反転と幼馴染 2
「ええと、先週末のダブルデートが功を奏して、俺は無事に一週間後のデッドラインを生き延びたってわけだ」
「そうだね」
今朝、目が覚めた直後、特に信心深くもないが神に祈りを捧げたもんな。
脳内のイマジナリー理央も一緒に喜んでくれた、現実の理央は淡々としているが。
「薫と虹川さんは順調に仲を深めている、なので、作戦を第二フェーズに移行しようと思う」
「承知した、次はどうするんだ?」
「今回もダブルデートを計画している、映画なんてどうだ?」
「個人の趣味嗜好に左右される娯楽は評価が分かれるところだ、僕としてはお勧めしないよ」
「じゃあさ、理央はどういう映画が好きなんだ?」
どさくさに紛れてリサーチだ。
理央は「何故そこで僕の好みの話になる」なんて不審げだが、コホンと咳払いした。
「そうだな、芸術性の高い物語が好きだ」
「へえ」
「けれど悲劇的な結末は好まない、僅かでも救いがなければ娯楽として成立しないと僕は思う」
「なるほど」
ん? 待てよ。
それじゃ前に話したスプラッタホラーは理央の趣味に合わないんじゃないか?
取り敢えず一作目だけ見せて、続編もいけそうか確認するか。
「君はどうなんだ?」
「俺は面白ければ何でも見るよ」
「その面白いの基準を訊ねている」
「うーん、まず恋愛系はナシ、他人の恋路に興味ないからな、特に余命幾ばくもないってヤツは最悪だ、安直に感動させようって魂胆が透けて見えてむしろ腹が立つ」
「ふむ」
「SFやホラーなんかは結構好きだぜ、あとアクションとか、サスペンス系も悪くないな」
「幅広いな」
「アニメも見るぞ、そしてここが何より重要なんだが」
「なんだ?」
「俺もハッピーエンドじゃない物語はお断りだ」
理央はきょとんとして、不意にクスクス笑いだす。
「君、それは矛盾だろう」
「なんで?」
「他はともかく、ホラーにどんな救いがあるんだ」
「あれはギャグ枠だろ、特にスプラッタ、そもそもホラーに救いなんか求めねえよ」
「現実にそういった状況に置かれているというのに、豪胆なことだな」
お、俺のはホラーじゃないぞ。
どちらかと言えばサイコサスペンスとかそっちだろ。
まあ死に方というか殺され方は若干ホラー寄りではあるが。
「まあいい、なるほど、好みが似ている君とは有意義な映画鑑賞ができそうだね」
「おっ! 約束覚えていてくれたのか!」
「まあね、だが今する話はそれじゃない、既に脱線し過ぎだ」
「ちぇッ」
ガードが堅い。
けど、少しずつ理央のことを知っていけるのは楽しい。
俺のことももっと知って欲しい。
「じゃあ今回はスポッチョにでも行くかな」
「スポッチョ?」
「スポーツができるアミューズメントパークだよ、結構楽しいぜ」
よく一緒に行くのは清野だな。
朝稲や杉本も結構楽しんでくれる。
「なるほど、チーム戦にでもすれば効果的に仲を深められそうだ」
「だろ?」
「ではそこへ行こう、今回も人選は任せる、抜かりなくやれよ?」
「了解、任せとけって」
やったぜ、これでまた理央とデート! もとい、薫と女の子の仲を取り持つぞ。
チーム分けするってことは、薫とその子で、俺と理央だよな。
よし、キメるぜ。
俺に対する理央の好感度も底上げてやる、しまっていこう!
「ところで君、運動はそれなりだったか」
「体動かすのは好きだよ」
「なるほど、立案者の君が無様を晒さないよう、精々励みたまえ」
「ふふん、見てろよ理央、当日は俺に一目置かせてやるからな」
「それはどうだろうね」
「なんだと、今の言葉覚えておくぞ、覚悟しておけ!」
理央は「はいはい分かった」なんて俺を雑にあしらう。
まあ、今のところ世話になってばかりでまったく格好付かないからな。
遊園地ではちょっといい雰囲気だったりもしたが、どうも俺ばかり好きになっている気がする。
ちぇ、今度のデートで汚名返上だ。
俺にだって少しは見どころがあるってことを分からせてやる。
話し合いが一段落ついて、飯も食い終わり、予鈴が鳴ったから教室へ戻る。
その途中で薫たちとばったり鉢合わせた。
「あれ、ケンちゃん」
「天ヶ瀬君も一緒なんだ、二人でお昼食べたの?」
「おう」
「健太郎に相談を持ち掛けられてね」
「相談?」
首を傾げる薫に「後で話すよ」と告げる。
お前にもっと友達を増やして、俺を殺そうなんて考えないようにしてやるからな。
―――あんな真似をした薫もきっと幸せにはなれない。
俺だってもう殺されたくない。
お互い不幸になるだけの結末は前回で終わりにしよう。
それに、俺は笑っている薫が好きだ。
『嘘吐き』なんて泣きながら俺を詰って殺す薫の姿を、これ以上見たくない。
「分かった、でも、隠し事は無しだよ?」
「ああ、当たり前だ」
薫は満足そうに頷く。
理央にも目配せすると、軽く肩を竦めていた。
よし! 次回のダブルデートも必ず成功させるぞ!
そしてまた週末を迎えた。
今日の行き先は予定通り、スポーツアミューズメントパークのスポッチョだ。
「よっす、健太郎!」
「清野、来てくれたな」
「当然!」
今回誘ったのはクラスメイトの清野。
理由は虹川同様、薫と接する機会が多いからだ。
清野は虹川より若干ガサツだが、面倒見はいい。
それに明るくフレンドリーで、老若男女問わず好かれる性格をしている。
「しかしダブルデートだなんて、健太郎もやるねぇ」
「何が」
「私も含めて美男美女揃いじゃないか、まあ、健太郎は省くけど」
「おい!」
「にしても天ヶ瀬なんかといつの間に仲良くなったんだよ? 全然接点なかったのに」
「それはまあ、色々と」
当事者の理央と、薫まで苦笑している。
俺達の仲が良くて何が悪い、これからもっと仲良くなる予定だ。
それに理央は『なんか』じゃないぞ。
ついでに言えば俺だって十分イケている、どこまでも失礼な奴め。
「君達が来るのを天ヶ瀬と待っている間、周りから注目の的だったよ」
「だろうな」
「健太郎だって藤峰さんと一緒だとそんな感じなんだろ?」
「まあな」
「いいご身分だねぇ、羨ましい」
「悪いが薫はやらんぞ」
急に清野がプッと噴き出す。
薫も何故か驚いた顔をして、クスクスと笑い出した。
理央は微妙な表情だ。
「健太郎って本当に鈍いなあ」
「うん、ケンちゃんは昔からこうだよ」
「おっと、聞き捨てならないが、それはそれとして、藤峰さんも今日は一緒に思いきり楽しもう!」
「そうだね」
「よーし、スポッチョが私達を待っている!」
相変わらず清野は元気だ。
明るく前向き、さっぱりした性格で付き合いやすい。
薫も楽しそうにしている。
喋っていると直通のバスが来て、皆で乗り込む。
到着したそこはもうスポッチョの正面入り口前だ。
今日も賑わっているなあ!




