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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

これが僕の仕事

掲載日:2025/04/15

「だから言ったのに。」

彼の声が聞こえてくる。

「辞めておいた方がいいって。助言したよね?」

確かにそうだ。あの時彼は確かにそう言った。

しかし、私はそれを拒否した。自分の意思で選んだことだったはず。そのはずだ。

「・・・」

無言で彼は私の胸に突き刺さった刀を抜く。

私は支えを失って、力無く倒れた。

「が、はっ・・・」

ひゅーひゅーと声にならない音が漏れ出る。

ゆっくりと、辺りを私の血が染めていく。

それより早く私の体温と意識を奪っていく。

ああ、私は死ぬのだ。やりたいことなどまだ腐るほどある、はずだ。

目の前に急速に死が近づいていく。

もう私の瞳には何も映ってはいなかった。

「じゃあね。」

私が最後に聞こえ感じたものは無機質な彼の声だった。



数日前

「おすすめはしないっすよ?いや、マジで。」

俺はそう、目の前の依頼人に対して言った。

いや普通に考えたら仕事の依頼持ってきてくれてるのにそれを断るって変な話ではあるんだが、まぁでも嫌な思いはお互いしたくないじゃん?

依頼が次から次へと生えてくる超人気者ならまだしも、俺には依頼はほとんど来ない。

だから普段はバイトしながらのんびり生活している。

つまりだ、こうして依頼を持ってきて来る人ははっきり言って超ありがたい訳なの。

でもそれを断ってるの。何故だか分かる?

「人を殺してほしいって依頼は、結局禄なことにはならないんすよ。」

「は?」

目の前の女性は口をぽかんと開けて、目を若干釣り上げてる。

分かりやすいぐらい「何言ってんだこいつ」みたいな顔してる。

いやそりゃそうだろうな。なんで人殺しが人殺すのはよくないですよって言ってんだって話ではある。本当にそう。

「あなた、人殺しなんでしょ?依頼を受けて人を殺す。それがあなたの仕事なんでしょ?」

「おっしゃる通りで、嫌本当に。」

「だったら・・・!」

あーあーみるみる機嫌を損なっていく。誰のせいだ?俺のせいか。

「まぁまぁちょっと落ち着きましょうよ。声のボリュームも小さめにね。」

両手を使ってジェスチャー。声だけよりこの方が伝わりやすいからね。あんまり目立つのは良くないのよ、こういう仕事してる人は特にね。

彼女は怒りを押し込めるようにぷるぷる震えていた。うん、かわいい。たぶん。

「失礼します。」

「はいはいー。」

タイミングよく?悪く?一人の女性が俺たちに話しかけてきた。

目の前の女の子はギロッと擬音が出る勢いで横の女を睨めつけていた。

視線に気付いているのかいないのか、張り付けた笑顔で女性は話始めた。

「お待たせしました。こちらベルギーチョコのパフェです。」

「ありがとうございます!!」

ファミレスで騒ぐのは良くないよね。でも、パフェは別なのだたぶん。

俺のパフェをテーブルに置いて、一礼したらそそくさと帰っていった。

「なんでパフェなんか頼んでるのよ!」

「入店したら一品ぐらい注文するのは礼儀でしょ?」

「あんたねぇ・・・!」

あー怒ってる。こわいなぁ。

プルプル震えてるがここがファミレスである為必死に怒りを押し込めながらこう言った。

「あんた、人殺しなんでしょ?いちいちマナーとか気にするような性質じゃないでしょ?法律すら守ってないんだから。」

「んー、それは確かに?」

言われてみればそうだわ。俺、犯罪者じゃん。

でも気にするぐらいいいじゃん。俺には俺の物差しがあるのよ。いや、それでも法律は守れって話か。

「あーおいし。」

「あんたねぇ・・・!!!!」

今日の教訓は「パフェはおいしい。」「人の話にはそこそこ合わせた方が諍いを生まなくてよい。」



イライラしている彼女の前で特に急ぐこともなくパフェを食べ終えた俺は彼女に改めて聞いてみた。

「で、本当にいいの?」

「何が?」

「殺していいの?その人」

「私は最初からそう言ってる。」

「依頼、ってことでいいのね?この世界の相場知ってる?結構するよ?」

俺も無給で働くつもりは一切ない。法律にも道徳にも背いてるんだ。金銭面でおいしい思いしないとこんなのやってられない。

「まぁでも、失礼なこと言うけどさ、そこまで金持ってないでしょ?」

「あんたはさっきから、人の神経をとことん逆なでするわね!」

「でも合ってるでしょ?いいじゃん、まけてあげるからさ。」

破産させるまで毟りとるような真似はしない。やさしさも兼ね備えてる(西谷相談所)を今後ともご贔屓にお願いします。

彼女の顔をチラッと見てみると言い返したいけど図星だから何も言えないみたいな顔してた。たぶん当たってる。俺の勘は当たるんだ。

だから正直今回の依頼に乗り気は一切してないんだけどなぁ。

「うだうだ言い合っても仕方ないからさ、本題に入るんだけど誰をやればいいの?写真とか名前とかの個人情報なにかある?」

「この、男を、殺して。」

そう言いながら一枚の写真を渡してきた。

わざわざ現像して持ってきてるのは好感が持てるな。最近は写真を持つことが珍しくなってきてるからな。

俺は写真を受け取り、まじまじと男の顔を眺めた。

ハンサムな男がそこには映っていた。人当たりの良さそうな感じの、俺とは住む世界が根本から違うような人だった。

写真を見ただけでは当然だけど、この人を殺したい理由が分からない。

「何があったの?」

「殺すだけなら、そんなこと聞く必要なんてないでしょ?あなたは彼を殺すだけでいい。それであなたにはお金が入る。それでいいじゃない?」

「えー。」

「なに?必要ないでしょだって。」

「単純に気になるだけではある。」

あ、これもダメな感じ?めっちゃ怒ってる。そら怒るか。

人の心には気安く踏み込んではいけません。こうして反感を買います。皆さんは気を付けましょう。

「そうだなぁ。じゃあクーポンみたいなものだと思ってくれよ。」

「はぁ?クーポン?」

「そう、クーポン。普段より破格の値段で依頼を受けるからその代わりに彼と何があったか教えてよ。」

「なっ。」

「教えてくれないと相場通りの金額にするけど?それでもいいなら言わなくてもいいけど、払える?」

「人を!下にみて・・・!!!」

そら見るだろ。あんたと俺は所詮金づるなんだから。別に依頼を受けなくても最悪いいわけで。お金には困るけどね。

ただ俺としては何故依頼をするのかとかは知っておきたいんだよね。なーんの理由もなく人を殺したいなんて思う人はいない、はずだ。

こうして人に依頼するには自分の手を汚したくないとか、自分では出来ないとかそんな理由が含まれてる。快楽で人を殺める人は自分で勝手にやる。

だから気になる。俺は、好きで人を殺してる訳ではないのだ。極力人は死なない方がいい。

説得力なんぞ一切ないけれど、俺はそう思う。だから聞いてる。


「元カレよ・・・。」

俺が黙りこくってると、彼女は諦めたかのように口を開いた。若干の怒気は含んでいるのが最後の抵抗なのかもしれない。

「元カレ、ねぇ。」

なるほど、一番ありがちなやつが来ました。


その後は彼女から話聞いて、相場よりかなり安い金額での依頼として受けた。

よくある痴情のもつれ、婚約手前まで行ってたけど彼氏の不倫が発覚して喧嘩別れ。

向こうは仲良く婚約してるとのこと。はぁ、面倒くさい。

人を好きになると碌なことがないね。でもなんで面倒だろうね。好きが怒りに変わるやつに限って、人のこと好きになりがちなんだよなぁ。不思議だ。

人間って生き物はそういう風に出来ているのかもしれない。なんて残酷で酷くて、醜い生き物なんでしょう?


「なぁ、あんたもそう思うだろ?」

「ひっ・・・!」

「あ、お邪魔してます。」

とある一軒家のリビングに置いてあるソファでのんびりくつろいでいたら、家主が帰ってきたから気さくにあいさつをした。

若干怯えてらっしゃるけど、抜き身の刀持ってたらそりゃ怖いよな。分かるよ、うん。

「あ、あんた、誰だ?」

「初めまして、俺、人殺しです。」

「ひ、ひとごろし?」

「すいません、特に恨みはないんですけど、殺します。」

そう言った後持ってた刀を振りぬいた。途中ちょっとなんかひっかかった?感じもしたけど綺麗に振りぬけました。

ごめんね、こうした方が痛くないんだ。何度もぐさぐさするのとか好きじゃないしね。

刀についた血を振り落として、周りをぼーっと見渡す。

生活感がある部屋の中にはさまざまな物が置かれている。

いつからここに彼らは住んでいるんだろうね。俺は気になったけど、もう一人の方が帰ってくる可能性を考えてとっとと居なくなることを選択した。

「あーもしもし。依頼、完了しました。金、ちゃんと持ってきてくださいね。」


「本当にやったの?」

「えーもちろん、嘘はついてないですよ。これでもプロなんでね。」

翌日、前回も使ったファミレスでのんびりパフェを食べながら話していた。

前回の時より彼女はイライラはしていない様子だった。

それもそうか、今回の報告は彼女の願いが叶ったということでもある。

「それでちゃんと持ってきましたよね?」

「えぇ、もちろん。」

彼女はテーブルの下から隠していたように持ってきていた封筒を俺に差し出した。

中に入ってるものを確認する。

こんな場所で取り出す訳にもいかないので中を覗くだけに留めるが、確かに札束が入っていた。

今回の依頼料は破格の値段でかなりお安くなっている。それでも札束になる程度の金額ではあるんだが、しっかりと持ってきてくれたようだ。

(んあ・・・?)

・・・

まぁいっか。

「確かに。これで今回の依頼は終了になります。」

「えぇ、これであなたに会う必要はないし、連絡を取ることもなくなる。」

「そうなりますねぇ。」(ありがたいことに。)

彼女は恵比須顔で席を立った。

「それじゃ、さようなら。人殺し、もう会うこともないでしょうけど。」

・・・・・・

そうなるといいんだけどなぁ。


私はファミレスを後にした。

出来るだけ速足で店を後にする。

きっと今の私は張り付けたような笑顔を浮かべているだろう。

ようやく願いが叶った。あの人殺しは多額の要求をするだけはあってしっかり仕事を果たしてくれたようだ。

これほどうれしいことはない。あぁ、死ななくてよかった。死んでくれてよかった。

おかしいと思っていたのだ。私は生きていくのだ。

彼に裏切られた時、死ぬほど辛かった。一時は死ぬことを考えたくらいだ。

でもそれっておかしいじゃないか。何故苦しんでいる私が死ななければならない。彼が居なくなる方がいいではないか。

そう、これは自衛。私自身を生かす為の自衛手段。

多額のお金を使ったけど、私はこうして生きている。

これからも生きていける。あぁ、私は生きている。

いい心地だ。本当によかった。

「ふ、ふふ・・・。」

口角が勝手に上がっていく。私の意思などお構いなしに。でも、私の感情は表情と連動していた。

今日はいい日だ。

さようなら憎き男、そしてさようなら恐ろしき男。

もう彼らに会うこともないだろう。



「んで?誰の差し金?」

俺は足元でピクピクと這いつくばっている男を見下しながら質問を投げかけた。

いや、質問ではないな。訂正訂正。

両足を切り落としているから、這いつくばってピクピクするしかなくなっている男に問うた。

「誰の、差し金だ?」

美味しく出来た焼き豚を切り落とすように太ももに刃を当てる。

「ぐ、んぐ・・・!」

綺麗に切れましたっと。

それにしてもすごいな、俺なら泣いちゃうよ。よく声出さないなぁ。

でもそれって俺にとっては困るんだよね。だって、誰が俺を殺そうと思ったのか聞かないとさ。

こんな仕事をしてるんだ。人に恨みを買うのは日常茶飯事。ある意味職業病でもある。

ん?使い方合ってるかこれ?まぁいいや。

ついでとばかりにもう片方もキレイに切り落としてみた。焼き豚のようなキレイな断面にはならないけど、我ながらうまく切れてはいる。

骨が邪魔なんだよなぁ。まぁ人間だししょうがないか。

ピクピクしてる物体を足で蹴ってどけながら、今後のことを考える。

誰が俺を殺すように依頼をしてきたんでしょうか?

日頃からこういうことはありますが、だからこそ我々は対策をしています。

同業者に変に恨みを買わないようにだとか、依頼の時には依頼者のことをよく調べたりとか。

「・・・あ。」

思い当たる節があった。ああ、彼女は確かに、こういう短絡的な行動を取りそうだ。

私は天才だ!!とか思いながら。

俺は蹴り飛ばして後ろに転がっている音の出る物体を見つめた。

赤黒く染まりながら、徐々に一部青白くなっていくその姿を見て「可哀そうにな。」って思った。

物体に近づいていく。ひとこと伝えた。

「さようなら。」とだけ。


数日後

「おまたせしました、ベルギーチョコのパフェになります。」

「ありがとうございまーす!」

今日もパフェを頬張る。生クリームの甘さとチョコの甘さのハーモニー。なんて難しいことは一切分からない。

甘い、美味しい、それでいい。

この国のごはんは美味しいのだ、たいていどこに行ってもそうなのだ。

「・・・話を聞いてますか?」

「ええ、パフェの次に大事なことなのでもちろん聞いてますよ。」

目の前でイライラしている女性は必死に怒りを押し込めながら、それでも冷静に話をしようと務めていた。

「あなたが言っていたこと、本当なんですか?」

「ええ、もちろん。」

彼女に伝えたことは至極簡単。

あなたの婚約者は元カノに雇われた殺し屋の手にかかりました。(目の前にいます。)

そして別の殺し屋を雇って、その殺し屋を始末するように仕向けました。

あなたが望むのであれば多少お金は頂きますが、婚約者の仇を取りますよと伝えた。

「・・・。」

彼女は眉間に皺を寄せながらどうするべきか考えていた。

「その様子だと、すぐには答えは出なさそうですね。後日連絡頂いても大丈夫ですよ?」

「いいえ、大丈夫です。今回のお話、聞かなかったことにします。」

「ほう。」

お金儲けの話が無しになっちゃった。いや、まだ決まったって訳じゃないけど。

「理由を、聞いてもいいですか?」

「理由?ですか。」

彼女は深く息を吸い、一つ一つ言葉を選んでゆっくりと話し始めた。

「そうですね。まずいかなる理由があっても人を殺すのは良くないと思います。それを仕事としているのも私には理解出来ません。それをあなたに言ったところで意味なんてないんでしょうけど。」

「あなたは凄いな。」

目の前にいるのが人殺しだと知った上で、やる意味などないと言い切ってる。

怖いくないのか?いや、そんなはずはない。生きている中で死を感じる経験なんてそうはしていないはずだ。

でも、彼女の中には俺を使う選択肢が存在していない。これじゃ俺という商品を売り込むことは絶対に出来ない。

「・・・。」

いい女だな、とどうでもいいことを思った。

「凄い?仰っている意味がよく分かりませんが。」

「すいません、単なる感想のようなものだと思ってもらえれば助かります。一つの誉め言葉です。」

「はぁ。」

「一つ、質問してもいいですか?」

「はい、なんでしょう。」

俺は彼女に少なからずの興味を持った。持った意味はなんとなくでしかないけれど、それでもいいのだ。

正直何を聞くと言っても特に意味はないのだろう。俺はこの時何かを聞きたくて声を出した訳ではなかった。

ただ気付けば声に出ていて、俺は何か質問を考えなければならない状況になっていた。

こんな時何を聞くべきなのか、普段から人と密に関わるわけではない俺にとって質問という行為は難題であった。

店内の話声が気になりだしたころ、俺は思いついたことを聞いた。

「もし、目の前で大事な人が殺される状況に出くわして、あなたに復讐のチャンスがあるならば、あなたは人を殺しますか?」

ああ、あーあ、なんでこんなことを聞いたのだろう?

聞いたところで答えなんて分かり切ってるだろ?この質問は意味のないものだ。

呆れたものだ。自分自身に、恥ずかしくなった。

先の質問を撤回しようとしたが、それより先に彼女は答えた。

「その時は、殺してしまうと思います。」

「・・・。え?」

さっきと違うではないか?殺さないのではないのか?

「きっと、そうなると私は感情を抑えきれないと思います。人間とは、弱い生き物です。」



その後、特に会話らしいものはなく俺たちは別れた。

彼女は人として普通の人なのかもしれない。俺と違って。

目の前に仇が出てくればそれは腹が立つし、殺意も湧いてくる。

可哀そうなのは、目の前でパフェ食ってた男がその仇だということだろう。

神様は残酷だ、いや違う。この場合は俺が残酷なことをしたんだ。

人殺しをして、傷ついている人物にコンタクトを取った。ひどい男だ。

「ちょっとした、小遣い稼ぎのつもりだったんだけどなぁ。」

結果は大失敗だ。誰にも魅力もメリットもない話をして、パフェ食って解散。

無駄な時間だった。

・・・

本当にそうか?

俺にとってはいい時間だったのかもしれない。彼女と出会えた幸福は少なからずあった。

そうだと言いたい。


「なんで・・・。」

「なんでって、仕事の報告は大事でしょう?普通のことじゃないですか?」:

「嘘だ、あんたは・・・・!」

「そんな幽霊とか化け物を見たような反応しないでくださいよ。俺だって傷つきますから。」

その日の夜、俺は小さなアパートを訪れていた。

床にペットボトルとか出し忘れたゴミ袋などが散乱している汚らしい部屋。

あんまりいい匂いはしないベッドに腰かけている。

座り心地はあんまりよくないけど、他に座る場所なかったししょうがない。

数分家主を待っていたら、彼女はやってきた。

俺の顔を見るやいなや、驚きと恐怖で引き攣った顔をして、まるで信じられないようなものを見るような目で俺を見ていた。

「報酬は、用意していたんですか?俺としたことが確認不足でした。」

そう言い、俺は封筒を彼女の足元に放り投げた。

「中身、お金入ってなかったんですよ。」

店内で中身を確認しなかったが、彼女はお金を誤魔化していた。

数万足りないとかなら数え間違いとか、おっちょこちょいで済ませてあげないことはないけど。

残念ながら彼女は最初から俺に金を払う気はなかったらしい。

「全部偽札でしたよ?これじゃ商売になりませんし、あなたは客ですらない。」

「しかし、もう依頼は完了している。あなたには俺に金を払う必要がある。義務と言っていい。」

ゆっくりとベッドから腰を上げる。

「ですが、残念ですね。本当に残念だ。こんなことをされちゃあ・・・。」

持ってきていたゴミ袋を封筒と同じように彼女の足元に放り投げる。

封筒とは違い重くて鈍い音が鳴る。

「ま、まさか・・・。」

「まさかって、俺がここにいる段階で分かるでしょ?その袋の中身。」

みるみる顔が青ざめていく様子を、俺は特に面白い訳でもないけれど笑いながら見つめていた。ああ愉快愉快。

「その袋の中身に変わって報告すると、お仕事失敗しっちゃったそうです。誰にでもね、失敗は付き物ですから。でも残念だ。挽回の機会は与えられない。」

ゆっくりと、一歩一歩彼女に近づいていく。

「悪いんですけど、俺はそこまで優しくないんです。」

「い、いや・・・!」

「いや、ですか。あなたの元カレの方が嫌だったと思いますがね。」

そう言って、俺は彼女の胸に刀を突きさした。

「が、がはっ・・・」

今回は急いでない。じっくりでもいい。

少しでもいい、死ぬ間際に自分の愚かさを思い知らせたっていいだろう。

「だから言ったのに。」

目の前にある彼女の表情が絶望へと変わっていく。いや、元から絶望はしていただろうがそれを受け入れられなかったのだろう。

バカだから。理解に時間がかかるんだろう。

「辞めておいた方がいいって、助言したよね?」

愚か者は自分が愚かだと認識出来ない。だからこそそれが冴えたやり方だと勘違いし、ヨロコビながら泥沼に沈んでいく。

いつか自分の首を絞め、こうして死ぬことも理解出来ずに。

俺は無言で刀を引き抜く。支えを無くした彼女の体は叩きつけられるように倒れこんだ。

肺を刺した影響で呼吸もままならないんだろう。耳障りな呼吸音を続けている。

(いかなる理由があっても人を殺すのは良くないと思います。)

本当にその通りだな。

「か、はっ・・・。」

いい加減、聞き飽きた声を黙らせるように彼女に別れの言葉を伝えた。

「じゃあね。」


数日後、バイトをのんびりしながら平和な日々を謳歌していた。

やっぱり平和が一番だ。小鳥のさえずりが聞こえるとかそんなのどかなもんじゃない。

人の足音とか車の音、生活にありふれている音の数々、それでいいんだ。

「あー、こうした日々が続けばいいんだがなぁ。」

ジージー

胸ポケットに入れていた携帯が振動する。

「はい。」

「あ、あのぅ依頼を、したいのですが・・・?」

「依頼ってのは、どういったご依頼で?」

「その、殺してほしいやつがいるんです。」

「・・・わかりました。」

平和ってのはどこにあるんだろうな。

僕は重い腰を上げた。

さぁて今日も仕事だ。

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