対処と幼馴染 4
「ねえ、最近あの子と仲いいよね、藤峰チャン」
「まあ幼馴染だし、仲は元々いいぞ」
「ズルい!」
「は?」
「なーんかアヤシーッ、もしかしてデキちゃったりなんて、してませんよねえ?」
何言ってんだこいつ。
俺と薫がそんなことになるわけないだろ。
「違うよ」
「本当にぃ?」
「本当だ」
「じゃあさ、じゃあさ、今日はアタシに付き合ってよ、ね?」
「ええッ」
「ダメぇ? だってたまにはいいじゃん、ケンってば最近付き合い悪いし」
「そりゃまあ、色々とあるんだよ」
「ふーん」
これは疑われている気配だ。
まあ薫は可愛いからな、そう取られても仕方ないが、俺に恋愛感情はない。
あいつは家族みたいなもので、かけがえのない、何を置いても守らなくちゃならない存在なんだ。
でも今は、油断すると俺を殺しにかかってくるんだが。
「分かった、いいよ」
俺が答えた途端に朝稲は「やった!」と目を輝かせて腕に抱きついてくる。
お、おっぱい!
くぅッ柔らかい、これだから堪らん。
朝稲って結構デカいんだよな、何カップくらいあるんだろう。
「じゃあさ、カラオケ行こうよ」
「カラオケぇ?」
「いいでしょ、行こ!」
「あ、おい引っぱるなよ」
「よーし、今日は歌うぞーッ」
「遅くならないうちに帰るからな」
「そういうのは言いっこなし、しゅっぱーつ!」
引き摺られるようにして朝稲に連行される。
一応、うちは下校時に寄り道禁止なんだが、守っている奴はほぼいない。
朝稲なんかその筆頭だ、前はこうしてカラオケだ、ゲーセンだと連れ回された。
まあ久々だし、今日は薫も用があるんだ、仕方ない。
よし、朝稲に付き合って思いきり歌うぞ!
丁度いい気晴らしになりそうだ、なんだか楽しみになってきたな。
俺は朝稲とカラオケに行き、結局二時間も盛り上がってしまった。
だって楽しくってさ、はぁ、やっぱりデカい声出すと気持ちがいいよな。
朝稲もすっかり満足したみたいだ。
ご機嫌で帰っていった。
俺は多少足早に自宅へ向かう。
薫が晩飯を作りに行くって言ってくれたから、きっと待たせている。
遅くなった理由は適当に誤魔化すとしよう。それくらいなら見逃してくれるはずだ。
あれ、家に明かりが点いてる。
玄関を開けて「ただいま!」と呼び掛けると、奥からエプロン姿の薫がパタパタと走ってきた。
預けている合鍵で入ったのか。
それにしてもよく似合っている、可愛い。
「もう、遅いよケンちゃん、どこ行ってたの?」
「ごめんごめん」
「寄り道?」
「ちょっとゲーセンに、ほら、いつものヤツ、ハイスコア叩き出してきたんだぜ?」
「いけないんだ」
そんなこと言って、この前はお前とカフェに寄り道したじゃないか。
あれはいいのかよ。
「ご飯できてるよ、早く着替えて、手洗いうがいしてきて」
「了解」
「ケンちゃん遅いから、冷めちゃうんだから」
「悪かったって、でも薫の料理は冷めても絶品だよな」
「褒めてもダメです」
「本当だよ、俺、薫の料理なら冷めても大歓迎だぜ」
料理上手だからな。
でも、やっぱり温かい方が美味いよな。
部屋に戻って制服を着替えて、手洗いうがいも済ませてリビングに行くと、晩飯の用意がすっかり整っている。
ところでメインのオムライスはどこだ?
「オムライスは今仕上げるから、ちょっと待ってね」
台所から薫が言う。
つくづく家庭的だよな、薫と結婚する奴は幸せ者だ。
「あ、ケンちゃん、冷蔵庫からお茶出しておいて」
「はいよ」
俺がお茶を用意している間に、美味そうな匂いが漂ってくる。
薫はオムライスを手際よく仕上げてリビングのテーブルへ運ぶ。
「はい、出来上がり」
「おおっ、美味そう!」
「美味しいよ、たくさん食べてね」
「ああ、それじゃ、いただきます!」
「どうぞ、召し上がれ」
向かい合って手を合わせ、まずはオムライスからだ。
スプーンで金色に輝く卵とその下のチキンライスをサクッと掬い、口に入れる。
「ん! んまい!」
薫は「よかった」と微笑む。
「卵も中のチキンライスも絶品だ、すっげえ美味い!」
「そう、おかわりもあるからね」
「マジか? やったぜ!」
これならあと二皿、いや三皿はいける。
他の献立は、温野菜のサラダと炒め物、何かの小鉢に、玉ねぎたっぷりのスープだ。
炒め物はバターの風味が香ばしい、温野菜はどれもホクホク、特にプチトマトが美味い。
何かの小鉢は、これ、何だろう?
薫に訊くとキノコをオリーブ油で漬けたものらしい、へえ、洒落てるし美味いな。
「ケンちゃん」
バクバク食べてると、薫が話しかけてくる。
そういや薫のオムライスは無い、もしかして夕飯済ませてきたのか?
だとしたら俺のためにわざわざ用意してくれたのか、待たせて悪い事したな。
「寄り道、一人で行ったの?」
「うん」
っと、朝稲と一緒だったとは流石に言えない。
芋づる式にゲーセンじゃなくカラオケに行ったことまでバレそうだ。
「―――にゃ、いや、そうだよ」
「そっか」
「何でそんなこと気にするんだ?」
「せっかくだし、誰かと一緒の方が楽しかったのにって」
まあそうだな。
ゲーセンも一人よりツレがいた方が色々と遊べて楽しいよな。
「俺がスコアアタックしている筐体、一人用だから」
「でも競争も出来るんだよね?」
「まあな、たまに野良の奴と競ったりするよ」
「勝つの?」
「うーん、いつもってわけじゃないが、それなりには」
「凄いね」
それほどでもない。
まあ、それなりの腕だけどな。
「ケンちゃん、スープも飲んで、美味しいよ」
「ああ」
美味そうな玉ねぎのスープ。
飲む直前で薫が「ちょっと待って」と上に粉チーズを振りかけてくれる。
「こうした方が美味しいよ、チーズをたっぷり掬って食べてね」
「了解」
スプーンでスープと粉チーズをたっぷり掬って、いただきます。
口に含むと同時にまろやかで濃厚な味が広がっていく、美味いなあ。
「美味しい?」
訊かれて頷こうとして、不意に妙な感覚を覚えた。
喉が、苦しい?
「ぐッ」
なんだッ、これ。
急に息がッ、でき、なッ、ぐぅッ!
喉を押さえながらもがく!
息が、息がぁッ、ぐッ、ぐるじいッ、ぐうううッ!
「ケンちゃん」
薫?
「私、知ってるんだよ」
へ?
「嘘吐き」
そんな、まさか。
薫の泣き笑いの表情が歪んで段々見えなくなっていく。
苦しいッ、苦しいッ、苦しいッ!
し、ぬ!
誰かッ!
た、すけ、て―――
今回の死因:毒殺
何の毒だったんでしょうね、とどのつまり浮気はダメってことです。
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