混迷と幼馴染 1
LOOP:5
Round/Get lost
やっちまった。
ベッドに寝そべったまま呆然と天井を仰ぐ。
また殺された。
薫ファーストを破った罰だ。
―――起きる。
今朝も迎えに来てくれた薫と一緒に登校する。
一週間、生き延びたのに。
けれどたった一週間だ。
我ながら情けない、俺はどうしてこうも詰めが甘いんだ、ハア。
昼休みになって登校してきた天ヶ瀬からあからさまに睨まれた。
うう、やっぱりバレてるよな。
内心頭を抱えつつ、トボトボと校舎裏へ向かう。
メチャクチャ嫌味を言われるか、心底呆れられる予感しかない、キツい。
前回同様に校舎裏で校舎の影に腰を下ろして待つと、後から来た天ヶ瀬も無言で俺の隣に座った。
何も言ってこないな。
これは相当キレているのか、マジで居たたまれない。
「あのぉ」
恐る恐る呼びかけてみると「何」と素っ気なく返される。
怖い。
声に明らかに刺がある。
「そのぉ―――俺ですね! 今回は毒殺されちゃいましたーッ、テヘ!」
「君はバカと言うより愚かなんだろうね」
「まったくその通りでございます」
ぐうの音も出ないとはこのこと。
しかしなんで薫にバレたんだろう、どこかで見られていたのか?
とにかく、前回の死因は俺の油断だ。
命が掛かっている状況だってのに、マジで何やってんだよ。
「君は」
「はい」
「自分で宣言したことも守れないのか」
「そうです」
「まさか死にたがりだとは思わなかったよ」
「ちっ、ちげーよ! そんなわけあるか!」
「では何だ? 藤峰君に毒殺された経緯は? 包み隠さず話せ」
「ひゃい」
ビクビクしながら朝稲とカラオケに行き、帰宅が遅くなった旨を明かす。
案の定天ヶ瀬に盛大に溜息を吐かれた。
「ごめんてばぁ、流石に反省してるって」
「僕に反省されても無意味だよ、君はつくづく愚かだね」
「辛辣過ぎる」
「自分の命が掛かっているんだぞ」
「はい」
「でもまあ、また殺されたのは辛かったね」
え?
な、何だよ急に、調子狂う。
呆れたり叱られるだろうとは思っていたが、同情されるなんて想定外だ。
「とにかく、今回の油断をよくよく反省し、今後の糧にしたまえ」
「そうします」
「ところでカラオケは楽しかったかい?」
「楽しかったよ! うぅ~ッ!」
「やれやれ」
そういや、天ヶ瀬ってカラオケ行ったことあるんだろうか。
財閥のお坊ちゃんには縁のない場所のような気がする。
「マジで反省してるよ、今回は完全に俺のミスだ」
抱えた膝に視線を落とす。
また『嘘吐き』なんて言われちまった。
でもあの時の俺は実際に嘘を吐いていたからな。
それで殺されたんじゃ自業自得だ、やっぱり嘘はよくない。
大切な相手なら尚のこと、誠実に向き合わないとだよな。
「それなら」
不意に頭をわしゃわしゃッと撫でまわされた。
え、なんだ?
驚いて振り返ると、天ヶ瀬は俺を撫でた手をじっと眺めている。
「ふむ、結構固いんだな」
「な、なんで今俺の髪質を確認したんだ」
「特に意味はない」
あっそう。
なんだこいつ。
天ヶ瀬にも同じようにしてやろうか。
こいつの髪ってサラサラのフワフワで、撫で心地良さそうだよな。
やっぱりいい匂いがするし、変な気分になってくる。落ち着け、俺。
「大磯君」
「お、おう」
「とにかく君は、今後も藤峰君ファーストに努めたまえ」
「分かった」
「しかし君は八方美人な性分のようだから、また親しい女生徒に誘われたら断りきれないだろう?」
そこは何とも言い難い。
前回、朝稲から最近付き合いが悪いって言われたし、他の子達にもそう思われている可能性はある。
つまり皆にも寂しい思いをさせているってことだ。
事情があるとはいえ心苦しいよな。
「君がさっさと藤峰君との約束を思い出しさえすれば、全て解決するだろうね」
「分かってるよ」
「まだ心当たりはないのか?」
「さっぱり」
覚えていないものを思い出せなんて無茶が過ぎる、どうすればいいんだ。
しかも思い出さない限り、薫は何度でも俺を殺すだろう。
前回の俺は極端が過ぎたように思う、普段通りを心掛けていたつもりで、それでも薫の顔色を窺っていたんだ。
多分無理をしていた、そのせいで緊張が解けた途端に油断して、結局殺された。
これで何度目だ?
俺はあと何回あの苦しみを、恐怖を、味わわなければいけない?
「いっそ死を望むかい?」
思いがけない言葉にハッと振り返る。
天ヶ瀬の色素の薄い目と目が合う。
「ループはもうしたくないか」
「それは、まあ」
「では本当に死ぬかい? 君が諦めたら、このループも終わるよ」
「ッツ!」
そう、なのか?
―――そうかもしれない、俺はずっと足掻き続けている。
でも死ぬのは嫌だ。
やりたいこと、見たいもの、知りたいことだってたくさんある。
何より俺はまだ童貞なんだぞ?
女の子とエッチもしないで死ねるか、まずは美人な彼女が欲しい!
「嫌だッ!」
天ヶ瀬に言っても意味無いだろうが、それでも言い返す。
「俺は絶対に死にたくない、諦めたくない!」
「そうか」
「なあ天ヶ瀬、どうすればいい? 俺もう分からないんだよ、約束も思い出せないし、だから薫に殺される、八方塞がりなんだ」
「僕も君の手助け程度しか出来ないよ、君自身が抗い続けるしかないんだ」
そうだよな。
解決策は既に出ているんだ、後は俺自身がどうにかするしかない。
「やれやれ、君は世話が焼けるね」
天ヶ瀬はまた俺の髪を撫でまわす。
これってもしかして、何気に俺を慰めてくれているんだろうか。
「ではそんな君に、また助言してあげよう」
「な、なんだ?」
「君は今後も前提として藤峰君ファーストを心掛けたまえ」
「分かった」
「その上でだ、いずれ藤峰君に殺害される可能性のある女生徒たちと、藤峰君の仲を取り持つというのはどうだろう」
「はい?」
なんだそれ。
薫が皆と仲良くなって、どうして俺が殺されなくなるんだ?




