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期限と幼馴染 3

電車を乗り継いで、一時間程度で遊園地に到着した。

入退場のゲートで予約しておいた四人分のチケットを見せて颯爽と入場、まずはスマートに決まったぜ。


「ねえ、なに乗る?」

「まずはジェットコースターだろ」

「いいね、楽しそう」

「あれ、藤峰さんってジェットコースター平気なタイプ?」

「うん」

「そっか、よかった、ちょっと嬉しいかも!」


二人共、絶叫系は割とイケる口だよな。

よし!


「それじゃ、薫と虹川さんで乗れよ」

「えっ」

「俺は理央と乗る、こいつビビってるからさ」

「びび?」


若干困惑気味の理央を見て、薫と虹川はクスクス笑う。


「こっちもちょっと意外かも」

「天ヶ瀬君って結構可愛いんだね」

「じゃあ、藤峰さん、一緒に乗ろうよ!」

「うん、楽しみだね、虹川さん」

「美希でいいよ」


おお、流石は虹川。

相手の懐にするっと入り込む懐っこさはコミュ力猛者の本領発揮だな。

薫も一瞬たじろぎはしたが「じゃあ、私のことも薫って呼んで」なんて返している。

いいぞ、その調子だ。

頼むぞ虹川、薫も、今日は存分に仲を深め合ってくれ。


早速アトラクションへ向かい、ジェットコースターに乗り込んだ。

さっきは冗談半分だったが、理央は割とマジでビビっているみたいだ。顔色が悪い。


「大丈夫か?」

「問題ない」

「途中でさ、こう、手を離すんだよ、そうすると面白いぜ」

「正気か」


出発のベルが鳴り響いてコースターが走り出す。

前席の薫と虹川はキャーキャー騒いで大盛り上がりだ。

俺も楽しい!

やっぱり遊園地と言えばジェットコースターだよな!


長いレールの上を猛スピードで駆け抜けたコースターが出発地点に戻ってくる。

安全バーが上がり、先に降りて振り返ると、理央はまだ座席に座ったままだ。


「理央?」


俺を見上げた目が明らかに助けを求めている。

うわ、マジで苦手だったのか!

慌てて伸ばした手に縋りついてくるから、引き上げて降ろしてやった。

だ、大丈夫か?


「天ヶ瀬君、顔真っ青だよ」

「ジェットコースター本当に苦手だったんだ、ごめんね」

「少し休むか? なっ?」


薫と虹川も理央を気遣ってくれる。

アトラクション近くのベンチに座らせると、理央はぐったり項垂れて「すまない」とこぼした。


「ああ、ええーっと、取り敢えず薫と虹川さんで遊んでこいよ」

「でも」

「理央には俺がついてるからさ、一緒に回れなくてごめんな」

「それはいいけど」

「実を言うと理央のこと結構強引に誘っちまったんだ、だからこれは俺の責任」

「そうなの?」

「ああ、なんて言うかその、すまない」


ペコッと頭を下げると、薫は「もう!」なんて言う。

虹川にも呆れられたよな。

でもこれでいい、目的さえ達成できれば俺はどう思われても構わない。


「ケンちゃん、そういうのよくないよ?」

「悪かったって、だからさ、理央の具合がよくなったら合流するから、取り敢えず二人で遊んで来てくれよ、その方が俺も気が楽だ」

「分かった、天ヶ瀬君の具合、ちゃんと見てあげてね?」

「はい」

「それじゃ健太郎君、私達だけで行ってくるね、天ヶ瀬君、無理はしないでね」

「ああ、有難う」


仲良く歩いていく二人を見送りながら、理央の隣に腰を下ろす。


「強引に、ね、確かにそうだな」

「マジでゴメン、具合どうだ? まだ暫く動けなさそうか?」

「ああ、こんな情けない姿を人前に晒す羽目になると思わなかった」

「ゴメンってば、お詫びにジュース買ってくる、何がいい?」

「何でもいい、君に任せる」

「了解」


立ち上がって近くの売店へ走る。

それにしても、理央も結構可愛いところがあるもんだ。

まさかジェットコースターが苦手とは。


戻って、理央に飲み物を手渡すと、ストローを咥えた直後に目をまん丸くした。


「何だい、これ」

「カップルフロートの赤い方、ラブリーストロベリー味」


答えた途端に渋い顔をする。

なんでだよ、美味いだろ?

ちなみに俺のはカップルフロートの緑の方、セクシーマスカット味だ。


「期間限定らしいぜ、シェアして飲むと味が変わるそうだ」

「君と?」

「問題あるのかよ」

「あるさ、ジェットコースターの次はこんな飲み物、君、今日の目的を忘れてやしないか?」

「大丈夫だって! 薫と虹川さんなら今頃は仲良く楽しんでるよ、そして俺達は付き添い、だろ?」

「結構」


でも俺達だって楽しむべきだ。

理央は初めての遊園地だし、俺はお前にも満足して欲しい。


若干不貞腐れ気味にストローを齧っていると、不意に理央から「おい」と呼ばれる。

何だと振り返ったら、俺が飲んでいるセクシーマスカット味を一口寄越せと言われた。


「シェアすると味が変わるんだろ?」

「そうらしいけど」

「じゃあ君も、はい」

「えっ、いいのか?」


理央から恐る恐るラブリーストロベリー味を受け取って、ストローを口に含む。

これは間接キス?

いやいや! 理央は男、理央は男だ、男は間接キスの範疇に入らない!

だからこれはノーカン!


「お、変わった味がする」

「そうだね、これは何味なんだろう」

「ラブラブポーションフレーバーらしいぜ」

「は?」

「あっでも段々イチゴ味になってきた、なるほど、こういう感じなのか」


しきりに首を傾げる理央と、その後も何度かお互いのカップを交換して味を確かめ合ったが、結局ラブラブポーションフレーバーが何味なのかは分からなかった。

フルーツフレーバーなのは確実なんだが、他にも色々と混ざっている味わいだ。

ストロベリーとマスカットを組み合わせただけのはずなのに、どうなってるんだろう。


「まさに企業秘密ってヤツだな」

「そうだね」

「ところで理央、具合はどうだ? 多少はマシになったか?」

「ああ」

「じゃあ、改めて俺達も移動しようぜ、あ、何か乗りたいものとかあるか?」

「藤峰君たちはいいのか」

「そのうちどこかで会えるだろ」


理央が溜息を吐く。

携帯端末から連絡して居場所を訊いてもいいが、もし今盛り上がっている最中だったら水を差すような真似は避けたい。

それに、なるべくあの二人だけにしておきたいからな。

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