、俺は死んでも何度でも立ち上がれるんだ。

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