表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/46

対処と幼馴染 3

天ヶ瀬は頷き、俺の眉間を指でグイグイと押す。


「なっ、何するんだよ」

「ではくれぐれも藤峰君に悟られないよう心掛けたまえ、あからさまに顔色を窺わないことだ、それでは逆効果だからね」

「は?」

「後ろめたい事があると暗に告げるようなものだろう、却って彼女を傷つける」


それもそうだな。

よし、普段通りを心掛けつつ、当面は薫ファーストだ。


「分かった」

「よろしい」

「時間を稼いで、何とか約束の内容を思い出してみせる」

「結構」


よし、幾らか前進したぞ。

やっぱり天ヶ瀬でもいないよりはマシだな、一人で抱え込むよりずっといい。

多少申し訳ないがループに付き合ってくれて感謝だ。


「では、僕はそろそろ失礼しよう」


立ち上がった天ヶ瀬は尻の汚れを手で叩いて落とす。

俺も立ちあがると自分の尻を叩いて、改めて天ヶ瀬に礼を言う。


「あのさ、サンキューな」

「構わないよ、僕にも関わりのあることだ、いい加減採血を受けたくないからね」

「おい、だから採血なんかと一緒にするなよ、俺は毎度殺されてるんだぞ?」

「君は自業自得だろう」

「うぐッ、そうだけどさ、ああクソ、はいはいすいませんねぇ」


天ヶ瀬は俺を冷ややかに眺めて、さっさと行ってしまう。

ふん、採血ごとき殺されるよりマシだろ。

それともあいつ、もしかして注射が苦手なのか?

でも確かに得意な奴なんていないよな、俺だって苦手だ。


さて、俺も教室に戻ろう。

ひとまず今後の方針は決まったし、腹も減った。さっさと飯を食っちまわないと。


当面、俺は薫ファーストを徹底させる。

薫が寂しい思いに駆られ、心の天秤を狂わせて、俺を殺させないために。

全身全霊をかけて薫に尽くすぞ。

それが俺の誠意だ。

同時に早いとこ約束の内容を思い出さないとな。

手掛かりは何もないが、それでもやるしかない。

でないとまた薫に殺されて、俺と天ヶ瀬は延々とタイムリープを繰り返す羽目になっちまう。


あいつ、ずっと傷付いていたんだろうな。

俺が約束を忘れたから。

そう考えると胸が苦しい。

薫はいつだって俺にとって特別な存在なのに。


午後の授業が終わって放課後。

早速薫を誘い、一緒に帰る。


「ねえ、ケンちゃん」

「ん?」

「駅前にね、すっごく可愛いカフェができたんだ」

「行きたいのか?」

「うん!」

「じゃあ行こう、なんだったら奢ってやるよ」

「やったあ! 有難う、ケンちゃん」


ニコニコと笑う薫は本当に可愛い。

こいつが俺を殺すなんて、完全に質の悪い冗談だ。


「だけど、ケンちゃんから誘ってくれるなんて珍しいね」

「そうか?」

「うーん、もしかして」


な、なんだ?

まさかもう俺の意図に勘付いたんじゃないよな?


「ケンちゃん」


冷汗が背筋を伝う。


「今朝のこと、反省してるんでしょ」

「えっ」

「ケンちゃんがのんびりしていたせいで遅刻しそうになったこと、忘れてないよ」

「そっ、それはその、すまん」

「やっぱり! だから奢るなんて言ったんだね、もう」


呆れる薫に脇腹をつつかれる。

よかった。

こんな勘違いなら大歓迎だ、いくらでも俺を責めてくれ。


「明日も遅刻しそうになったら、ケンちゃんは置いていくからね」

「そんな、勘弁してくれよ」

「だってケンちゃん、甘やかすと幾らでも甘えるし」

「頼むよ薫、なあ」

「どうしよっかな~」

「薫ぅ」

「それじゃ今夜は早く寝ること、夜更かし厳禁、明日も早く起きなさい、いい?」

「はぁ~い」

「よろしい」


こうしているといつもの薫だよな。

俺の大切な幼馴染。

それがどうして俺を殺すんだ。

今も抱え込んでいる想いを明かしてくれない、それとも無駄だってとっくに見限られちまっているのか。


「ケンちゃん?」


小首を傾げる薫の頬をプニッとつつく。

もう、とむくれた薫を今度はくすぐってやった。


「ちょ、ちょっとケンちゃん! やめて、くすぐったいよ!」

「薫はここが弱いんだよな、ほーらコチョコチョ」

「やめてったら、アハハッ」


なあ、ずっとこのままでいてくれよ。

もう俺を殺さないでくれ。

頼むよ、薫。


―――それから俺は、薫ファーストの有言実行に全神経を注いだ。


天ヶ瀬のアドバイスを参考にして、薫抜きで女の子と喋らない、登下校は薫と一緒、昼も必ず薫と食べた。

薫が行きたいと言った場所には必ず付き合って、端末にメッセージが届いたら一分以内に返信、常に薫の目の届く範囲にいるよう心掛け、薫からなるべく離れないようにする。


そうして過ごした一週間後。

俺は、まだ生きている。


薫にも俺を殺そうとする兆候は見られない。

ただ相変わらず約束の内容は思い出せなくて、こっちは焦る一方だ。

あまり悠長に構えてはいられないよな。

なにせ所詮は一時凌ぎだ、そのうちまたボロが出て殺される可能性がある。

もう死にたくない。

薫にだって俺を殺させたくないんだ、だから早くどうにかしないと。


「薫、帰ろうぜ」


今日もいつもと同じように薫を誘うと、薫は顔の前で両手をパチンと合わせた。


「ごめんね、ケンちゃん」

「えっ」

「あのね、放課後、生徒会の用事ができちゃったの」

「用事?」

「資料作りを手伝って欲しいって、凄く量が多いそうなんだ、困っているから断れなくて」

「そっか」

「本当にごめんなさい、時間が掛かると思うから、今日は先に帰って」

「けどお前はどうする、遅くなると危ないだろ」

「大丈夫だよ、一緒に作業する生徒会の子と帰るから、心配しないで」

「そうか」

「有難う、ケンちゃん」


嬉しそうな薫の頭を何となく撫でてやる。

薫はポッと頬を染めて「エヘヘ」と照れたように笑った。


「あっ、お夕飯は作りに行くから、でもお腹が空いたら適当に食べて待っていてね」

「分かった」

「お詫びにケンちゃんの好物作ってあげる、カレーでいい?」

「今日はオムライスの気分だ」

「分かった、ウフフ、それじゃ、とっておきのオムライスを作るね」


俺に「いってきます」と告げて駆け出す薫を見送る。

頼まれたんじゃ仕方ないよな、薫は優しいから、そいつを放っておけなかったんだろう。

しかし、なんだか急に時間が空いたような気分だ。

このまま真っ直ぐ帰るか?

いや、薫と一緒だと立ち寄れない場所に行こう、ゲーセンとか。


「ケーンッ」

「うぐッ!」


いきなり背中をどつかれた!

おい、誰だよッ!


「朝稲!」


俺をジト目で睨んでくる。

若干機嫌が悪そうだな、どうしたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ