喪失と幼馴染 2
「一緒に食べよう」
「はい!?」
「前に君は僕の弁当を物欲しげに見ていたじゃないか、だから」
「おっ、俺のばあちゃんは俺を卑しくなんか育てて!」
「ないことは知っている、だからこれは、つまりその、僕からの好意のようなものだ」
好意。
理央の好意? こ、この弁当が俺への好意!?
「本当か?」
「こんな馬鹿げた嘘など吐かない」
「じゃあ食べていいのか?」
「そう言った」
りっ、理央ーッ!
「いただきます!」
バチンッと両手を勢いよく合わせて、早速唐揚げ、ではなくおにぎりへ手を伸ばす。
俵型か、少し小さめだな。
海苔も綺麗に巻かれている、美味そう、パクッとかぶりついた。
美味い!
米の炊き加減、塩の塩梅、握り具合も丁度いい。
んん~っ、まさにマーベラスおにぎり!
「どうだ?」
「んまいッ!」
「だから口に入れたまま喋るなと言っているだろう、行儀が悪い」
すまない、だが許してくれ。
俺は今猛烈に感動しているんだ!
って、あれ?
理央の顔がうっすら赤く染まって見える、どうしたんだろう。
「その、形は歪だったろうが、口に合ったなら何よりだ」
「え?」
「おにぎりだけは僕の手製だ、他と比べて見劣りするから気になったか? 失礼をした」
それは違うが、マジか。
このおにぎりだけは理央の手作り?
そうと知らず俺は真っ先におにぎりを選んで食ったってことか、やっぱり運命か?
「違う、一番美味そうに見えたからだよ」
正直に答えると、理央は目を丸くする。
「俺、何も考えてなかった、だから多分そうだ、理央が握ってくれたんだよな?」
「あ、ああ」
「有難う、すっげー美味い!」
ポポポッと擬音がつきそうな様子で理央の顔がますます赤く染まる。
可愛い。
何より俺のために手間をかけてくれたことが嬉しい。
味わい以上に価値あるおにぎりだ、本当に美味いよ、理央。
「なあ、他のも食っていいか?」
「構わない、箸はこれだ、はい」
「サンキュ、理央も食おうぜ」
「そうだね、いただこう」
受け取った箸で今度は唐揚げを食う。
やっぱり美味い、絶品だ。
でもこの中で一番美味いのは、間違いなく理央のおにぎりだな。
米一粒一粒に愛を感じる、最高のおにぎりだ。
昨日、初日のデッドラインを乗り越えて、暫くは猶予がある。
理央もこうして支えてくれるんだ、今度こそ約束を思い出してループから抜け出さないとな。
美味い弁当のおかげで気合も十分、よし、やるぞ!
「―――最終的に失敗しちまったけどさ、ダブルデート自体は成功だったと思うんだ」
「そうだね」
「だから今回も同じ手で行く、理央、また協力してくれ」
「いいとも」
流石理央、頼もしい。
「じゃ、次は水族館にでも行くかなあ」
「悪くない選択肢だね」
「初回はまた虹川でいいよな?」
「妥当だろう」
「よし、待ち合わせは駅前のバス停な、時間は後で連絡する」
「分かった」
あっさり予定が決まった。
また理央とデートか、楽しみだ。
「そういえば、理央は水族館に行ったことあるのか?」
「あるよ、何度か足を運んだ」
「へえ、誰と?」
「お付きの者だ」
「なるほど、流石は理央坊ちゃま」
「だから友人と出掛けるのは今回が初めてだ」
だったら今回も楽しまないとだよな。
少なくともお付きよりはマシだって思わせてみせる。
「理央」
振り向いた理央に「楽しみだな」と笑いかける。
理央もフッと微笑んでくれる。
「ああ」
二人の関係が恋人にならなくても構わない。
そもそも男同士だ、俺だってまだ多少の戸惑いはある。
でも、この気持ちは本物で、俺は理央が好きだ。
だから理央にも好きになって欲しい。
友達でもいい、もっと俺を見てくれ、理央。
昼休みの終わりを告げる予鈴が聞こえて、空になった重箱を重ねて包み直し、理央と一緒に教室へ戻る。
今日は腹も胸もいつも以上にいっぱいだ。
お陰で午後の授業中に寝ちまって、先生に教科書で頭を叩かれる羽目になった。
皆から笑われたし、理央に至っては呆れてたな。
はあ、相変わらず俺は格好付かない。
帰りにそのことを薫にまで笑われる。
「今夜は夜更かししないこと、ちゃんと寝ないとダメだよ?」
「はいはい、あっ、そうだ薫」
「何?」
早速週末出かけないかと誘ってみる。
薫は即オッケーしてくれた。
あと二人来ることも伝えると、前回同様「楽しみだね」なんてワクワクしている。
「でも急にどうしたの?」
「いやまあ、何となく、久々に出掛けたいなーって」
「ふぅん」
その後も他愛ない話をして、薫を家まで送ってから俺も自宅に帰る。
適当に飯を食い、風呂も済ませてリビングのソファでダラダラしつつ、改めて約束について考えた。
理央から受けた謎の指摘。
俺が薫と付き合えない理由、そんなものが約束とどう関わってくるんだ。
何となく昔のアルバムをまた引っ張り出して開く、これは小学校の卒業アルバムだ。
俺と薫は生まれた頃から、幼稚園、小学校、中学、高校と、ずっと一緒にいる。
でも流石にこの先は分からない。
今は高二だけど、来年になれば受験だ。早い奴は既に対策に取り組んでいる。
薫はどうするんだろう。
何となく大学へ進むだろう雰囲気ではあるが、具体的な話をしたことはない。
俺はまた薫を追いかけるのか。
それとも、今度こそあいつを守り続けたこの手を離すのか。
「ん?」
パラパラとめくっていたページの一つに目が止まった。
それはアルバムの後ろの方にある、様々な行事の折に撮った写真の一枚だ。
「んん~?」
映っているのは俺と友達、そして薫。
この頃から本当に可愛いよな。
しかし普通の写真だ、どこもおかしな点はない。
なんだろう?
何が気になった?
うーん? ううーん?
―――ダメだ、分からん。
もしや見慣れているせいで、違和感の正体を見極められないのかもしれない。
そうだ、理央に見てもらおう。
アルバムを閉じる。
今の写真、理央なら先入観無しに見られるだろう。
疑問点を指摘してもらえば、それが約束に繋がるヒントになるかもしれない。




