表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

月夜譚 【No.301~】

祭りの夜 【月夜譚No.309】

作者: 夏月七葉

 お囃子の音色に誘われて迷い込んだらしい。世界の境界が曖昧になり易い夏の時期には、偶にあることだ。

 だからさして気にしなかったし、気にするつもりもなかった。

 繋いだ手がぎゅっと握られて、彼は下を見る。まだ幼い大きな瞳が、不安に揺れてこちらを見上げていた。彼は黙って不器用に幼子の頭を撫で、再び前に歩き出した。

 周囲は明るく、行き交う影も多い。しかし一目見れば、そこは人の世ではなく、影も異形のモノ達であるということが判る。

 祭りの夜は、人の子も異形も関係ない。楽しければそれで良い。そんな賑やかさが周囲の空気を躍らせる。

 しかしながら、異形に囲まれれば人の子も恐ろしいだろう。彼の手を握って離さない幼子も、怖々と辺りを見回している。

 彼は足早に異形の間を通り抜けて、暗がりにある鳥居の前に立った。そして幼子の手を離し、そっと背中を押す。

 幼子は数歩進んで、振り返った。首を傾げるその顔に、さっさと行けと彼は手を振る。

「……ありがと」

 最後に初めて笑顔を見せて、幼子は鳥居の下を駆けていった。

 幼子の笑顔が昔の記憶と重なる。それを振り払うように、彼は首を振った。

 あれを助けたのは、ただの気紛れだ。深い意味はない。

 彼は踵を返し、祭りに戻った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ