期限と幼馴染 1
LOOP:6
Round/Limit
「はぁ」
溜息を吐く俺を、理央が呆れたように見ている。
「何か言ってくれよ」
「今回で七度目の採血だった、いい加減注射器を見るのが苦痛だ」
「お前はそれで済んでるからいいだろ、俺なんて、今回はまたナイフで刺された上に、家まで焼けちまったんだぞ」
あの後、薫はどうしただろう。
焼死はマジで痛いし苦しいから、どうにか難を逃れてくれたと思いたい。
それとも、俺を刺したナイフで後を追ったか。
「君の家に泊まったのは殺害目的だったのかもね」
「そんな風に言わないでくれ」
俯くと理央は俺の頭を撫でてくれる。
前みたいにわしゃわしゃ撫でまわす感じじゃなく、労わるような優しい手つきだ。
子供じみた慰め方だが悪い気はしない。
「でも、収穫はあったね」
「え?」
俺を意味深に見詰める理央の顔をまじまじと見返す。
今日は最初に殺された日の昼休みで、いつもの校舎裏だ。
理央と一緒に座り込んで毎度よろしく状況の確認と整理、対策について話し合っている。
「まず、藤峰君は『君だけが分かってくれた』と言ったんだろう?」
「おう」
「では恐らく約束に関するヒントだ、君だけが理解している藤峰君に関する何らかの事実、思い当たる節はないか?」
「うーん」
俺だけが知っている薫に関することねえ。
太ももの内側にホクロがあるとか、昔はすげー泣き虫だったとかか?
―――違う気よな。
大体ホクロとか泣き虫だとか、約束と関係無いだろ、多分。
「では次だ、前提としてこれは僕の推論だが、君の死には期限が設定されているように思う」
「はい?」
なんだそれ。
理央は片手の指を一本だけ立てて俺に見せる。
「初回のリミットは今日、まずここを乗り越えられるかによって以後の展開が変化する」
「り、リミット」
「そうだ、次のリミットは一週間後」
もう一本指を立てて足す。
「そこでもう一度、君に死の試練が訪れる」
「試練って」
「これまでのことを思い出してみたまえ、君の死は今日か、一週間後のどちらかのみに訪れている」
「まあそうだが、ちょっと強引すぎやしないか?」
「だから僕の推論だと言った、とにかく注意すべきはこの二つの期限だ、恐らく君の生死に関わるデッドラインが引かれているのだろう」
うええ、最悪だ。
改めてだが何でこんな事になっている、冗談じゃない。
「映画かよ、洒落にならねえ」
ぼやくと、理央は不思議そうに小首を傾げた。
なんだそのあざとい仕草、無意識にやっているのか、可愛い。
「映画とは?」
「知らないか」
「ああ」
「あるんだよ、今の俺の状況に似た感じの映画が」
「へえ」
「なら今度一緒に観るか? 結構面白いぞ」
シリーズものなんだが、最初は飛行機で、次は高速での自動車事故、その次は遊園地と、本来死ぬはずだった運命を書き換えた奴らが、何だかんだで結局一人ずつ命を落としていく。
説明しながら段々鬱になってきた。
まさしく今の俺じゃないか、じゃあ何か? 俺も最後は結局死ぬのか、ふざけんじゃねえ。
話の途中で耐えられなくなって頭を抱えると、理央は「よしよし」と背中をさすってくれる。
「おおよそ理解したよ、結構面白そうじゃないか」
「それを今、俺に言うか」
「君が話し始めたんだろう」
「そうだけど勘弁して」
「仕方ないな」
クスクス笑う理央を見上げる。
いちいち可愛い、何なんだ本当に。
「では、君が結末を覆したら、改めて件の映画を一緒に鑑賞するとしよう」
優しいなこいつ。
些細な気遣いにどれだけ救われているか、女の子たちがこいつに熱を上げる理由が俺にも分かった気がする。
本当に理央が男じゃなければなあ、つくづく惜しい。
「なんだい、じっと見て」
「いや、別に」
理央は若干怪訝そうにしてから、改めて話を切り出す。
「それで、これからどうする?」
「方向性は取り敢えず間違っていなかった、と思う」
「ふむ」
「でも理央が言うとおり俺の生死に期限があるとしたら、敗因は展開を成り行きに任せ過ぎたことだ」
「なるほど」
「だから今回は『ガンガン行こうぜ』に作戦を切り替えようと思う」
「そうか」
今の元ネタも分かってなさそうな雰囲気だな。
意外に知らないことが多いのかもしれない、そのうち色々と庶民について教えてやろう。
「それで、だ」
おもむろに理央の手を取りギュッと握る。
細くて柔らかい、女の子みたいな手だ。
だが健太郎、錯乱するなよ、こいつは男、男だからな。
「手伝ってくれ、理央」
「構わないが」
「よし!」
本当に付き合い良いよな。
言質を取った、この際だ、もっと大掛かりに巻き込んでやれ。
「それで、僕は何をすればいい?」
「ではここで質問です、女の子と仲良くなるためには何をすればいいでしょうか?」
「は?」
「デートだよデート! この際デートしかない、命懸けのデート大作戦だ!」
我ながら今回の俺は冴えわたっている。
戸惑う理央に詳細を説明すると、そのうち微妙な表情になって、最後はため息まで吐かれた。
なんでだよ。
「君、本気で言ってるのか?」
「おう! モチのロンだぜ」
「何と言うか、呆れを通り越して、正気を疑う」
「なんだと!」
聞き捨てならないぞ、理央、お前は俺の味方なはずだ。
理央は俺の手から手を引っこ抜き、腕組みして暫く考え込むと、渋々といった様子で頷いた。
「まあ、協力すると言ってしまったからな」
「やったぜ」
「健太郎、一つ確認しておく」
「なんだ?」
「この件に関して、目的をはき違えてはいないね?」
そ、それは、大丈夫だ。
あくまでループを抜け出すため、薫に俺を殺させないための計画だからな。
要点は踏まえてるぞ、うん。
「勿論」
「それなら結構」
若干怪しまれているな、だがこのまま押し切ってしまえ。
改めて理央とデートの計画について話し合う。
上手く立ち回れば好感度を一気に稼げるイベントだ、失敗は許されない。




