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本当に恥ずべきこととは④

いつもお読みいただきありがとうございます。

「おい、勝手な行動で仲間を危険な状況に追い込むなんて、本当にお前は英雄志望なのか?」


 まるで信じられないといった様子で声をかけてきた青年と、彼に同意するように無言で頷いたもう一人の青年がいる。


 彼らとは試験が始まる時に学園のシステムによって自動的にパーティとなったのだが、子爵の生まれということもあってか僕のような平民のことを下に見る発言が度々あり、開始早々からパーティとしてもひとりの人間としてもあまり馴染めていない。


「ごめんなさい。少し緊張してて‥‥‥」


「いいか? この試験では恐らく、個々の能力値を基にパーティを組まされているんだ。そして英雄候補と名高いギヴァー様がいるということは、当然足手まといもいることを承知の上で皆は行動をしている。」


 最初に話しかけてきた青年、アンデッグ・スムグは、話の最中にちらりと好意的な視線を彼女の方へと向けると、他のモンスターを索敵している様子に少し苛立った表情をする。その後、まぁ、いいと言ったように視線を外し、あえて名を出さずに僕に向けての悪意ある話を続ける。


「だからこそ、一人はみんなのためにみんなは一人のために()()()()()()()ように行動しなくてはならない」


 今度は僕に対しての発言だと言わんばかりに目を向けて話し続ける。


「だというのに、だ‥‥‥。あんな雑魚モンスターの簡単な罠に掛かるどころか、情けない声で助けを呼ぶとは‥‥‥」


 ・・・・・・あの無様な姿を見られていたのか!?


 羞恥から顔が熱くなって俯いていると、男性とも女性ともとれる声が頭上から聞こえてきた。


「試験で緊張をするな、というほうが無茶な話じゃないかな? それにミスをすることは誰にだってあると僕は思うけどね」


 そう言いながら勇気づけるように僕の肩に手を置いたのは、同じパーティメンバーのアンカム・スキニールだった。華奢な体型に対して短く整えられた金髪は襟足だけを伸ばしているので、より中性的な印象を強める。


「‥‥‥!! 確かにそうだが、あんな簡単な罠に掛かるようではこれから我々への負担が増えるのは事実だろう!!」


「君の目指す英雄像がどういったものかはわからないけど、自分の負担を減らすために仲間を貶めるような発言をすることはこの場において正しい行動なのかな? それに‥‥‥」


 アンカムは一息置いて先程とは打って変わってにこやかな表情をアンデッグへ向けると、明確な敵意を含んだ言葉を放った。


「助けられる状況下にいながら、それを笑って見過ごす君たちの方こそ、()()()()()なんじゃないかな?」


 「「‥‥‥!!」」


 二人は酷く不愉快そうに顔を歪めて、ぶつくさと何かを呟きながら、その場を離れていった。


「あ、ありがとうございます。スキニールさん」


「いやいや、大したことはしていないよ。ところで、さっきは随分と危ない状況だったけど大丈夫かい? スヴェルド君?」


「はい、少し転んだくらいなので特に問題はないです!!」


 アンカムはそれなら良かったと笑顔で返すと、先に進んでいる彼らの跡を追おうかと言いながら歩き始めた。

 僕は頷き、彼に続いて歩き始める。


「ところで、スヴェルド君はギヴァーさんのことが好きなのかな?」


「うぇ!?」


 思いがけない問いに素っ頓狂な声を出してしまう。

 そんな僕を見て、アンカムは黒手袋を付けた右手を口の前に持っていきクスッと笑った。その姿は余りにも可憐な少女のようだった。


「やっぱりね、手を取った時の彼女に向ける視線は憧れだけじゃないなって、思っていたんだ!!」


 顔を赤くして慌てふためく僕を置いて、アンカムは読みが当たっていたことを誇らしげに語るとその流れで会話を続ける。


「実際に彼女は誰もが振り向く美人だし、加えて貴族の娘であの年齢で炎系統の上位魔法【爆裂(エクスプロージョン)】を習得しているんだから、まぁ惚れない理由はないよね」


 アンカムは改めて彼女の圧倒的なステータスを口にすると、若干引き気味な顔をする。


「まぁ・・・・・・、はい」


 納得する所はあるけど彼女の勇姿を思い出し、空を見上げて言葉を紡いだ。


「でも、それだけじゃないんです。彼女の凄さは、そんな表面上のものだけではないんです」


 あの日の出来事を思い出したからこそ、彼女に対する気持ちを整理できたのだろうと思いながら続ける。


「彼女は、どんな状況でも絶対に見捨てないで助けてくれる人なんです」


 そう、僕が二度も助けらたからこそ言えるのだ。照れくさそうに話す僕に対して、アンカムは少し思うところがあるような顔をしていた。


「意外と彼女のような人間こそ、その辺のことは‥‥‥いや、よしておこう」


 アンカムはそれ以上、話をしなくなった。

 少し微妙な空気が流れたが、それを物理的に変えたのは少し目の前を歩いていた、青年の叫び声だった。

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