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喪失と幼馴染 4

翌日の昼、早速その話を理央に切り出した。


「君の家へ?」

「お、おう」


内心どぎまぎしつつ返事を待つ。

敢えて言うが下心はない。

ないったらないからな、絶対にだ。


「ふむ、まあいいか」

「えッ!」

「アルバムの違和感を探すんだな? 構わないよ」

「よしッ」


浮かれる俺に理央は白い目を向ける。

だ、だから、他意はないって。


「随分と嬉しそうだね」

「ちッ、違う違うッ、これは!」

「まあ何でもいいが、僕が訪れて構わないのかい?」

「俺んち今親いないから、それに理央なら大丈夫だ」

「何が?」

「あーいや、とにかく、じゃあ明日の放課後な!」

「分かった」


理央が家に来る、来る、来る~ッ!

あー掃除しないと、お茶と茶菓子も用意しないとだよな。

部屋にアロマとか焚くか?

理央の好物ってなんだ? 好きなお茶の種類は? 茶菓子は何が好物かな?


「落ち着け健太郎」


そう言って理央は自分の弁当のエビフライを俺の口に突っ込む。

何も言ってないんだが。

モグモグ、美味しい。

今日も理央の弁当は最高だ、こんな美味いものを毎日食えるなんて贅沢だよな。


飯を食い終わり、話し合いも済んで、二人で教室に戻る。

そして放課後になって薫と一緒に帰ってから、全力で家の掃除に取り掛かった。

見られて困るものは隠す。

毛の一本も落ちていないピカピカの状態で理央を迎えるぞ。

はあ、とうとう我が家に理央が来るのか。

あ~楽しみだ、理央、理央ーッ! どうしよう、ちょっとエッチな雰囲気になったりしたらどうしよう!

お、男同士でもキスくらいするよな? それは冗談で済ませられるよな?

はッ! そこからもっとアダルトな雰囲気になってしまったら? い、一応、その心構えと準備もしておくべきか?


繰り返すが、下心は、ない。

大丈夫、俺は紳士だ、無理強いもしない。


だけどパンツは当日新品を履いておこう。

ついでにベッドのシーツも替えるか、断じて下心はないけどな!


―――翌日。


放課後、理央は一度帰宅してから家に来ることになった。

俺も薫と帰るから都合がいい。

母さんの秘蔵のコレクションから一番洒落てるポットとカップを拝借した。

某食器ブランドの数量限定品で、確かワンセット数万とか言ってたやつだ、別の意味でドキドキするな。

茶葉も母さんが大事に飲んでいる高級茶葉を分けていただこう。

バレたら殺されるかもしれないが、理央を持て成すためなら本望だ。


茶菓子は俺が好きなメーカーのクッキーを用意した。

急ぎだったからスーパーで買ったヤツだが、紅茶にはこれが一番合う。

理央も気に入ってくれると嬉しい。


あっそうだ、一応歯を磨いておくか?

顔が近いと口が臭うかもしれないし、それ以上の事だって可能性が無いとは言えない。

一応な、一応。

何事にも備えは肝心だからな、うん。


バタついている最中に玄関でチャイムが鳴る。

きっと理央だ!


「はい!」


勢いよく開けたドアの向こうには、やっぱり理央がいた!

うわあ、私服だ、いいッ!


「来たよ」

「理央!」


ああ、綺麗だなあ。

とうとう俺の家に理央が来てくれたのか、感無量とはこのことだ。

見詰め合っていると、不意に理央が大きく目を見開く。


そして、ゆっくりと体勢を崩し、膝をついた。


「理央?」


理央の後ろに誰かいる。

泣きそうな顔で「ケンちゃん」と俺を呼ぶ。


「ずるいよ、どうして」

「か、おる?」

「どうして? ケンちゃんの嘘吐き」


何が起きた?

理央?

どうしてそんなところに座っているんだ、背中にナイフの柄が、血が。


「けん、たろ」


俺を見上げた理央の、青ざめた唇が微かに震える。


「に、げろ」


サッと血の気が引く。

そんな、どうして。

お前が殺されるなんて聞いてない。

こんな展開は今までなかった。

話が違う。

嘘だ―――嫌だッ!

お前は、単なる協力者のはず。

それがどうして?

なんでこんな目に、違う、違う、違う! なんでだよ!


「ケンちゃん」


薫に呼ばれてビクリと震えた。

―――そうだ、違う。

薫。

お前が殺すのは俺だ、理央じゃない。

こんな展開は認めない、絶対に許さない。


理央の傍にしゃがんで「ごめん」と囁く。

背中から覗くナイフの柄を掴み、ぐっと力を込めて引き抜いた。

理央は苦し気に声を漏らす。

ごめんな、痛いよな?

背中がどんどん赤く染まっていく。

本当にごめん、お前をこんな目に遭わせたのは俺だ。


「薫」


ナイフを手に立ち上がると、薫と向かい合った。


「俺は、お前に二度とこんな真似をさせない」

「ケンちゃん」

「殺すのは俺だけにしろ」

「えっ?」

「いいな、薫」


理央の血にまみれたナイフを構える。

これは怒りか、それとも恐怖からだろうか、手が震える。

でも、今の俺にとって理央を失う方がよっぽど怖い。


「次こそお前を思いとどまらせてやる」

「ケンちゃ」

「待ってろよ、じゃあな」


覚悟を決めて、頸動脈があるだろう辺りにナイフの刃を滑らせた!

ぐううううううううッ!

視界が一瞬で真っ赤に染まる、いッ、痛い、痛い、痛いッ―――


「ケンちゃん!」


薫の悲鳴を聞きながら、うずくまったままの理央に手を伸ばして、抱きしめる。

ごめんな、巻き込んで。

こうなる可能性を考えもしなかった、俺はバカだ。


理央、好きだ。

だからお前だけは守る。


触れた体はまだ温かい。

涙がこぼれる。

理央、理央。

本当にごめん、ごめんな。


もう巻き込まないから。

―――本当に、ごめん。

今回の死因:自殺

健太郎にとって一番起きて欲しくないことが起きてしまいました。

それでもこの顛末はいただけません。


よければいいねや感想等、よろしくお願いします。

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