雪山の山荘で、俺の計画が失敗したのは『暖炉』のせいでした
窓の外に広がる白銀の世界を眺める振りをしながら、ソファーで眠る彼女に意識を向ける。
今、雪山の山荘に居るのは俺と彼女の二人だけ。
全て計画通りだ。
俺はコーヒーを飲みながら、彼女が目覚めるのを待った。
「んっ……あれ?みんなは?」
「おはよう。今買い出しに行ってるよ。俺はジャンケンに勝って留守番中」
これは嘘。
友人は皆協力者だ。
「ごめん、私が寝てたからだよね?」
「気にしなくていいよ。俺もスノボ滑るの久しぶりで疲れてたから」
これは本当。
ちょっと張り切りすぎた。
「私もコーヒー飲もうかな」
俺が持っているカップを見て彼女が言った。
「了解、コーヒー淹れてくるから休んでて」
備え付けのキッチンで手早くコーヒーを淹れる。
彼女が寝起きに飲みたがる事は分かっていたから、事前に準備していた。
彼女の小さな手にカップを手渡す。
「ありがとう」
「どういたしまして。それにしても雰囲気のあるコテージだね。海外っぽい」
「そうね。海外っぽいかも?」
彼女が同意してくれたので、俺は調子に乗って余計な事を口にした。
「あとは暖炉があったら完璧だな」
すると彼女は首を傾げて言った。
「ダンロって何?」
そんな事を聞かれるとは思っていなかった。
普段頼りにしている知識の泉は、雪山では電波が届かずテーブルの上で置物と化している。
暖炉といえば……。
「雪山の山荘とかで殺人事件が起きる様なドラマによく出てるけど見た事ない?」
「ひっ、さ、殺人?!ご、ごめんなさい、私あまりドラマは観てないの」
彼女は目を見開き声を振るわせ、持っていたカップをテーブルの上に置いた。
ヤバイ、例えを間違えた。
警戒させてしまった。
暖炉ってどんな物だっけ?
「えーっと、暖炉は薪に火をつけて部屋を暖めるんだよ」
「部屋の中で火をつけるの?!」
彼女はソファーの端に座り直し、物理的に距離が開いた。
更に警戒度が増した。
焦れば焦るほど上手く言葉が出てこない。
彼女を安心させるには……。
「ほら、サンタクロースが家に入る時に使う煙突がついてるやつ!」
「あぁ!サンタクロースの家屋侵入経路ね?」
何とか分かってもらえたけど、彼女の例え方も物騒だった。
結局この後も彼女の警戒心は解けず、友人達が買い出しから戻り、俺の計画は失敗に終わった。
後日、適当に説明した事を反省して、暖炉について調べた結果を資料にまとめて彼女に提出した。
文末に『あなたが好きです』と書いてみたけれど、彼女は読んでくれただろうか……。
読んでいただき、ありがとうございました!