第二話 Knave 3/7
しばらくここで息を殺していよう、と、僕は画策した。ここならしばらく見つからないはずだ、と。
すぐに、ざり、と、伊藤の靴が砂利を踏む音が聞こえた。
──追いつかれた。
しかし、僕は必要以上に焦るようなことはしなかった。伊藤がここに居る僕を見つけるのに、少なくとも数十秒はかかるだろう。
この場所には壁も角も、路地もない。ただ車が並んでいるだけの、普通の駐車場だ。つまり伊藤から見れば、どの車の陰に僕が隠れているか、予想もつかないはずだ。
全ての車が僕の盾であり、伊藤にとっては全ての車が怪しく見える。さすがの伊藤も慎重にならざるを得ないだろう。
──と、そう安心したのも束の間だった。
静かに息を整えていた僕の足元で、何かが鳴った。けたたましく、まるでビニール袋を破くような音が響いた。
足元を見ると、そこには一匹のネズミが居た。僕の顔を見て、必死に喉を鳴らしている。
「オイ、黙れよ……!」
言いながら、僕は気付く。それは普通のネズミではなかった。いや、もっと言うならば、見覚えがあった。
それは、僕が具現化したネズミだった。
今日の昼休み、僕が校舎裏で具現化し、リスと一緒に逃がしたネズミだ。どこをどう通ってきたのか知らないが、いつの間にか教職員駐車場まで来ていたらしい。
僕はため息をついた。それと同時に、目尻に涙を溜めた。
逃げようとも思ったが、既に遅かった。ネズミが鳴き始めた瞬間から、どんどんと近づいてくる足音が聞こえていた。
僕が現状を理解した時には既に、目の前に伊藤が立っていた。