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文字戦争  作者: 逢良イト
15/17

第三話 Duck 3/4

バラード調の目覚ましで起きる。

食卓のパンをかじり、麦茶で流し込んでから駅へ向かう。

1番ホームで湘南新宿ラインに乗り、横浜駅で下車する。


そこから学校までは目と鼻の先。

いつも通りだった。いつも通りの朝。いつもの日常。

教室に入ると、7時49分。相変わらずギリギリの時間だが、少しでも多く寝ていたい性分なので、仕方がない。

「よ」

「おはよ」

ダイキとヨシアキが声をかけてくる。僕も「よっす」と言い、自分の席についた。これもまた、半年ほど繰り返してきた日常だった。


そんな僕の日常に、非日常が唐突に紛れ込んだ。


「──えーっとね、転校生が来てるんだよね」

池内先生が教室に入ってきて、真っ先に発した言葉がそれだった。

教室は途端にざわつく。当然だ。7月に転校など、そうそうある事ではない。教室の後ろから耳を傾けてみると、「イケメンかなぁ」という女子の声と、「可愛い子であってくれ」という男子の声が入り混じっていた。

「全員、揃ってるよな? じゃあ、先に紹介しちゃうか」

池内先生は落ち着いた口調でそう言った。

「じゃ、鴨川さん。入って」


結論から先に言えば、転校生は女子だった。

男子が小さく「おお……」と言うのと同時に、他の女子も嘆息を漏らすのが聞こえた。

理由は至って単純だ。彼女が、この世のものとは思えないほどの美少女だったからである。彼女の出で立ちを表すには、『お人形さんみたい』という言い方がピッタリだろう。

「鴨川ダイヤです。初めまして」

弾けるような声で彼女はそう言い、皆を絶句させた。口を半開きにしている者、彼女をじっと見据えている者、神に感謝している者。そして、僕。


池内先生が

「じゃあ、鴨川さんは一番後ろに座ってもらっても良いかな。うん、岩橋の後ろ」

と言うのもろくに聞こえず、僕は、鴨川ダイヤが僕の横をすり抜け、僕の後ろの席に座るまで、彼女の事をじっと見つめていた。否、思わず見つめてしまったのだ。


鴨川ダイヤは、背が低かった。

鴨川ダイヤは、目が大きかった。

鴨川ダイヤは、鼻が小さかった。

鴨川ダイヤは、肌が白くて綺麗だった。

鴨川ダイヤは、目の下にほくろがあった。

鴨川ダイヤは、髪が短めのボブだった。

鴨川ダイヤは、良い匂いがした。

鴨川ダイヤは、髪が黒かった。


まるで妄想が現実になったような、奇妙な一目惚れだった。今までずっと好きだった人と、初めて出会ったような感覚だった。

より端的に、そしてシンプルに言うならば、鴨川ダイヤは僕のタイプの女性そのものだった。

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