期限と幼馴染 5
「理央、作戦大成功だ!」
「そのようだね」
「いやーまさか二人があそこまで仲良くなってくれるとは、これで俺の苦難もようやく終わりを告げるわけか」
「だといいが、楽観するのはまだ早いと思うよ」
「大丈夫だって、今日は俺も楽しかったし、理央も楽しめただろ?」
「まあ、そうだね」
「よし」
ふっと微笑んで、観覧車の窓へ視線を移す理央の横顔、綺麗だ。
長いまつげの下から覗く色素の薄い瞳、スッと通った鼻筋、柔らかそうな唇。
改めて美人だよなあ。
こうして見ているだけでなんだかドキドキしてくる。
「なあ、理央」
「ん?」
「あのさ」
隣に行ってもいいだろか。
流石に気持ち悪がられるか?
「お前ってさ、付き合いいいよな」
「今のところ僕達は一蓮托生の関係だからね、協力せざるを得ないのさ」
「なんだよ、じゃあ本音は俺のこと厄介だと思ってるのか?」
「まあね」
うっ、流石に傷付く。
俺だって前は理央をいけ好かないヤツだと思っていたが、今は違う。
どちらかと言うと、いや、もう完全に好きだ。
「でも」
また窓の外へ視線を移して、理央は「放っておけないからな」なんて呟く。
「君は危なっかしくて」
「そんなことないだろ」
「いいや、すぐ調子に乗るし、気遣いは出来るが鈍感だ、だから目が離せない」
「え?」
それって、言葉通りの意味か?
理央の色素の薄い瞳がゆっくりと俺に向けられる。
「君は覚えていないだろう?」
「な、何を?」
「入学式のことさ」
「入学式?」
「ああ、でもいい、僕ももう忘れた」
「なんだよそれ!」
まさか、お前とも何かあったのか?
でも俺は忘れている。
薫との約束といい、何なんだこのポンコツな頭は、我ながら腹が立つ!
「教えてくれよ理央、お前と何があったんだ?」
「何もないよ」
「忘れて悪かった! 本当にごめん、謝るからさ、だから頼む」
「僕も忘れたと言った」
「理央!」
「本当にいいんだ、健太郎、僕もこんなことになるとは思っていなかったから」
「こんなことって」
不意に理央は目を細めてフフっと笑う。
「君と親しくなるなんて、思っていなかった」
「理央」
「皮肉だな、だが事実は変わらない、君は余計なことに構わず、死の運命から逃れる術を早々に見出すべきだ」
「そ、それは、確かに」
反論の余地すらない。
すっかり浮かれてまた本末転倒していた。
それに、今日は俺の計画に理央を付き合わせているっていうのに。
「悪い」
「いいよ」
それきり理央は黙って、俺も観覧車の窓の向こうに広がる海を眺める。
今日は凪だが、小波に陽の光が反射して時折キラキラと煌めく。
理央と海にも行ってみたい。
―――今日の計画が上手くいって、薫との約束も思い出して、ループを無事に終わらせることができたら。
「なあ理央」
「ん?」
下り始めた観覧車が地上に到着する前に、思い切って切り出す。
「映画、必ず一緒に観ような」
「ああ」
「それに遊園地もさ、改めて二人で来ようぜ、今度は純粋に遊ぶためだけに!」
「君と?」
「だ、ダメか?」
浮付いてるとか言われるか?
じっと俺を見詰めた理央は、ふっと微笑んで「いいよ」と答えてくれる。
心音が跳ね上がった。
間もなく到着した観覧車の扉を係員が開ける。
「楽しみにしている」
先に降りた理央は確かにそう言った。
俺も、俺も楽しみにするよ、理央。
「ケンちゃん! 景色よかったね、海見えた?」
「おー見た見た、絶景だったな」
「うん!」
先に降りて待っていた薫が駆け寄ってくる。
虹川も満足げだ。
「ねえ、暗くなる前に帰ろう?」
「そうだな、まだ気持ち早い気もするが、そうするか」
今日は楽しかった。
不謹慎かもしれないが、理央と二人で過ごせてよかった。
いつかまた誘おう。
理央と他にも色々な場所へ出掛けたい。
「ケンちゃん、今日は殆ど一緒にいられなかったけど、楽しかった?」
「まあな、お前は?」
「私も美希ちゃんとたくさん楽しんだよ」
「うん、ねえカオルン、後で連絡するからね」
「分かった、待ってる」
二人が仲良くなってくれて俺も嬉しい。
薫に殺されないためっていう理由の後ろめたさはあるが、純粋に友達同士が仲いいのは悪くないよな。
遊園地を出ると、ゲートのすぐ近くに見覚えのある黒塗りの高級車が停まっていた。
運転席から降りてきた男が、こっちへ向かって深々と頭を下げる。
「どうやら僕の迎えのようだ、先に失礼させてもらうよ」
「すっごーい! 天ヶ瀬君、家から迎えが来るんだ」
「流石だね」
「ふふッ、それではまた、学校で」
「うん、またね!」
「今日は有難う、天ヶ瀬君もケンちゃんと二人で楽しかった?」
薫に訊かれた理央は、俺を見る。
「そうだね、それなりには」
「おい」
「健太郎、二人をしっかりエスコートするんだよ」
「分かってるよ!」
理央は笑って「じゃあね」と行ってしまう。
「天ヶ瀬君、四人で一緒に回れたらもっと楽しめたかもしれないね」
「薫、俺に問題があるような言い方するなよ」
「だってケンちゃん、気が利かないから」
「だよねえ」
「くっ! なんだよ二人とも、酷いぞ!」
俺をからかって笑う二人に憤慨しつつ、駅へ向かう。
でも今日は理央も楽しそうに見えた。
いや、楽しんでいたはずだ。
それにしっかり成果も上げられた、この調子で一週間後のデッドラインを引き延ばしてやる。
頑張るからな。
だから、もう暫く付き合ってくれよ、理央。
今回の死因:ナシ
楽しいデート回、理央との仲も急接近ですが、薫はどうなるんでしょうね。
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