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混迷と幼馴染 2

「前回、君の死のトリガーとなったのは朝稲君とのカラオケだ」

「うぅッ、そうです」

「ではその朝稲君と藤峰君が友人関係だったら? 君の行動に対する受け取り方も多少は異なったんじゃないか」

「それは」


まあ、自分も仲が良ければ多少はソフトに受け止めたかもしれないよな。

薫の判定が甘くなった可能性はある。


「要は、君に対する感情を分散させるのさ」

「分散?」

「そう、今の藤峰君の執着は君に一点集中だが、その執着を分散させることができれば、君への感情も多少は軽くなるかもしれない」

「なるほど」

「つまり殺意を軽減させる」

「そ、そうか!」

「まあ可能性の話に過ぎないがね、試すだけ試してみたらどうだい」

「よし、それでいこう!」


薫は、いざとなったら仲良くしている愛原さえ殺す。

でも俺達の共通の友人は今のところ愛原だけで、数が増えれば違うかもしれない。

流石に一人殺すのも複数殺すのも同じなんて暴論にはならないだろう、あの時の愛原だって勢い余って殺した可能性もあるしな。


「薫の仲良し大作戦だな」


天ヶ瀬が微妙な表情を浮かべる。


「君は行動に副題をつける趣味があるようだね」

「キャッチーで分かりやすいだろ?」

「まあ構わないけれど」


分かりやすさ大事だぞ、意識に擦り込みやすくなるからな。


「それじゃ、今度こそ頑張ってくれたまえ」


話は済んだとばかりに行こうとする天ヶ瀬の腕を掴む。

なんだと振り返った天ヶ瀬の頭を撫でてやった。


「おっ、やっぱりフワフワだな」

「君、何をする」

「さっきの仕返し、お前だって俺の頭を何度も撫でただろ」


ムッとしつつ黙り込む天ヶ瀬はちょっと可愛い。


「なあ天ヶ瀬」

「なんだ」

「その、ありがとな」


改めて言うと照れくさいな。

でもお前が一緒にループしてくれてよかった、調子いい考えだけど真面目にそう思う。


天ヶ瀬はきょとんとして、不意にフッと笑った。


えっ?

ちょ、ちょっと待て。

―――可愛い。

マジか、こいつ笑うとメチャクチャ可愛いぞ!?


「礼は、君が約束とやらを思い出して、このループを終わらせた時にでも改めて言ってくれ」

「お、おお」

「では僕はもう行くよ」


俺の手を解いて立ち上がった天ヶ瀬に、また頭をぐしゃぐしゃッと撫でまわされる。

お、おいコラ! こいつ更にやり返しやがった!


「頑張ってくれたまえ、健太郎」

「は?」


え、待て。

今俺を名前で呼んだ?


「それじゃあね」


ヒラッと手を振り行ってしまう。

名前で呼んだよな? 俺のこと『健太郎』って呼んだよな?


お、俺も、理央って呼ぶべき?


急に距離が縮まった気がする。

なんかドキドキして、お、落ち着け、あいつは男だぞ?

俺は男に興味なんか―――興味なんか。


あーくそッ!

天ヶ瀬が俺好みの美人なのがいけないんだ!

大体なんであいつはああも顔がいいんだよ、女の子だったら完全に好みだったぞ、クソ!


まあいい。

とにかく今は生き死にが掛かっている状況だ、前回の二の舞になるな、もっと本気で向き合え。


まずは薫ファーストの徹底だな。

もうミスはやらかさない、俺は羽目を外さない、慎重に行動する。

しかしなんでバレたんだろう。

そこだけが謎だ、まあ今更考えたって意味ないが。


それから約束。

これを思い出さないことにはどうにもならない。

俺に掛かっているんだが、その俺自身がこのポンコツ具合ときた、はぁ。

何かヒントになるようなものってないモンかね?

薫には訊けないし、正直手詰まりだ。

だが諦めるわけにはいかない。

こうして考え続けていれば、ある日突然ポンッと思い出す可能性だってある。


そして新たなミッション、薫の仲良し大作戦だ。

いずれ薫が殺す可能性のある女の子達と薫の仲を取り持つ。

これに関してはある意味博打だが、多少なりとも可能性があるなら試してみるべきだ。

薫に友達が増えること自体は、俺も普通に嬉しいしな。


で、だ。

具体的にどうする?

皆を集めて合同デート、なんてのは意味がなさそうだ。

他の子の相手をしている間、薫は放ったらかしになっちまう。

なら初手は会話を増やすところから始めるか。

俺も仲良くしたい女の子がいる時は、趣味や好きなものを知って話しかけていくもんな。

そこから足掛かりを作って関係を深めていく。

地味だが確実なやり方だ、よし、これで行こう。

話題に関しては俺が傍でフォローすればいいし、皆も気のいい子ばかりだから薫を受け入れてくれるだろう。


今度こそ薫に殺されたくない。

この作戦がどうか上手くいきますように、信じて動くしかないな。


不意に昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。

しまった、今から教室に戻っても遅刻だな。

もういい、このままサボっちまおう。

腹も減ってるし、まともに授業を受けられる気分でもない。

取り敢えず昼寝でもするか。

最近ずっと殺されて目が覚めるから、まともに寝てる気がしないんだよな。


それにしても、俺達はどうしてずっとタイムリープし続けているんだろう。

俺と―――理央。

これまで特に絡むことのなかったあいつと。

タイムリープ自体が謎だよな、ガチで死なずに済んでいるって点では助けられているが、理由も原因もさっぱり謎だ。


神様のイタズラ? それとも悪魔か?

ボーッとしているうちに段々眠くなってきて、目を閉じる。


―――ん?

誰か隣に来た?

肩をそっと引かれて、柔らかな何かを枕に横になった。

いい匂いがする。

さっき嗅いだような匂いだ、俺、この匂い好きだな。


「健太郎君」


だれ?


「頑張って」


ああ、頑張るよ。

今度こそ薫に殺されない。

死ぬのはもうごめんだ、薫に『嘘吐き』なんて呼ばれたくない。


―――ん?


ふっと目が覚める。

あれ、俺?

本当に寝ちまったのか、いてて、体が固まってる。


でもなんか、誰かに優しく撫でられていたような気がするんだが、夢か?

こういう夢なら大歓迎なんだけどな。

取り敢えず小腹を満たすためにジュースでも買って教室に戻ろう。

そろそろ授業も終わる頃だ。


頬を叩いて気合を入れなおす。

よし、やるぞ。

待ってろよ薫、俺は今度こそループを終わらせるからな。

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