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夕暮れと幼馴染 1

―――なんなんだ、これは。


唖然と立ち尽くす俺の目の前に広がる光景。


血だまり、いや、これはもう血の海だ。

そこに倒れている幾つもの姿。


同じクラスの虹川、清野、愛原。

別クラスの霜月、杉本。

そして同じ部活に所属する星野、朝稲まで。


「なんで」


呆然と立ち尽くす。

皆、死んでいるのか?


そして夕日が差し込む窓辺に一人佇む影がいる。

その影がクスクスと笑い声を立てた。


「ケンちゃん」

「薫」


俺の幼馴染、藤峰(ふじみね) (かおる)、だ。


「これはね、君のせいなんだよ」

「俺?」

「そう、君がいけないんだ」


薫はひっそりと囁く。

だがその言葉の意味は分からない。

なんでこれが俺のせい?

だって俺は、お前に呼ばれて、それで。


不意に窓から吹き込んだ風がカーテンを揺らす。

辺りに漂う生臭さがいよいよ際立って、胃からすっぱいものがせり上がってくる。


「どっ、どうして」

「君が嘘吐きだから」

「嘘?」


嘘なんか吐いた覚えはない。

何かの間違いだ。

そもそも、どうして俺が嘘吐きだと彼女達が死ぬことになる?

―――お前が殺したのか、薫。


不意に何かが西日を反射した。

ギラリと目を刺す光に思わず瞼を閉じ、次に開いた時には目の前に薫がいる。

同時に鈍い衝撃があった。

腹が、痛い。


なんだこれ?

ナイフ? 血?


俺の腹に。

柄の部分までナイフが刺さって、いる。


「うぐッ!」


不意に力が抜けて膝をつく。

痛いッ、痛い痛いッ、痛い!

あ、熱、いッ。

なんで? どうして?


薫は笑う。

逆光になった姿の、目に涙を湛え、酷く悲し気な表情で。


「ケンちゃん」


しゃがんで俺の腹からナイフを引き抜く。

そして振り上げると、また俺に何度も、何度も、何度も。


「や、やめッ」

「酷いよケンちゃん」

「やめ、ろ」

「嘘吐きっ、嘘吐きっ、君は嘘つきだ」


段々と目の前が暗くなってきた。

薫の涙交じりの声もどこか遠い。

このまま死ぬのか?

嘘吐きって何のことだよ、俺、お前に嘘なんか吐かねえよ。


「約束したのに」


どうしてお前が。

彼女達を―――俺を。


「ケンちゃんの、嘘吐きッ」


体が傾いで何か水っぽいものの上にビシャッと倒れた。

ああ、俺死ぬのか。

あの子達と同じように、薫に殺されて。


でも何でだ?

嘘吐きってどういうことだよ、マジで覚えがない。

勘違いされているのか?

なあ薫、約束ってなんだ?

俺、お前と約束なんて何も―――


分からない。

教えて、くれ、薫。



LOOP:1

Round/ready


「ッうわあああああああああああああああああああああああ!」


叫んで飛び起きた!

息が荒い、苦しいッ、上掛けを握り締めて俺は!


俺、は?

―――あれ?


生きてる。

なんだ、夢?


恐々と辺りを見渡した。

俺の部屋だ。

ここは俺のベッドで、窓にはカーテンが引かれていて辺りは薄暗い。


夢、か。

なっ、なんだよ、夢か!


急に力が抜けてまたベッドにバタッと倒れる。

あー最悪だ、寝汗が酷い。

それにしてもなんて夢だよ、マジで死んだと思った。

それも、よりによって薫に殺されて。

ありえねーだろうが。

アイツは虫も怖くて殺せないような奴なんだぞ、ホント勘弁しろよな。


枕元を探り、携帯端末を手に取って画面を見る。

7時過ぎ、朝だ。夕方ですらない。

はぁ、なんつー夢を見ているんだ、俺は。


だが所詮は夢、切り変えていこう!

部屋のカーテンを勢いよく開ける。

うっし! 今日も清々しい朝だ! おはよう!


俺は、大磯(おおいそ) 健太郎(けんたろう)

高校2年、16歳。

血液型はB型で、好きな食べ物はカレーとから揚げ。


身長は平均より若干上くらい、春に測った時は175あった。

今はもう少し伸びたんじゃないかな、180は無いと思うがそれくらいだ。

だから最近の悩みは主に成長痛、マジで関節や体のあちこちが軋むように痛い、そろそろ勘弁してくれ。


見た目はそれなり、結構イケてるんじゃないか?

なにせ女の子の友達が多いからなあ。

しかも全員超がつく美少女ばかり!

だがまあ、彼女はいないんだが。

いい雰囲気になっても決定打に欠けるというか、俺自身が目移りしちまっているってのもある。

まぁ贅沢な話だな、うん。


しかし今朝の夢、ガチでリアルだった。

刺された場所を確認しちまったくらいだ、夢だから当然傷どころか痣すら無かったんだが。

本当に死んだと思ったよな。

しかも薫に殺されるなんて最低最悪の悪夢だ。

友達の女の子たちまで軒並み殺されていたし、何なんだあの夢? 何か別の予知夢か? 冗談じゃない。


「あーもう忘れよう、さっさと忘れちまうに限る」


ぼやきながらシャワーを浴びに行く。

こうも汗臭いとせっかくの男前が台無しだ、臭いと女子に嫌われるからな。

手間だが頭も洗っておこう、頭皮まで汗でぐっしょり、あーあ。


今、俺の両親は共に長期出張中で不在だ。

昔から留守がちな親で、俺は同居していたばあちゃんに育ててもらった。

だけどそのばあちゃんも一昨年に死んで、今はほぼ一人暮らしのような生活を送っている。

隣の藤峰家のおばさんは専業主婦だからって俺の面倒も何かと見てくれるが、その好意に甘えるのもどうなんだ。

やっぱり早く自立しないとだよな。

あと、迷惑をかけないようにしないと。

だから俺は家に女の子を連れ込んだりしない、親父とも約束させられている。

エッチは相手の人生の責任を取れるようになってから。

―――まあ、まず彼女を作らないとエッチも何もないんだが。


シャワーを浴びて、洗面所で髪を乾かしていると、玄関からチャイムが聞こえた。

パンツ一丁のままでモニターを確認しに行く。


『ケンちゃーん』


うおっ、薫!

―――今朝見た夢の光景が脳裏に甦ってくる。

いや、あれは夢だ。

改めてなんつー夢を見ちまったんだろう、はあ。

こんなに可愛い薫が俺や皆を殺す? あり得ねぇーッ! 今すぐ地球が爆発するくらいあり得ねーよ!


「薫」

『あ、おはよう! ちゃんと起きてたんだね、偉い』

「おはよう、あーその、悪い、俺今パンツしか穿いてなくて」

『え? ちょっともう! 早く服を着て!』

「ごめんごめん、少し待ってろ、すぐ行くから」

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