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反転と幼馴染 1

LOOP:7

Round/OTT


遂に再び訪れてしまった。

第二のデッドライン。

ループの始まりから丁度一週間後。


朝、目が覚めた瞬間から不安で、普段以上に言動に気を配り、薫の動向にも最大限注意を払って過ごした。

そして―――


「理央、おはよう!」


その翌日の朝だ!

昇降口で見つけた姿に堪らず大声で挨拶をした!

いやあ、生きているって素晴らしい!

女の子達に囲まれながら振り返った理央は、あからさまに顔を顰めると、俺のところまでつかつかと足早に向かってくる。


「騒がしいよ、健太郎」

「おはよう!」

「おはよう、分かったから、静かにしてくれ」

「今朝も美人だな!」

「何なんだ君は」


俺の隣で薫がクスクス笑う。

薫も今朝は一段と可愛い、まさに天使だ。


「おはよう、ごめんね、天ヶ瀬君」

「藤峰君おはよう、健太郎はどうしたんだ? 頭でも打ったか」

「ううん、でも今朝はずっとご機嫌なの、どうしたんだろうね?」


俺を見上げながら「何かいいことあったのかな」なんて薫は首を傾げる。

ああ、あったさ!

理央なら分かってくれるはず、俺が今、こうして薫とここにいる意味を。


週末のダブルデート以来、薫は愛原だけでなく虹川ともよく一緒にいるようになった。

昼飯も三人で食ったりして、仲がいいのは傍目にも明らかだ。

そして昨日、俺は薫に殺されなかった。

つまり計画は大成功したってことだ、やったぜ!


この先、どれだけ期限を引き延ばせるか分からないが、約束を思い出すまでの繋ぎにはなる、はず。

―――実を言うと色々と努力はしている。

俺と薫の古いアルバムを片っ端からひっくり返して眺めたり、こっそり思い出の場所へ足を運んでみたり。

だが、いまだに効果ナシだ。

楽天的な俺でも流石に焦るというか、一抹の不安を覚えつつある。

実は約束ってのは薫の思い込みで、本当はそんなもの存在しないのでは? なんて考えまで浮かび始めている始末だ。

けれど、薫の殺意は本物だ。

あれが勘違いの類で引き起こされているとしたら、そっちの方がむしろやりきれない。

完全にお手上げ、打つ手ナシってことだからな。

だから俺は僅かでも可能性に賭けて足掻き続けるしかない。

今度こそループを終わらせるんだ。


「ケンちゃん?」


はたと我に返ると同時に、誰かに背中をポンと叩かれる。


「健太郎君、おはよう!」


虹川か。

薫にも「カオルンもおはよ!」と微笑みかけた。


「美咲ちゃん、早いね」

「今日は朝練があって、ほら、私マネージャーだから」

「そっか、大変だね」

「ううん、楽しいよ!」


二人は談笑しつつ、俺を置き去りにして行ってしまう。

うんうん、それでよし、仲良きことは美しきかな。

不意に脇腹を軽くつつかれて振り返った。


「健太郎」

「見ろよ理央、麗しい光景じゃないか」


理央は二人の姿を一瞥して、すぐまた俺を見上げる。


「取り敢えず生存おめでとう、それで?」

「ん?」

「次はどうする」

「一応考えてはいるよ」

「そうか」

「でさ、また協力して欲しいんだけど」

「分かった」


次の計画について話し合うべく、昼休みに一緒に飯を食う約束を取り付ける。

理央の参謀役もすっかり板についたな。

俺は頼りっぱなしだ。

いつも気に掛けてくれて有難う、理央。


午前の授業が終わり、今日は屋上へ向かう。

いつもの校舎裏は日当たりが悪いから飯を食うような場所じゃない。


この屋上も意外と人気のないスポットだ。

理由は風が結構強いのと、打ちっぱなしのコンクリートの上に張り巡らされた配管が邪魔で座る場所がろくになく、景観も最悪だからだ。

でも実は穴場だということを俺は知っている。

老朽化で今は使われていない給水塔の奥、パイプを幾つか超えた先の隅の方。

周りの障害物が風除けと目隠しの役割を果たして他の奴に見つかり辛いし、屋上からの風景もフェンス越しではあるが遠くの方までよく見えるんだ。


「こんな場所があったとは」

「ちょっといいだろ?」

「そうだね、悪くはないかな」


理央は弁当、俺は途中で購買に寄って買い込んだ調理パンと菓子パンだ。

蓋を開けた理央の弁当から燦然と光が放たれる。

こ、これはっ、家庭料理ってレベルじゃないぞ!?


「人の食べ物を物欲しそうに見るな、育ちが知れるよ」

「おっ、俺のばあちゃんは俺を卑しい人間になんて育てていない!」

「だったら自分の食事に集中したまえ」


ちぇ、だって美味そうだし。

見るくらいいいだろ。


「健太郎」

「ん?」


理央が弁当の唐揚げを箸で摘まんで俺に向ける。

え、まさか。

食っていいのか?

しかもこれは『あーん♡』じゃないのか!?


「ほら」

「えっ、あっハイ、いただきます!」


ええい食べてしまえ!

んむッ! な、なんだこれ、美味い!

冷めているのにサクサクジューシィー! 肉汁の旨味! まさに唐揚げの極み!


「どうだい?」

「むまい!」

「食べながら話すな、満足したなら何よりだよ」

「んぐっ、理央、有難う!」

「どういたしまして」


うう、理央ぉッ!

やっぱり俺、お前のこと好きかもしれない!

だって優しいし、美人だし、今日も何だかよく分からんいい匂いがするし!

はあ、これで女の子だったらなあ。

だけど俺、お前なら男でもいけるかも。こんなの好きになっちゃう。


理央は俺をじっと見て、不意に俺が持っている食いかけの総菜パンを指した。

なんだ?

その指で今度は自分の唇をちょんちょんっとつつく。

ええと、お返しに食わせろって意味か?


「僕も君達の食文化に興味がある、見識を広めておきたい」

「どッ、どどッ、どうぞどうぞ! お口に合うか分かりませんが、パクッといっちゃってください!」

「有難う、いただきます」

「召し上がれ!」


パンを齧る理央の一口、やっぱり小さい。

上品だなあ。

俺の一口の半分よりもっと少ないかもしれない。


「ふむ」

「どうだ?」

「悪くない」

「美味いってことか?」

「そうだね、具の揚げ物は何だい?」

「メンチカツだよ、キャベツもたっぷり入ってボリュームあるだろ」

「ああ、新感覚の味わいだ、けど塩味が強いな、飲み物が欲しくなる」

「これ飲めよ」


俺の飲みかけのお茶を渡すと、理央は躊躇せず口をつけた。

もうノーカンなんて言わない。

これは間違いなく間接キスだ、やったぜ。


「健太郎?」

「ほわっ、な、何?」

「おかしな顔をしているな、いや、君は元からそういう顔だったか」

「失礼な! 俺は程よくイケメンだろうが!」


言い返すが理央は「ふうん」なんてスルーだ。

クソ、ちょっとは反応してくれ、それはそれで居たたまれないだろ。


「ところで、そろそろ本題に入ろう」


完全に流されてしまった。

超絶美形な理央からすれば、俺如きそもそも物の数にも入らないってことか。

フッ、分かってはいたさ、大丈夫、泣いてない。


「健太郎」

「はい」

「僕と話し合う意思はあるのか」

「あります」

「ならば結構」


更に叱られた。

これ以上絡むと呆れて教室に帰っちまいそうだから、流石に仕切り直そう。

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